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歴史の語り部  作者: 矢真島ヤスマ
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第14話 アツく、騒がしい街 2



 真っ先に表に出たメイビスが句動二輪を見た途端、ニヤリと笑いながら続いて出てきたメイクへ振り向く。


「これはこれは……あの時のガキだったのかお前さん」

「お久しぶりですね、メイビスさん」


 何のことだか分からないエレナは首を傾げていたが、メイクは肩を竦めながら答えた。


「こいつを故障させるたぁ、随分無茶な運転してんのかぁ?」

「そういった記憶は全くないのですが」

「ったく、一言教えてくれりゃぁ良いものを」

「<歴史の語り部(われわれ)>は名前を持たないので、どう挨拶すれば良いのか分からなかったのですよ。それに貴方なら私の句動二輪を見たときに気づいてくれると思っていましたので」

「ガハハハハ! 違いねぇ!」


 メイビスが大笑いし、メイクがいつもの微笑みを返す中、エレナだけは置いてけぼりのままだった。しばし二人の会話を聞きながら黙っていたが、堪えきれなくなったように質問した。


「ねぇ、どうしてメイクがメイクだって分かったの?」


 ガハハと笑っていたメイビスは、腕を組むと口端を吊り上げながらエレナに近づく。まだ年端もいかない少女に、服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体を持つ大男が近づいていく様は、さながら犯罪でも起こるかのようであり、エレナも圧倒されているのかジリジリと下がってしまう。しかし、そんな事お構いなしにメイビスは上からエレナを見下ろしたまま口を開く。


「嬢ちゃん、歴史の語り部が乗る句動二輪ってのは、それそれが違う形なんだよ」

「ど、どういうこと?」

「えーと、ほら、"せいく"? とやらがそれぞれで操れるものが違ってだな……」

「???」

「???」


 二人の間には疑問符が飛び交っており、その姿に肩を落としたメイクは苦笑した。


「メイビスさん、修理を始めてください。彼女への説明は私からしますので」

「おう! そうだな、それがいい! じゃあ頼んだぞ"メイク"」


 渡りに船だと言わんばかりにメイビスが応じると、二人掛かりで押してきた句動二輪をヒョイと持ち上げるとさっさと工房内に持っていってしまう。それを驚きの表情で見ていたメイクは咳払いをすると、驚いているのか呆れているのか分からない表情をしているエレナに向き直る。


「エレナ、歴史の語り部だけが扱える"聖句"には、個人で差があります。歴史の語り部(われわれ)が一人前と認められ、旅立つときに句動二輪を作るのですが、その差によって句動二輪は姿形を変えます。私のようにある程度大きな力を操れる者であれば大きく、そうでなければ小さく。また、繊細な制御の出来る者やそうでない者でさらに形が違います。まるで人間のようにね。ですから、それを一から作る(メイビスさん)歴史の語り部(われわれ)を判別出来るのですよ」

「でも顔とか背格好も違わない? 本部に行ったときに色々な歴史の語り部(ブックメーカー)にあったけど、みんな顔も声も背格好も違ったし。それで判別できないの?」

「もっともな意見ですが、私たちがメイビスさんに会うのは基本、幼少時に一度きり。それからいくつもの季節を重ねた頃には、誰が誰だか分からないかと思いますよ」


 エレナは分かったような分からないような複雑な表情をしていたが、メイクはにこやかに微笑むと再び工房内に入っていった。エレナもそれに続く。

 中ではメイビスが体を縮こまらせて句動二輪を解体しているところだった。一体どこにそんな部品があったのかと思うほど、細やかな部品が次々出てくる。メイクはさっさと椅子に腰を下ろして、まだ湯気の立っているカップを持ち上げ口に運んでいるが、エレナはメイビスの肩越しに解体作業を覗き込む。


 句動二輪は目に見える部分から、それらの留め具一つに至るまで複雑な紋章が刻まれていた。エレナは自らの体に刻まれた"聖紋"に酷似していることに気づく。


「聖紋……?」

「おうよ、すげぇだろう。俺がメイク(そいつ)に合わせて刻んだもんだ。メイクにしか扱えん。嬢ちゃん、よく聖紋なんて知ってんな?」


 思わず呟いた言葉に、メイビスは振り返らず答えた。その声は誇らしげであったが、続いた疑問は逆に関心したものだった。


「さすがに歴史の語り部様と旅してるだけあるってか? ガハハハ!」

「うーん、そうかも……?」


 エレナの煮え切らない答えに、メイビスは眉を顰める。


「どういうことだよ、嬢ちゃん」

「えーっと……」


 答えていいものか分かりかねたエレナは、変わらず茶を口に含んでいるメイクに助けを求めるような視線を送る。それに気づいたメイクはカップを置くと、何気なく答えた。


「彼女にはそれと同じ聖紋が刻まれています」


 その言葉を聞いたメイビスは驚き、そして怒りに顔を歪め、最後に憐れみを感じさせる表情へと変わった。


「そうか……護衛ってのはそういうことか……」


 独り言を呟き、一人で納得したのか、メイビスは句動二輪へ向き直る。そこから先は無言が空間を支配した。カチャカチャという金属の音だけが聞こえる。重い雰囲気が漂っており、誰一人として口を開こうとしなかったが、一人の女性によって空気が変わった。


「エレナさん……でしたよね? 良ければ一緒に街に行って下さらない? 旅に必要なものもあるでしょう?」

「え? あっ、ちょ」

「それではあなた、歴史の語り部さん、留守をお願いしますね」


 奥から出てきたアンナは、部屋に漂う空気を察するとあっという間にエレナの腕を掴んで表に出て行ってしまう。まるで風がエレナを攫っていったかのような出来事に、男二人は口を開けて見送るしかできなかった。



「ちょ、ちょっと」

「ごめんなさいね。あまり良い雰囲気ではなかったようなので」


 大通りまで出てきたアンナは、ようやくエレナの腕を放すと困ったような笑顔でエレナに謝ってきた。その表情に何も言えなくなってしまったエレナは首を振る。


「いえ、こちらこそありがとうございます。何だかあたしの存在がメイビスさんの気分を害したみたいで」


 エレナの申し訳なさそうな声音に、今度はアンナが首を振り、エレナの手をギュッと握った。


「いいえ、あの人の仕事は私には分からないけれど、あの人が女性を不快に思うなんてことは無いわ」

「そう……でしょうか」

「ええ、あの人と夫婦になってから、それなりに長い季節を過ごしてきたけれど、そんな人じゃないっていうのは私が保証するわ」

「……ありがとうございます」


 アンナの人を安心させるような声と、優し気な微笑みにエレナも表情を和らげた。


「さっ、気分直しにお買い物しましょ。この街は色々なものが買えるのよ?」

「えっ、でも」

「女の子だもの。たまには自分を飾る物を買ってもいいじゃない」


 そう言うと、アンナはエレナの手を握ったまま人混みの中に入っていく。困惑していたエレナも、楽し気な売り子たちの声や店先に並ぶ商品を見ているうちに、段々と口元を和らげていった。



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