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185話 弟の成長と、私の兄たち崩壊の記憶

それからどうやって出してもらったのかは覚えていない。

気が付いたら姉様達に抱きしめられ撫でられ、兄様達が父王に「ディセルになんてものを見せたのだ」と食ってかかっていた。



『姉様、私は、ディセルは何を見たのでしょうか。ディルクレウスが、生き返って』

『あれは王と王の子に引き継がれる蘇生の呪い。生まれてすぐああなるのが定めなのです』

『皆、そうなのよ。ディセルも、兄様たちも姉様も私も、皆一度は死んでいる』

『不幸な子…不死の呪いなど何もいいことはない』

『ディルクレウスも父上の子だった。あの子は、悲痛な運命を辿るはず』



兄様姉様が危惧していたのは、この王家の祝福のこと。

でも私はまだわかっていなかった。

それが、祝福ではなく呪いだったことを。


年月は流れ、私は宣言通りディルクレウスの面倒をよく見ていた。

そのなかで、祝福が呪いであることを見た日。


あれはディルクレウスが6歳くらいだったか。

私は16、もう大人と認識される年のことだった。



『ディセルの兄様、おてがみを書いたので見てくれませんか?』

『だんだんと字がうまくなっているね。よく練習したんだな』

『はい!ディセル兄様だいすきって書きました!また勉強をおしえてください』

『ありがとうディルクレウス。おや、もうひとつは?』

『これは、戦いに行っているにいさまたちに。……でも、ぼくが渡したらめいわく、ですよね』

『どうして?今はいない兄様も姉様も、みんなディルクレウスを大切に思っているよ』



姉様達は政略結婚のために嫁ぎ、王宮にはもういない。

兄様達は属国を増やすために、戦に駆り出されていた。

兄様達は結婚しても王宮にいてくれたから、戦の合間には私とディルクレウスに会いに来てくれる。

姉様たちも、嫁いで動きづらいだろうにたまに王宮に来てくれる。


あんなに生まれたときは反対していた兄様達は、それでも弟がかわいいのだろう。

父王よりも父らしく、ディルクレウスを大切にしていた。



『だって、臣下たちがぼくを汚いしようにんはらって。だから、兄様たちに近づくなって…しようにんはらってなんですか?』

『そんな声は聞かなくていいんだよ。まぎれもなく私達と同じ王の子なのだから』

『ほんとうですか?』

『そうだよ。痛いほど、苦しいほど、兄様も姉様も私も、それを知ってる』

『でも父王様はぼくに会ってくれないのに』

『……忙しいんだよ。ほら、勉強を見てあげるから行こう』



使用人腹の子と、ディルクレウスは祝福を知らない臣下から蔑まれていた。

生まれで蔑まれるのは、この王宮では仕方ない。

父王の子はディルクレウス以外、正統な血統の母の子しかいなかったから。

でも、父王はそれを止めさせることもせず、気にもかけなかった。


父王は王宮にいた。

政治を行いながら、戦場に指示を出していた。

兄様達を前線に出しているのに、安全な場所にいる父に違和感を覚えたのはこの頃のこと。


そして夜遅く。

一人で王宮内を歩いていた時に、月明りに照らされた庭で見慣れない人影を見た。



『あれは、一番上の兄様?』



薄ぼんやりした中でも、幼いころから見慣れた姿はよくわかった。

彼と、側近一族の若者が二人で王宮の教会に進んでいるらしい。

一番年上の兄様は何かを背負っている。


どこか胸騒ぎがしてすぐに外に出た。

王宮の教会で見た蘇生の恐ろしい体験が、胸にあったのは当然のこと。

でもあれは、自分の中で「王の子であることを示すためだけの儀式」でしかなかった。


いつも閉まっているはずの教会の鍵は、開いていた。

祭壇の部分に行けば地下に繋がる階段が出現していた。

恐ろしくても、久しぶりに見る兄様が心配で、下に降りた。


そこで、私は腰を抜かすことになる。

体は十分大きくなって、力もつけてきた青年が、目の前の光景を見て子供のように震えることになるのだ。



『うわあぁぁぁぁ!!!嫌だ嫌だ嫌だ!!やめてくれ、もう死なせてくれ!兄様頼む、俺を殺せ!!』

『すまない、すまない許せ…!!弟を死なせたい兄がどこにいる!』

『一昨日も死んだ、その前も死んだ!もう戦いに行きたくない!!誰が蘇らせてくれと頼んだ!!』

『不甲斐ない兄ですまない…お前を逃がすこともできない無能な兄ですまない…!!』



重厚な扉の向こう、死んだ赤子を抱いて眠ったあの地下空間。

三兄弟の真ん中の兄様が、狂っていた。

血で汚れたところがない戦いの服に身を包み、涙を流しながら大声で地面に頭を打ち付けていた。


ガン、ガン、ガン


骨が折れそうなほどに、狂ったように叫び動く真ん中の兄。

それを前に、一番上の兄様がしきりに謝っていた。



『王子様方、騒がれないよう。蘇生できたとは言え、体は疲れておいででしょう』

『なら殺せ、もう、楽になりたい…』

『お忘れですか?この教会地下に来なくても、時間をかければあなた方は生き返る特別なお体です。心配されるな、また前線に出ることができますぞ』

『嫌だ、いやだ。殺したくない、殺されたくない…!』

『いやはや、すぐに蘇生できてよかった。蘇生すればするほど、再蘇生の時間は短く済みますからなぁ』

『やめろ、もう我らを蘇生するのは!』

『まだまだですよ王子様方。始祖ディオメシウスはもっともっと死んでいましょう、たった十数回で根を上げないでくださいませ』



側近一族の若者が口を開く度、兄様たちの顔色は悪くなっていった。

その時、やっと思い至った。


兄様たちが、姉様たちが何を不幸と言っていたのか。


『死んでも死んでも生き返る。それは、いくら殺してもいい戦力』


兄様たちは、今も戦場で死ぬ度に秘密裏に王宮に戻り、蘇生されていたのだろう。

何度も殺される恐怖も痛みも積み重なれば、兄様たちの様子もよくわかる。


この国の正統な後継者筆頭である兄様たちですら、このように父王に扱われているのだ。

父王の関心を得ていない、末の弟ディルクレウスがこれ以上に使いつぶされるだろうことなど、すぐに予想がついた。



『逃げなくちゃ、逃げなくちゃ…!』



足音を立てず、物音も最小限にして教会から逃げ出した。

そしてその日はベッドで丸くなって眠った。

王族である以上、王宮から逃げるなんてことはその頃考えられなかった子供の、浅はかな行動。


兄様姉様のあの日の言葉が、真に理解できた日。


この日から、私の人生は「王家の祝福」と共に燃えることになる。

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