80話
私はやっと楽になれるのか。
クレアと言ったかな。
公爵家には恨みも罪も何も無いがこの国で最も爵位の高い貴族だからと言う理由で利用し彼等のこれまでを奪い未来も奪ってしまったが私が望む結果になった。
私は謝罪をしても罪を償っても許されない程の出来事を引き起こした。
しかし、この出来事を起こした事に私は後悔などしてはいない。
この牢獄が私にはお似合いだ。
数日が経ち、怨みを投げかけてくる貴族の面会も少なくなった今、また声が聞こえてくる。
私は牢獄のベッドからは降りずジロリと柵を見ると目を見開いてしまった。
「お久しぶりです。お話に来ましたマーシャル宰相」
公爵家の令嬢が何しに来たのか興味が出てしまい起き上がる。
「私もお久しぶりと言えば良いのかな?クレア嬢よ。私を笑いに来たのか?」
私の言葉に令嬢は首を振る。私はその態度に違和感を感じた。
「……なら何の用だ」
令嬢は私に微笑み話す。
「私は疑問に思っていたのです。貴方はこの先、私が関わらなければ宰相から降りても貴族として生きていけました。ですがどの未来でも貴方は処罰を受ける出来事を自ら起こし私が知る限り死を選ぶのです。それに疑問を持ち、貴方の行動と未来と過去を知り一つの仮説が出来ました。貴方、本当は自分を犠牲にしてこの国を変えたかったのではありませんか?」
監獄に入ってから噂には聞いていたが未来を知る事が出来ると言うのは本当のようだ。
私は私を許す事が出来ない。私自身も含めての粛清だ。
私は私のやった事を見届けたら死ぬ気だった。だが、この令嬢がいるなら私はここで退場しても良いと考えた。
私は思わず笑いを漏らす。
「何が可笑しいですの?」
令嬢は私の笑いに不快を持ったらしい。
「あぁ、すまない。本当は掌で踊らされていたのかと思うと笑いがこみ上げてきてな。謝罪代わりに気まぐれに1人の道化の話をしてやろう。此奴は救いようのない奴だが聞きたいか?」
令嬢は考える素振りを見せ、頷いた。
「其奴は全てに対して恵まれていた。自己評価でもなく、何不自由なく生き、幼い頃から魔力も既に家の者達よりも多く、自身も優れていた。平民も貴族も関係なく下に見ていた。だからだろう、平民の女の子と偶然出会い其奴は幼い頃恋をした。歳も一緒で自然と話が合い彼女と過ごす日々が愛おしく切なかった。貴族と平民、将来は一緒にはなれないが妾としてでも一緒になってほしいと其奴は自分勝手に願い、平民の女の子も其奴に恋をしていた様で成人したら一緒になろうと誓い合った。だがな、いつまでも其奴の幸せは続かなかった。14になった時、平民の女の子はとある貴族に見初められ無理矢理奪われた。爵位も同等であったが其奴はまだ成人もしていない。権威も無ければ権力もない。其奴は恥を忍んで父親に頼んだが逆に激怒される。平民如きにうつつを抜かすなと其奴は絶望した。そして、気がついたのだ。父親も其奴の様に下の者を見下していた。これは自分への罰だと思い其奴は平民の女の子を取り戻す為に更に努力を重ねた。成人して間もない其奴は数年で王城でも認められ権威も権力も手に入れた。そして、ついに帰ってきたのがボロボロにされた好きだった女性の遺体だった。……遅すぎたのだ。其奴は天才と言われた。5年でそこまでの地位を手に入れたと、だが其奴は5年もかかってしまったと後悔した」
そうだ、あの家族もあの様な女が居たから私が出世できなかったと言った。
……違う。
本当に好きだった。愛していた。地位も捨てても良いと思った。だが、彼女を取り戻す為には更なる地位が必要だった。だから、彼女の為だけに頑張った。なのに、彼女がいなくなったこの国で私は何を守れば良かったのか?
