186話 洞窟の中、暴かれていた機密と隠したままの私の秘密
一度話をやめる。
私が黙れば、洞窟の中はシンと静かになった。
この洞窟は不可思議な魔法の巣窟。
外の音も光も届かない、神聖な空間。
その場所で、ディオメシア王家の秘密と残酷を話すことになるとは何の因果か。
専属使用人の三人は顔を見合わせる。
当然だ、これを簡単に受け入れられるわけがない。
(これは「嘘つき」と言われても仕方のない話ですからね……)
死人が生き返るなんて「魔法」のようなこと、信じられるわけが
「そういえば似たようなことがありましたねぇ。ほら、コマチを奪還した後。あの時も側近が居ましたし、同一の儀式と考えるのが妥当でしょう」
「エラが血まみれで死んでたのに翌朝フツーに生き返ってたやつか?」
「あと、エラ嬢が遠くから射撃された件。胸貫通でド派手に死んでましたし、俺が手を尽くしても無駄なのに翌日普通に無事だったので鳥肌が立ちましたよ」
「側近がエラ連れてっちまったし、ディアーナだけついていったよな」
「あの頃からディアーナ様は秘密主義になられた気がします。何か隠しているとは思いましたが、こういった事情だったとは」
「でもなんでわざわざ隠すんだよ。蘇生できるなら強みなのに」
「原理は何でしょうか。側近の口ぶりからして『祝福』という名称の忌まわしき伝統のようにも思えます」
「王宮教会の規格外の空間、月光国の広すぎる地下世界、このスラム特別保護区の青い炎と洞窟。この世には説明がつかないものがあることは俺も理解してますし、原理だなんだを考えるのは無謀では?」
あれ、なんだか私抜きで話進んでます?
おかしいですね、この情報はディオメシア王族内の最重要機密。
考えられるとすれば、王宮内で王族の人死にが出て蘇生のために地下空間に行ったということでしょうが……
あの空間は側近にそれはそれは厳重に管理されているというのに、見たんですか?
え?
何してるんですかこの人たち。
「あの、もしかしてご存じでした?この『王家の祝福』」
「明確にはわかりませんでしたが、蘇生された人間を見ました。エラ嬢は2回王宮内で死に、2回蘇生したことになります」
「え?エラ嬢は蘇生されているんですか?」
「たぶんな。あんときディアーナが側近に何か吹き込まれたはず……そうじゃなくても死人が生き返るなんて言いにくいし」
「俺達も一緒に見たんですから、言ってくれればよかったのに。ディアーナ様は変なところで気を遣う」
「おかしいですね、そんなこと『前は』なかったのに」
エラ嬢が?
おかしいですね、あの彼女が二回も死ぬなんて『私は知らない』ですが。
これもズレでしょうが、今生きている情報は入っているし支障はないと判断しよう。
むしろ、話が早くて助かった。
安心して話ができるというもの。
「ディセルさんあなた、今『前は』って言いましたかぁ?なんです、何かご存じなのに言わないのは俺らを信用できないと言いたいのか」
「そういうわけでは。では説明しても?王家の祝福ですが……」
「その前に一個だけいいか」
アテナさんが手を挙げた。
七年前よりも少し背が伸びて、大人っぽくなった彼女。
私はあまり専属使用人の皆さんの詳細を知りませんが、
少々意外な展開、私の中では頭脳派のコマチさんか総合力の高いジークさんから質問が来るかと考えていたのですが。
「『王家の祝福』は不死の呪いって言ったな」
「ええ。それが何か」
「未来予知はないのか。あるいは、個人に発現する感じの特殊能力というか」
「アテナ、何言ってるんです?最近流行りの幻想小説の読み過ぎでは」
「うっせーな別にいいだろうが!……で、どうなんだディセルさんよ」
未来予知、と。
すぐにピンときました。
(ライラは自らの知識を未来予知と告げていたのか)
思い出すのは、七年前の森の中。
その時私が、生まれて初めて告げた自分の秘密をライラに耳打ちした時。
ディアーナ王女を演じていたライラは、あの時ひどく驚いた顔をしていた。
「それは『あなた達のディアーナ王女』が言ったのですか?未来予知などと」
「アテナ、自分は聞いたことがありませんよ」
「俺も全く。となると、アテナだけが聞いていたんですか?」
「……たまたまだ。あいつが変な行動してんなって気づいたから」
「いつですか?アテナさんが王女にそれを言われたのは」
「あいつの専属になってすぐ。アンナ王妃が死んだ日だよ」
ジークさんもコマチさんも、未来予知という言葉に首をひねるのみ。
とすると、彼女は一人で「王家の祝福」以上に私やライラにとっては知られたくない「秘密」をずっと抱えていたことになる。
しかも、アンナ王妃が亡くなった日にその話をしたということ。
それは、ディアーナ王女に成り代わったライラが『アンナ王妃が死ぬことを知っていて未来を変えようとした』のだとしたら?
それをたまたま見てしまったアテナに誤魔化せなくなり、未来予知などという出まかせを言ったのも頷ける。
「王家の祝福」はディオメシア建国の物語として全貌を全く明かされないまま民間伝承として存在している。
ライラは機転が利く、あの子の嘘は私でも見破ることが難しい。
その彼女が発した「嘘」を、アテナさんは十年近くも抱えていたことになる。
何という忠義だ。主人の秘密を知りながら、命を預けられる仲間にも開示しないで生きていたというのか。
この凄まじさに、この世できっと私とライラだけが気づける。
(私もライラも、このディオメシアにまつわる『ズレた未来』を知っている)
誰にも言えぬ、秘密を抱えた私達だからこそ。




