沖縄県国頭郡恩納村。鉄板焼きステーキハウスのテンダーロインコース。
おお、とタスッタさんは心の中で驚く。
モアイだ。
なぜか道端にモアイ像が鎮座している。
観光地だからな、とか思いつつ、タスッタさんはスマホの地図を見ながら目当てのお店の方へとむかう。
ホテルの人のはなしでは、今の時間にいけば予約なしでも入れるそうだが、もう少し遅い時間になるとどっと人が増えるのだという。
今日の沖縄はあいにくの曇り空だった。
常夏のイメージが強いこのあたりも、地元の人にいわせると時期によっては台風被害が凄かったりするわけだが、幸いにしてまだ梅雨の時期には少し早い。
目当てのお店について入口のところで店員さんに案内を乞うと、ホテルの人がいっていた通りにすぐに席に案内してくれた。
途中、壁一面に名刺が貼られた階段を昇って、二階にあるテーブル席に。
お店の内装が独特で、しかし南国の観光地らしいものではなく、メイド服を着た人形とかタコのオブジェなどがあちこちに置いてある。
「なんでステーキハウスにこんな内装を」
と、意味不明であったが、面白い雰囲気だな、とも思った。
テーブル席に案内されたタスッタさんは、すぐにメニューを開く。
コース料理のところに目を走らせて、さてなにを頼みましょうかと考える。
ロブスターやアグー豚をいっしょに焼くコースもあったのだが、今回はあくまで、タスッタさんのつもりとしてはステーキを食べにきたので、あえて外す。
サーロインとテンダーロインの、どちらを選ぶか。
少し考えてから、タスッタさんは後者のテンダーロインのコースに決めた。
全てのコースにスープ、サラダ、パン、焼き野菜、ライスか冷しうどん、デザートがついてくるとのことで、お肉の大きさは控えめに百五十グラムにしておく。
ライスは三百円プラスすればガーリックライスにしてくれるというので、そのオプションも頼んだ。
少し待って、最初にやってきたのはスープだった。
クルトン代わりなのか、なぜか上にかっぱえびせんにしか見えないものがふたつ、乗っている。
なぜスナック菓子が、こんなところに。
戸惑いながら、タスッタさんはスプーンを手にしてスープを一口飲んでみた。
カレー味のスープだった。
海老とかロブスターのスープではなく。
ついでにスープの上に浮かんでいたかっぱえびせんらしき物体も食べてみる。
うん。
見たとおり、そのまんまかっぱえびせんですね。
スープがおいしくないわけではないけど、ますます意味不明だった。
次に来たサラダは、四種類のドレッシングの中から選べるとのことで、タスッタさんはゴーヤ味のドレッシングを選んだ。
そのサラダを食べはじめたところで、タスッタさんの目の前で、お店の人がメインのお肉を焼いてくれる。
焼き方を訊かれたので、ミディアムレアと答えておく。
お店の人は手慣れた動作でお肉を焼き、切り分け、木製のお皿の上に乗せてタスッタさんの手前に出してくれる。
無駄に派手なパフォーマンスなどをしていないのが、かえって好感が持てた。
塩胡椒、それにガーリックで味つけされたテンダーロインステーキを、タスッタさんはさっそくいただく。
焼きたての熱々、であるからか、これまでに食べてきたお肉よりもかなりおいしく感じられる。
適度に弾力があり、しかし柔らかく、噛むたびにじわっと熱い肉汁が口の中に広がった。
ああ、お肉だなあ。
と、タスッタさんは思う。
焼いたお肉のかたまりをこうしていただくという行為は、肉々しいというか、「なんだかとってもお肉を食べている!」という気分になる。
タスッタさんがお肉をいただいている間に、お店の人は鉄板で焼き野菜を作っていた。
具材はタマネギやゴーヤ、紅イモなどで、こちらの方も無駄のないキビキビとした動作でちゃっちゃっと作って木のお皿に乗せて、タスッタさんの前に出してくれる。
こちらも、焼きたての作りたてであったせいか、予想よりもずっとおいしく感じられた。
なにより、お肉の合間に食べるのに、ちょうどいい。
テンダーロインステーキはおいしいのだが、そればかりだと少し飽きるから、こういう副菜があると食が進む。
火を通したゴーヤの苦味、タマネギと紅イモの甘味は、お肉の合間に食べるといいアクセントになった。
しばらく食べ進めていると、今度は味噌が乗った島豆腐が出てくる。
流石に量は少なかったが、これもコースに含まれているうちの一品であるらしい。
本土の田楽などとは微妙に風味が違っていて、これもおもむきが変わっていい箸休めとなった。
店内が割と複雑な構造になって見通しが効かないためにしばらく気づかなかったが、いつの間にやらお店の中にも大勢のお客さんたちが入っていて、かなり賑やかなことになっている。
ホテルの人がいっていた、
「少し時間がずれるとすぐに満席になる」
という情報は正しかったわけか、と、タスッタさんは思う。
そんなことを思いながら、タスッタさんはさらに食事を続ける。
焼き野菜が思いのほかおいしかったので、すべてを食べ終えてもお肉はまだかなり残っていた。
たかだ百五十グラムと考えていたが、他の料理もいっしょだと予想外に食べ甲斐がある。
すると調理を担当する店員さんがすぐ目の前で、手早くガーリックライスを作ってくれた。
そのときの香りだけで、タスッタさんの食欲はさらに亢進する。
ああ。
適度に火を通したガーリックの香りというのは、どうしてこうも食欲をそそるのか。
すぐにタスッタさんの前に出されたガーリックライスは香ばしい味と香りであり、さらにはスプーンで掬って口の中に入れるとその場でぱっと崩れるパラパラさであり、まさに極上の一品といえた。
メインであるテンダーロインステーキは、おいしいといえば十分においしいのだが極上とまではいかず、いってみれば想像力の範囲内に収まるおいしさであったが、このガーリックライスは事前に予想していた以上に、おいしい。
ここのステーキよりもおいしいステーキを出すお店は他にいくらでもありそうだったが、このガーリックライス以上においしいガーリックライスを出せるお店はそうそうないだろうな、と、タスッタさんはそんなことを考える。
最後の駄目押しが、ガツンと来ちゃいましたねえ。
と、タスッタさんはそんなことを思った。
コースの締めとして、これ以上にふさわしい料理もそうはないだろう。
なぜか、いや、おそらくは高級感を演出するためなのだろうが、このお店は食後の飲み物は別室で出されることになっているらしい。
コース料理を満喫してその部屋でアイスティを喫していたタスッタさんは、なんとも満ち足りた気分に満たされていた。
満腹であるし、出された料理はすべておいしいと感じられた。
いいお食事だったな、と、満ち足りたタスッタさんは、そう思うのであった。