「それにな、平民の家族は何と言ったと思う?あの子を生んで良かった、良い金になったと言っていた。貴族は何と言ったと思う?平民の割に楽しめた。なぁ、クレア嬢よ、何故、世界はこんなにも悲惨で冷酷なのだ?ただ、平民に生まれただけなのに彼女は20もならないウチに何故死ななければならなかったのだ?貴族と言うだけで平民を愛してはいけないのか?分かっている。魔力値、属性、世継ぎ、権力と様々な事が絡んでいる。しかしな、だからなんだ?その様なモノの前に人を好きになってはいけないのか?貴族は国の道具だ、平民は貴族の道具だ。その前に同じ人ではないか。何が違う?劣っていようと無かろうと感情があり心がある。其奴はあの女の子に会わなければ一生その事には気が付かなかった」
令嬢は私の話を聞くと辛そうにしている。
同情などはいらない。
私はこの令嬢に私と同じ様に大切な者を間接的に奪っている。
「私は貴方の事を知りませんでした。知る機会も無かったのですから当然です。そのお話の彼の続きはありますか?」
私は自笑する。
「あぁ、其奴は復讐を誓う。其奴は思ったのだよ。奪われる辛さを知らないから奪えるのだ。なら奪えば良い。知らせるのだ。どんな手を使っても民を貴族を王族を国を世界を変えるとな。そして、全てを巻き込み満足して死ぬ」
他者を想わないから他者を踏み躙れる。かつての私だ。しかし、あの女の子は違った。無償の奉仕、気遣い、笑顔、思い遣りとはそうではないか。
「なら私はそんな物語はいらないわ。過去は終えたもの、でまその者の今の心も救えないのかしら?」
令嬢に私はニヒルに笑う。
「だがそれまでの事を起こしたのだ。報われず救われないと分かって尚、男とはやらねばならぬ事がある。それが信念なのか執念なのかは人の見方次第だ」
「……人の見方次第ですか。そうですね、貴方は確かに沢山の貴族達を道ずれに死を選んだ。沢山の貴族は貴方を恨むでしょう。しかし、平民は貴方が起こしてくれた事により私と言う新たな盾を手に入れました。貴方に感謝するでしょう。」
令嬢は横を向くと誰かを呼ぶ。
そこに現れたのは昔愛した彼奴に似た女性だった。
私が見開くと令嬢は言う。
「私、ハッピーエンドじゃないと気が済まないのです。この子の名前はタタルミーヤと言いご存知ですよね?ですがお母様に付けてもらった本当の名前は何ていうのかしら?」
私はこのタタルミーヤと呼ばれた女性に見入ってしまう。
「はい、私の名前はシャルルと母がつけてくれました」
私は彼女が名前を言うと唐突に昔の記憶が蘇える。
『ねぇ、マーシャル様!私ね、マーシャル様との子供が出来たらもう名前を決めているよ!男の子はまだだけど女の子ならシャルルって名前にするの!マーシャル様のシャルと私のミヤールを合わせてシャルル!可愛いでしょう?もう決めたよ!マーシャル様が嫌がっても必ずつけるからね!』
記憶の彼女は私に笑いかけてくれた。
「母が生涯愛した方の名前を戴いたそうです。私の属性は特殊なモノを含めて4つあります。その中でマーシャル様と同じ音の属性もあります。私や母があの家で邪険にされていた理由です。私はずっと本当の父親のマーシャル様のお話を母から聞きました。見初められる前に母はマーシャル様との子を授かっていました。それが知られてしまい殺されました。母は最後まで全てを奪われても心はマーシャル様と一緒にいると言ってました。いつかマーシャル様が私の全てを取り返してくれる為に心だけでもマーシャル様を想う気持ち感情だけは誰にも渡さないと言って私の前で幼い頃、死にました。ですがマーシャル様と出会えたからこそ最後まで奪われず持ったまま天へ行けたのだと思います。記憶の中の母はマーシャル様の話をする時は笑顔でしたから」
シャルルの泣き出しそうな笑顔に私は自然と頬から何かが流れる。
触ってみると涙だった。
久しく涙が流れる事も感情が動く事もなかった。
……これは令嬢に一本取られてしまった。
「宜しければマーシャル様、貴方を父と呼んでもよろしいでしょうか?」
私は躊躇ってしまう。
「私はもう父と呼ばれる様な人間ではない」
だが、令嬢は私を見てシャルルに話す。
「ねぇ、シャル、この男を父と呼びなさい。使用人として命令よ。あと、貴方はもっとこっちに来なさい」
強気な令嬢だなと思いながら言われた通り柵まで近づく。
「シャルル、平民の母の為に全てを捨ててまで愛を貫いた立派な貴族の父親の最後です。もう触れ合えないのだから手ぐらい握りなさい。後悔するわよ」
私とシャルルは恐る恐る手を握るとシャルルは涙する。
「私、私は本当のお父様にやっと会えたのにお別れなのですね」
……なんだ。私は勘違いをしていたようだ。守る者はちゃんと居たではないか。彼女の事しか頭に入っていなかった。シャルルの事を知ってさえいたら私も歩むべき道は変わっていたのかな?
「なぁ、クレア嬢よ。私の娘……シャルルの事は頼んでも良いか?」
令嬢はニッコリ笑い答えた。
「言われなくてもシャルルは私の使用人ですから当然です」
悔しいが私はこの令嬢に何も言えない。
全く何を言い返しても私を悪にせず希望を与えて終わらすとは、また生きたくなるではないか。私の負けだ。
だから、私はあえてこの言葉をくれてやる。
「フン、この悪役令嬢め」
私の言葉に令嬢はニヤッとする。
「あら、知らなかったの?私は生まれながらの悪役令嬢なのよ」
悪戯が成功したかの様に笑う彼女は年相応に可愛らしかった。
これまで読んで頂きありがとうございます!
沢山のブックマーク励みになりました!
まだまだ書くのに未熟ですが読んで下さり感謝です!
この終わり方を初めから考えていたのであのタイトルでした。
クレア嬢はまだこれからも運命と頑張って立ち向かっていきます。
今回はこれまでです!
次は婚約破棄から始まる領地の話とロリコン令嬢の話です!
気になったらお付き合い宜しくお願いします。
ありがとうございました!




