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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
竜の子編
14/34

魔女と騎士

「貴女の力を借りたいの、魔女ナタリア」

蝋燭の火に照らされたナタリアは視線を合わせた。

ユンフラングスの魔物がヴァリシュリア城に攻め混んだのは紛れもなく共和軍の仕業。しかし、魔物を操ることができるのは魔女だけであり、ユンフラングスの魔女であるナタリアにはそれが可能。よってナタリアは城の小部屋に軟禁状態なのだ。

「貴様に手を貸して何の利益がある?」

ナタリアは前に立つフェレスを睨むと窓枠に肘を掛け、目下に広がる街を見る。

「この薄汚い小部屋から出ることができる」

「解放しろ、でなければ手は貸さない」

視線を合わせようともせず、寧ろ毛嫌いしているかのように腕を振る。拘束されて数日、ナタリアの元に上層部からの結果を教えに訪れるフェレスは最早常連といっても過言ではない。竜の次に嫌われる魔女には誰も会いにはこないのだ。

「こんな事は言いたくない、だけど貴女が言うことを聞かないなら、貴女の心臓を・・・」

「切り裂くのか? 握り潰すのか? まるで人質だな」

「そんな・・・。でもどうして? 貴女は何故帝国軍に心臓を?」

ずっと昔の話だ、とナタリアは不満そうに言った。

「帝国軍の傘下の連合諸国が分裂した頃、我々魔女は帝国軍の脅威となった。魔物を操る事が可能なのは魔女だけ。もし共和軍に肩入れすれば帝国軍は共和軍に潰されてしまう」

「じゃあ心臓は共和軍に肩入れしないための保険ってこと?」

「そうだ。今となっては限られた者しか知らないこと。それで、私は何をしたらいい?」

フェレスは思い出したかのように懐から一枚の紙切れを出した。

「貴女も知っている例の教団内部に帝国軍のスパイを送り込んでいた」

「教団に動きが?」

「えぇ。それも此処十年で一番。兵士を着実に増やしている。共和軍の魔物といい、教団といい。何か裏があるはず」

「教団は共和軍にも帝国軍にも属さない独立した集団だ。その二つは同盟も結んでいないのだろ? そうしたなら共通する何かに対して脅威と判断した。そう考えるのが妥当だ」

脚を組み直すナタリアの顔は何処か考え深そうだ。決して帝国軍の為に考えているのではない、魔女である自分でさえも知らない事態が起こっている。そうなれば手を打たない訳にもいかない。

「今すぐに教団の元へ行こう。敵対する共和軍を訪ねる訳にもいかないだろう?」

「私のケロベロスを使う。あの竜程の速さは無いが、歩くよりはましだ」



「何処へ行く、フェレス!」

城の裏口へ向かうフェレスとナタリアを城の廊下でレイナードが呼び止めた。

「騎士団は待機命令が出ているはずだ!」

「教団の元へ。今、共和軍と教団は何か危機を感じています。それを調べなければ」

「ガナム騎士団長がジュリアール極東方面総司令官の元へ言っているだろう! 共和軍が魔物を増やしたように、我々も兵を補充して増やさなければ!」

反論しようとしたフェレスの一歩前にナタリアが出た。

「教団は魔女には手を出せない。教えに反するからな」

「黙っていろナタリア! フェレス、命令を破るとなるとお前は独房行きだぞ?」

「ハイネに待機命令は出ていません!」

レイナードは言葉が詰まり、怪訝な顔をした。フェレスはずかずかと前に出る。七人の内の一人であるハイネは単独行動をとっている。それに対して七人騎士隊のメンバーは不満なのだ。

「何故、ハイネは特別扱いされるのですか! 我々も帝国軍の為に身も心も売ったのです、なのに何故!」

「それは・・・」

「シヴァですか? ハイネが竜と契約しているからですか? 私にも契約魔獣はいます!」

レイナードは腰の剣を引き抜いた。

「これ以上の勝手は許さない。直ちに命令する、城に戻れフェレス騎士兵」

フェレスは唇を噛み締めた。元騎士団長のレイナードは引退した今でもその戦闘力は衰えていない。いくら教団の精鋭部隊に所属するフェレスでも敵わないのだ。

「さもなければ今此処でお前を捕らえることになる」

「力ずく、ですか?」

「俺はお前とは戦いたくない。お前が単独行動をとったのも上層部に言う気はない、だから大人しくしていてくれ」

視線を伏せたフェレスは不満を含んだ溜め息をつく。レイナードには敵わない、当然の結果だ。落ち込むフェレスを横目で見ながらナタリアは口を開く。

「帝国軍は悠長に時を待つのか? 兵だけ増やして原因も解らないまま。何れ共和軍に潰されてしまうな」

「教団に接触してその理由が解るとでも? 教団が帝国軍に手を貸すと思うか?」

「だから言っているだろう? 魔女には手出しができない」

ゆっくりと右腕を上げた。顔の所まで腕を持ち上げ、またゆっくりと手を開く。膨張するようにナタリアを中心に空気が流動し、髪を靡かせる。薄い紫の光が右腕を取り巻き、掌に光の渦が出来た。

「貴様も私には手を出せないのだろう?」

球体状に渦巻いた光をレイナードに向け、笑みを浮かべる。レイナードは剣を構えながら顔を歪めた。

「私の心臓は王の元にある。貴様に手出しはできない」

風圧がナタリアから発せられ、光弾はレイナードを掠り背後の壁を吹き飛ばした。吹き飛んだ破片が宙に舞い、レイナードは顔を庇うように腕で覆う。

「何時までも貴様らの言いなりだと思うなよ。私は魔女である以前に一人の人間だ。不満だって溜まる。それに・・・」


ーー何だか嫌な予感がする。


嫌な予感、レイナードとフェレスは首を傾げた。

「何か心当たりでも?」

「さぁ? それを知るために教団の元へ行くのだろう?」

なるほどとでも言うようにフェレスは頷き、顔を見合わせる。二人のその行動にレイナードは諦めた様子でこう言った。

「わかった、わかった。俺は何も見ていない。誰とも会っていないさ」




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