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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
アウグストゥス編
28/34

接触

極東方面要塞の会議室に七人騎士隊が召集されたのはセティが要塞に帰ってきた直後であった。セティ、アイム、ユリエ、レイドール。ハイネとフェレス、そしてハイネに殺されたアゼザルが抜けた五人とガナムがその場に集まっているのだ。丸く囲むように並べられた椅子と机に座り、その中央に置かれた地図を見つめていた。

「ユ、ユンフラングス、あとはユ、ユームラスの村にも、ハイネはいませんでした」

相変わらず、アイムは挙動不審の態度で報告をする。その横でユリエは怯えるように周囲を見渡していた。

ユリエは五年経った今も歳をとっていない。心の中にラムセスがそっと語りかけた。

(時が止められているのか? ヤツの契約獣は何だ?)

そんなことわかりませんよ、とセティが心の中で呟くと、それを見ていたガナムが訝しげに目を細めた。

「セティ騎士兵、思いでの村の話を聞いて感極まっているのか?」

「ご冗談をガナム騎士団長」

「ではセティ騎士兵、報告を」

セティは立ち上がり、口を開いた。

「ヴァリシュリア城襲撃事件以来、各地の帝国軍の拠点への破壊活動を行っているガタラマストスの魔女の行方は今現在も不明。ワールカイムスの魔女ノーリアですらその居場所を把握していません。それと、ワールカイムスの魔女ノーリアから思わぬ情報が入りました。ノーリアは自らは紅い目に殺されると言いました。紅い目は竜の子の特徴であります。現存する竜の子はあのハイネ。ハイネがノーリアの命を狙っています」

レイドールは顔を伏せたまま、徐に口を開いた。

「ワールカイムスの魔女は預言者としても有名です。だとしたらハイネがノーリアの命を狙うのは確実。どうですかガナム騎士団長、ノーリアの周囲を重点的に探ってみればハイネに関する情報が見つかるはず」

「・・・。セティ騎士兵」

セティは怪訝な顔を浮かべる。

「ノーリアの周辺を調査しろ。アイム、ユリエの両名は引き続きハイネの散策。レイドール騎士兵長、お前は南部方面からの共和軍の侵攻を阻止。以上で会議を終わる」

ガナムの号令で会議が終わろうとしたとき、会議室の扉が勢いよく開いた。

「終わるのはまだ早いですよ皆さん」

満面の笑みを浮かべたジュリアールがこつこつと言う足音を立てながら部屋に入ってきた。部屋の一番奥にある席に勢いよく座るとガナムは眉をひそめた。

「これは七人騎士隊の会議、貴様には関係のないことだろう?」

「貴方達の上官はこの私ですよ? そんなことより、貴方達に重要な報せがあります。南部方面要塞が陥落した際の唯一の生存者がいたのですが、その者が・・・」


ーー紅い目の男がやった。


「と、話しています」

ざわめく一同。レイドールが困惑した表情のまま、口を開く。

「まさかハイネが? ハイネは共和軍に寝返ったとでも言うのですか?」

「しかしですね、生存者がその者しかいません。南部方面要塞が陥落した時の状況は我々が知ることは困難。ただ一つだけ、要塞の陥落後に共和軍の兵士の死体は一体も見つかっていません。ガタラマストスの魔女の可能性もありましたが、ガタラマストスの魔女はレイドール騎士兵長率いる騎士団と戦闘をしていました」

「ならばハイネを殺さなければ」

「手は打ってあります」

ジュリアールのその言葉にレイドールは首を傾げる。その場にいた全員がジュリアールに疑いの目を向けたのだ。

「最後の七人騎士隊を、既に用意してますから」



『ヨハネスの日記には魔女カーラの魂は転生したと書かれていたぜ?』

教団内部の中庭で座り込むゲオルクは眠たそうに大きな欠伸をした。三百年前の災厄は救世主アレストによる封印によって幕を閉じた。アレストは三人の魔女、契約獣のラムセス、そして一人の弟子ヨハネスを連れていた。ヨハネスはその戦いの記録をこと細かく日記として記した。

「貴方は日記を読んだことがあるの?」

フェレスはゲオルクの毛深い顔に体を埋めるようにして聞く。

『あぁ、数年前だから記憶は曖昧だが確かに読んだ。それが救世主伝説と何が関係あるんだ?』

「救世主伝説は三百年前の災厄を全て記しているわけではありません。忌まわしき竜をどう封印したのか、記されている内容はそれに関わるものだけです。それに、契約者である魔女カーラが何故世界を滅ぼそうとしたのかも記されていません。今現在、そのことを知っているのは三人の魔女だけ。それと日記だけなのです」

ゆっくりと歩み寄るイリス。その近くには珍しくアルフレッドの姿がない。

「しかし、アレスト様の弟子であるヨハネスの日記はマルーシャ王国事件の際に消失してしまいました」

『俺も読んだのはそれ以前だ。あの事件のお陰で、国は一つ滅んじまったからな。複製品はないのか?』

「さぁ、私達教団の中心は救世主の書。ヨハネスの日記は他宗教でしかありません。ヨハネスの日記には無関心なのですよ」

イリスはぼんやんりと吹き抜ける青空を眺めながらぽつりと呟く。

「この空がいつまでも青いとは限りません。彼らがどう動くかによって、世界は左右されるのです」

「だから私達も動かなければならないでしょ? ヨハネスの日記を見つけることが、今の私達にできる最大限のこと」

励ますようにフェレスは悪戯な笑みを浮かべ、飛び乗るようにゲオルクの背に股がった。これまた面倒くさそうに大きな欠伸をしたゲオルクは同じように空を見る。鼻をひくひくと動かし、周囲を見渡すと先程までの表情とは打って変わって、顔を歪ませた。

『何か来る、空からだ』

「まさかハイネ?」

フェレスは背から飛び降りる。ゲオルクの見つめる先に僅に見える黒い影。徐々に大きくなるその影に目を凝らすと、それが何なのかようやく理解出来た。

翼を羽ばたかせた人だ。真っ黒な光沢のあるコートに身を包んだ男。真っ白な肌が腰まで伸びる黒髪で強く強調されている。背中から生える翼を羽ばたかせたその男はゆっくりとフェレス達の前に降り立った。翼を折り畳み、膝まずくように着陸したその男はまたゆっくりと立ち上がる。冷たい瞳がフェレスを見つめる。

ゲオルクが咆哮を上げた。

『何でお前が此処にいるんだ!』

フェレスは困惑しながらゲオルクを見る。イリスは震える手で口を押さえている。

「ハイネは、何処だ?」

男は表情一つ変えずにそう言った。ゲオルクは威嚇するがまるで聞いていない。

「貴方は何者!?」

「私は、私がわからない。何一つとしてわからない。ただ、あの男からはこう呼ばれる・・・」

男の口から発せられた言葉にフェレスはようやくその男の存在に気がついた。

それはとてつもなく衝撃の大きな、動揺を隠すことのできない存在だ。


ーーダンテ、だと。


「まさか、貴方はあのマルーシャ王国事件の・・・。国一つを滅ぼした、黒き翼?」

ガタガタと身体が震え出す。ダンテと名乗るその男はまた、同じように冷たい視線のまま口を開く。

「もう一度問おう。ハイネは何処にいる?」

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