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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
アウグストゥス編
22/34

裏切りの翼

帝国軍は衰退の一歩を辿っている。帝国軍の本拠地であるヴァリシュリア城は一連の事件により壊滅状態に陥り、指揮系統の本拠地は極東方面要塞へと移行した。王を失ったヴァリシュリア城は事実上の廃墟となり、帝国軍最大の武器であるユンフラングスの魔女の心臓。そして竜とハイネを失った。

一方、共和軍は順調にその勢力圏を広げ、帝国軍の南部方面要塞を陥落させた。



ヴァリシュリア城が壊滅して五年。廃墟と化した城に訪れるのは群れからはぐれた魔物や、帝国軍の調査団のみである。

騎士団の一人の青年は雨の降りしきる城を見上げる。五年前に吹き飛んだ城の上部は無惨にも穴が開き、苔やら木やらがまとわりつくように生えている。

五年か。七人騎士隊の一人が死に、一人が裏切った。裏切り者は王を殺し、姿を眩ましている。それが酷く腹立たしい。親を殺され、共和軍を憎む自分に希望を与えた張本人は帝国軍を、そして自分を裏切った。

「セティ騎士兵、レイナード騎士団総監がお呼びです」

敬礼をする騎士に軽く頷くと、名残惜しそうに城から視線を下ろした。

五年は長いようで短い。少年だったセティはあのときのハイネのように青年へと成長した。ハイネの穴を埋める形で七人騎士隊に所属した。だがこれも、自分達を裏切ったハイネを殺すためだ。

「セティ、気分はどうだ?」

「ハイネを殺してやりたいですね」

セティは皮肉を込めた。五年が経って少し歳をとったレイナードだが、その瞳の鋭さは衰えていない。

「ヤツの行方は未だわからずじまいですか?」

「残念ながらな。だがユンフラングスの魔女と行動しているのは確かだ。だが良い情報がある」

五年前、ハイネは王を殺し、ユンフラングスの魔女の心臓を奪い消えたのだ。

「ガナム騎士団長から連絡が入った。アレスト教の本拠地、渓谷で竜を見たとの情報があるそうだ。それに、フェレスとユンフラングスの魔女が共に消えた所でもある」

そう、フェレスとユンフラングスの魔女ナタリアはアレスト教に向かい、それ以来消息を経っている。ハイネがユンフラングスの魔女の心臓を王から奪い取った所からすると魔女と接触を図っている。そうなればフェレスも接触した可能性は実に高い。

五年間、三人は行動を共にしていると考えているのだ。

「ジュリアール極東方面要塞総司令官の元には騎士団に推薦して頂きました。私一人で向かいましょう」

「騎士団はいらないのか?」

「数を割くわけにはいかないでしょう。私にはバハムートがいます。ご安心ください」

軽く頭を下げると、セティはその場を後にする。

騎士団から一人離れ、森の中へ行く。雨はまだ止まない。

(渓谷か。アレスト教が裏切り者達に慈悲を与えている可能性は十分にある。忌まわしき竜の肉体は私達バハムートを含む魔物の仇だ。セティ、言っている意味はわかるな?)

心の中で囁かれる声に頷く。

「当然、僕もそれは承知だ。君は竜に恨みがあって、僕はあの人に恨みがあるんだ。だから契約したじゃないか?」

地面に浮き出る魔方陣。紫色の光を放ちながら六枚の翼を生やした巨人が姿を現した。下半身は装飾に施されたような形状で足はない。宙に浮くバハムートは竜のように鋭い牙を剥いている。

セティは全く動じる事もなく、バハムートの広げた掌に乗った。抱え込むセティに頷き、バハムートは雨の降りしきる大空へと飛び立った。



「セティ騎士兵」

極東方面要塞へ着いたセティを待っていたのは以外にもガナム騎士団長であった。数人の騎士を引き連れたガナムは正面の門の前に立っていたのだ。

「ガナム騎士団長。脱走兵のハイネ、そして契約獣である竜の目撃があったと?」

「渓谷で調査団が目撃した。つい数日前の事だ。今も騎士団を駐留させている、成果が出るかはわからない」

「なるほど・・・、ジュリアール極東方面要塞総司令官は?」

「南部方面要塞を陥落させた共和軍の同行が気になるそうだ」

「それはまた何故?」

「詳しくは本人に聞くと良い。司令官はお前を待っている」

ガナムは踵を返して歩き出した。

極東方面要塞は周囲を巨大な壁に囲まれた防衛に特化した戦闘要塞だ。ヴァリシュリア城がハイネと竜によって壊滅し、南部方面要塞が共和軍に陥落させられた現在も、極東方面要塞は未だに健在。共和軍が此処を落とすには相当な戦力を消費することになる。

要塞の中は以外にもヴァリシュリア城のように空間としては広い。要塞内部は其処にいる騎士達の都市としても発達しているからだ。都市部を囲むように聳え立つ巨大な壁。都心部にはその全てを統括している建造物が立てられている。此処が現在の帝国軍の本拠地である。

建造物の最上階にジュリアールはいた。

「セティ騎士兵、ただいま到着しました」

敬礼と共に腹の底から声を上げる。部屋の奥の机の椅子に深く座り込んだジュリアールはセティを招き入れた。

「君の活躍は聞いていますよ。推薦人の私も鼻が高い。それより例の裏切り者の件です。渓谷付近でハイネ、共に竜の目撃情報があるのは知っていますね? 状況からしてハイネはフェレス、ナタリアと行動を共にしている可能性が実に高い。いや、ほぼ間違いないでしょう。そして裏には教団が絡んでいる」

「アレスト教にハイネ他二名が加わっていると?」

「何の目的で帝国軍を裏切ったのか、それがわからないと断言できません」

ジュリアールは笑みを浮かべている。五年経つが老いたようには見えない。未だ端整な顔付きは変わらないのだ。

「バハムートはどうですか?」

話を変えるジュリアール。

「ラムセスは良くやってくれます。彼なら五年前のハイネの竜と同等、もしくはそれ以上の戦いをしてくれるでしょう」

「今後の戦いを期待していますよ。貴方に任務を与えます。アレスト教の本拠地に向かってください。目撃情報が正しければハイネ、その他二名は付近に潜んでいるはずです。見つけ次第・・・」


ーー殺してくださいね。


ジュリアールは全く躊躇っていない。当然、セティも顔色一つ変えていない。

「当然です。その為に騎士隊に所属したんですから」

セティは深く頭を下げた。


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