49】 エピローグ
最終話です。
ティンタンジェルのあらゆる場所に設置されている鐘の音が一斉に響き渡る。
それは木霊し、共鳴しあい、青く澄み渡る空を駆け、天から降り注ぐ光の音のように錯覚する。
人々は日常の動きを止め、祈り始める者、黙祷を捧げる者、涙する者──それぞれだが、皆、一斉にある方向へ向いてた。
ソラヤ島へ……。
ウィンダムの戦艦へ突入、実質、ティンタンジェル国の勝利となった戦いから二ヶ月が絶っていた。
ウィンダムの総帥であり教皇でもあったドルイトは、その戦いの際に病気が悪化し亡くなった事になり
ドルイトの次男・ウィリアムは戦死
そして、三男のカインも戦死と記録された。
長兄クロフトンは投降。
ティンタンジェル国王・フォークロアーと討議の末、降伏ではなく和平条約を結ぶこととなった。
新たにウィンダム国を継いだクロフトンは、すぐに本国には戻らず暫くソラヤ島に留まり、ウィンダムの兵士達と共に自分達が犯した罪を
目の当たりにしながら、無残な島と人々の亡骸がせめて安らかにいられるよう努めた。
──その一つが鎮魂碑であった。
今日は、その鎮魂碑樹立の日で、ソラヤ島にはフォークロアー王、王太子エリディルス、ウィンダムの総帥・クロフトン、そしてティンタンジェルの重臣達にアリアンを含む騎士達にノーツ。
妖精騎士団のリュデケーン達。
層々たる者達が鎮魂碑の前に並ぶ。
その一番先頭に立って、白い花束を抱えそれをそっと鎮魂碑に添える少女──ディーナの姿があった。
鎮魂碑の横に設置された鐘の音が皆の胸に痛いほど響いた。
それぞれ、その鐘の音に自分の想いを乗せながら静かにディーナを見つめていた。
ディーナは黙って鎮魂碑に刻まれたソラヤ島の人々の名前を、一つ一つ丁寧に撫でた。
最後に自分の家族の名が刻まれた場所を嗚咽しながら、何度もなぞる姿を見て王太子がそっと彼女の背中を優しく撫でた。
──お父さん、剣をありがとう。ずっと大切にします。
──お母さん、おてんばでいつも心配かけて御免なさい。これからは少しは女らしくするわ。
──アルフォンス、髪をありがとう。貴方のおかげで国を救うことができたわ。
──ソラヤ島のみんな……忘れない。私、忘れないから。
ディーナのその意志を語るかのように、鐘の音は高らかにその日一日、絶えることなくティンタンジェルに鳴り響いた。
その後──。
細かい和平条約を締結させたティンタンジェル国とウィンダム国は、その後も親交を深め、お互いの国の発展に努めたと言う。
何年後かに、王位を継いだエリディルスがソラヤ島唯一の生存者であり、妖精騎士団の主人であるディーナを王妃として迎え入れ長く平和が続いた。
共にいたアリアン、ノーツの記述は見当たらないが常にこの若い王と王妃の側に付いていたと思われるが──。
ティタンジェル国もウィンダム国も今は無く
果たして実話なのか虚構なのか知る術も無く──
妖精達の物語と対に語り継がれているのみである。
完
後書き
この話は私が若い頃に書いた話で、引越しの際に出て来ました。
原稿用紙で汚い字で、文章の書き方もまったくなっていない状態でそれでも一生懸命最後まで書き上げた思い出が甦ってきて、推敲してこちらに出してみようと思い立ったものです。
…思ったより大変でした(汗)。
まず、今でもある漢字の間違い(泣き)から始まって、文章を書くにあたってのルールも守っていない。話は繋がっていないし18禁描写まである。
それにこの話を書く際に読んだ参考資料も売っちゃって、数冊しか残っていませんでした。
しかも、参考資料に出てくる妖精の名を変えずに出しちゃってるし…。
皆様が読んでみて物足りないところも、多々あっただろうと予想されます。
それでも読んでくださった方に陳謝と共に感謝を述べたいと思います。
どうもありがとうございました。
二月吉日 成澤 詩
参考資料
『妖精事典』キャサリン・ブリックス(冨山房)
『幻想世界の住民たち1・2』健部伸明と怪兵隊(新紀元社)