裏切り者
この中に裏切り者がいる。そんな疑心暗鬼な心持ちなのは言うまでもない。廊下を歩く騎士、街を歩く庶民、王の側近に王。全ての者が信用できないのだ。
「ハイネさん」
突然背後から話し掛けられた。振り向いた先に立つのは小さな少年、セティである。
「昨日の戦い、お疲れさまでした」
「ん、あぁ」
セティ、この少年はまずあり得ない。セティのいたあの村は帝国軍の範囲内。共和軍の手助けをするメリットは何もないのだ。寧ろ、帝国軍のメリットしかない。
「あ、レイナードさんが話があるそうです」
「レイナードが? 俺を呼んでいたのか?」
「はい、管理室にいるそうですよ。あの、ハイネさん」
セティは何か言いたげな表情だ。
「僕、ハイネさんみたいに強くなりたいです!」
不意を突かれてきょとんとした。拳を握りしめ、じっとハイネを見つめている。
「昨日のハイネさんのハイネさん、どんどん共和軍を倒して、どうやったらそんなに強くなれるんですか?」
「・・・、俺は人じゃない。人じゃないんだ。お前は俺に憧れちゃ駄目だ」
ハイネはセティの頭に軽く手を当てる。
「レイナードに剣術を学べ。近道をしたら足を踏み外すぞ?」
「ハイネさんは、足を踏み外したんですか?」
セティの質問にハイネの顔が曇った。一度口を開いたが口を閉じてしまう。意を決して重い口を開いた。
「最初から、人じゃないさ」
ハイネの表情は何処か悲しげだ。
「レイナード、呼んだか?」
「戦況報告がまだだ、ハイネ」
無数の書類の中でレイナードは資料を読みながらそう言った。ハイネはおどけるような口を開く。
「昨日の魔物の襲撃は共和軍のものではありません。これでどうかな?」
「一体誰の仕業だ?」
大きく息を吸うハイネ。
「ガタラマストスの魔女、奴が放った魔女だよ」
「ガタラマストス? 共和軍じゃないのか?」
そうだ、と言いながらハイネはづかづかとレイナードに近付く。そうして机を叩く。
「魔女がこの城を襲った理由はただ一つ。騎士団長と騎士団の不在を狙って魔物を差し向けたんだ。南の防衛線も陥落、以前から知ってなければこのタイミングでの進行はおかしい。魔女は言った、騎士団の不在を教えたのは・・・」
ーー帝国軍内部の者だって。
今まで書類を捲っていたレイナードの手が止まった。顔を上げたその表情は酷く困惑している。
「本当か?」
「このヴァリシュリア城の中に裏切り者がいる。怪しいのなんてたくさんいる。誰も信用なんてできないだろ?」
「待て待て待て、本当に本当なのか? それが事実なら、大変なことだ。早急に議会を開いて・・・」
「あんたは元騎士団長だろ? そうなればどうなるかくらいわかるだろう?」
くくくっ、という笑い声が頭の中で響く。
(ここにきて疑心暗鬼か? 仲間内で滅びを狙うとは、頭の切れる裏切り者か)
ハイネは無視してレイナードに一言。
「裏切り者を見つけてくれ」
そう言うと、踵をかえした。何処へ行くと言うレイナードの問いに答えることなく、歩き出した。
(共和軍と帝国軍の差は最早歴然としている。貴様が共和軍を滅ぼすために帝国軍に入ったのも無駄足だったか)
「だったら俺が一人でやってやる」
ハイネの顔が醜く歪んだ。
「シヴァ、東の塔で待っていろ」
(何をする?)
ハイネ黙って答えない。
そしてその晩、城にさらなる衝撃が走った。




