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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
アウグストゥス編
27/34

踊る女

「ではハイネと竜の行方は不明と?」

「意図的に隠している可能性も否定できません。ただ、フェレスとケルベロスが教団側に就いた事は間違いありません」

 薄暗い廊下を歩くジュリアールとセティ。ジュリアールは教団に加担しているフェレスの話をしても、何やら機嫌が良さそうだ。

「ユリエ、そしてアイムには引き続きハイネ捜索をしてもらいましょうか。貴方にはガタラマストスの魔女の捕獲に行ってもらいましょうか」

「何故ですか! ユリエ騎士兵とアイム騎士兵に何故ハイネ捕獲を命じるのですか! 私がハイネを捕えてみます!」

「良いですか? 貴方はハイネの事になると熱くなり、周囲が見えなくなります。信頼していた人からの裏切りを受けたのでしょうから当然でしょう。はっきり言いましょうか。今の貴方じゃハイネを捕獲する事は勿論、殺す事もできません。あの殺戮の亡者であるアゼザルさえ難なく殺したハイネに貴方が勝てるとは思いません。それに…」

 ジュリアールは鋭い眼光でセティを見つめる。

「五年間表舞台に姿を現さないハイネより、ヴァリシュリア城襲撃事件後も破壊活動を行っている魔女を殺す事の方が優先です。ヴァリシュリア、南部方面要塞、そして三人の騎士隊を失った我々にとって脅威になりうる存在は共和軍だけではないのですよ? 温厚だと言われるワールカイムスの魔女ですら、今の私達にとっては恐ろしい脅威なのです」

 セティが反論しようとしたとき、ジュリアールの左手の指がセティの唇をそっと触れた。

「命令に背くなら、私は貴方を殺しますよ?」

 嫌らしい笑みに、セティは思わずぞっとした。



『それで引き下がったのか?』

 ラムセスは巨大な翼を羽ばたかせながらそう言った。肩に乗るセティは不満そうに正面をじっと見ている。

「ジュリアール総司令官はあのマルーシャ事件の生き残りです。どんな力を隠しているかわかりません。それに、ハイネがユリエさんとアイムさんにそう簡単に殺される筈がありません」

『信頼…なのか?』

「馬鹿な事言わないで下さいよ。ハイネは自分でそれを絶ったのですから」

 永遠と連なる山脈を越えると、巨大な街が姿を現した。巨大な城を中心に取り囲むようにある城下町。だがどうも様子がおかしい。

 立ち並ぶ家屋、聳え立つ塀。街の中心にある城でさえも真面に原型を留めているものなどないのだ。そして全てが真っ白に染まっている。まして人の姿も見当たらないこの街に違和感を覚える。

『やはりか』

 その不可思議な光景を見てラムセスはそう言った。マルーシャ王国。あの惨劇の起きた場所だ。人は消え、廃墟となったこの王国にセティとラムセスが寄ったのには理由がある。ガタラマストの魔女は各地の帝国軍の拠点で破壊活動を行っている。しかし、先月からその消息を絶った。今現在、ガタラマストスの魔女が何処にいるのかは帝国軍の調査団を使おうとも特定はできない。それでこの地に住む、ワールカイムスの魔女にガタラマストスの魔女の居場所を特定させようと言うのだ。

 力づくで言う事を聞かせても構いません。ジュリアールに言われたその言葉がセティの脳裏を走る。

「ラムセス、君は城の外で待っていて下さい」

『ノーリアは温厚だとしても、三人の魔女の内の一人だ』

「魔女に殺されるようじゃハイネを殺す事なんかできないでしょ?」

 ラムセスの肩から飛び降りたセティ。降り立った所は城の門の目の前だ。門と言っても当然破壊されているため、簡単に進む事が出来た。朽ち果てた城の壁は何故だか塩のように白い。真っ白な空間に取り残されたような違和感。それを感じながらセティは奥へと突き進んだ。

 城の扉は崩れていた。隙間から難なく入ると、目の前には遥か上まで貫く螺旋階段が姿を現した。所々に崩れ落ちた天井の破片が突き刺さっていたり、階段自体が崩れたりしている。

何十階という建物の内部を螺旋階段で進むとようやく最上階までたどり着いた。真っ直ぐに伸びる廊下の端には鎧やら陶器やらが並べられ、壁に張り付く絵画達が此方をじっと見ているようだ。


――貴方は、だぁれ?


 突然、目の前の扉の奥から声が聞こえた。透き通るような女性の声だ。セティは腰に携える剣の柄に軽く手を置くと、扉をゆっくりと開いた。

 舞踏会が行われるような巨大な空間。テーブルやら椅子やらが辺りに散乱し、シャンデリアが床にだらしなく落ちている。その中心で一人の女性が此方を見ている。

 装飾のある真っ白なドレス。それと同じように真っ白な髪は腰まで伸びている。血でも吸ったかのように紅く染まる唇を優しく開く。微笑みかけるその美しい女性はその美しい口をゆっくりと開いた。

「貴方は、だぁれ?」

 思わず見とれてしまうセティ。剣の柄を握っているのも忘れて、セティは覚束ない足取りでその女性に近付く。

「ぼ、僕は…」

 顔を赤らめながら、セティは口を開いた。

「フフフッ、面白い人」

 女性はそう言うとその場でぐるぐると回るように踊りだす。その姿にまた見とれてしまうセティ。

「あの、僕はセティです」

「セティ、セティ、フフフッ」

 微笑みながら踊る女性は流し目でセティを見る。

「ノーリア、ノーリアよ」

 自らの名前を名乗った。セティは要約その時に我に返る。ハッと我に返るセティは腰の剣を深く握ると本来の役目を全うすべく大きく息を吸う。

「帝国軍七人騎士隊のセティ騎士兵だ。ガタラマストスの魔女の居場所を聞きに来た。ガタラマストスの魔女は何処にいる?」

 セティの問いに動じる事もなく、ノーリアと名乗った女性は尚も踊っていた。その姿を見て、セティの戦闘意欲は失われてしまった。剣から手が離れ、ただその姿に見とれているのだ。

「お姉様は、お姉様。私は、私。知らなぁーい、わからない」

 ノーリアの不可思議な返答に怒りを露わにする事無く、ただ見とれている。

(ワールカイムスの魔女は掴み所がない、飲み込まれるなよ)

 心の中でラムセスが忠告する。しかし、そんな事に聞く耳を持たず、セティはノーリアのその姿を目に焼き付けていた。

「あ、貴女は、一体…」

「紅い目に殺される、私は紅い目に殺される」

 微笑みを崩さないまま、ノーリアは衝撃な言葉を発した。再び我に返ったセティは、速足で間合いを詰める。

「ハイネ、ハイネか! ハイネが貴女の命を狙っているのか!」

 ノーリアはすっと、崩れた天井の方に顔を向けた。真っ青な空が覗き込むようにあるだけで、其処には何もない。セティは何に対しても上の空のノーリアの肩を掴む。

「ハイネは帝国軍の王すら手に掛けた。今のハイネは何をやらかすかわからな…」


――ルルル、×××××よ。


 声を発する事無く、ノーリアは口を動かした。何を言っているのかさっぱりわからないセティはノーリアの肩を激しく揺すった。

「今なんて言った! ハイネが貴女を殺すのか! 答えてくれ、ノーリア!!」

 今まで上の空だったノーリアが突然、セティを見つめた。微笑みが消え失せ、青い瞳で一心に見つめている。

「運命は受け入れるもの。それが私の運命だもの」

 そして再びノーリアは笑みを浮かべた。


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