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DRAGON・DESPAIR  作者: どらごん
竜の子編
11/34

竜と女

『血の契約を交わした者は、軈て一つになる』

 シヴァを真っ直ぐに見るハイネ。巨大な翼を羽ばたき、大きな欠伸。五月蠅そうに顔を逸らしたシヴァにハイネはさらに問い詰めた。

「俺とお前、何故一つになる必要がある? 俺は復讐の為の力が欲しいだけだ」

『貴様に力は与えているだろう。我の契約の目的はただ一つ。この世界を滅ぼす事だ。だが三百年前に力を失い、世界を滅ぼす程の力は持ち合わせていない。我はその為に貴様と一つになる必要がある』

「ナタリアから話しは聞いた。忌まわしき竜は肉体と魂に分けられて封印された。忌まわしき竜の魂を持っていない俺と融合しても忌まわしき竜にはなれないぞ? お前は肉体だけの身、魂は赤子に封印された」

『我は魂の持つ記憶に興味は無い。貴様の中に流れる血の記憶。それを我は欲しているのだ』

 それに、とシヴァが嘲笑うかのようにハイネに言う。

『復讐の力なら、どんな契約でも良いのだろう? 皆殺しでも、構わないのだろう? 貴様が復讐を果たした後、我は貴様の契約の代償を受け取る事になる。安心しろ、今すぐではない』

 破壊された塔の天井からは光が差し込んでいる。何時でも逃げ出せるこの状況からシヴァが逃げ出さないのも、今の状況に満足しているからなのであろう。

 淡々と話すシヴァの横でハイネの表情は何処か重いものだった。昨日の戦闘はハイネの心を深く抉った。復讐と云う綺麗事を並べた、ただの殺戮を繰り返す自分。気が付かぬ内に欲望に憑りつかれている、そんな自分が恐ろしくなったのだ。

「ハイネ」

 塔の入り口にフェレスが立ていた。もどかしそうに視線を伏せたまま、塔の中に入っては来ない。そんなフェレスを見て、ハイネはそっと話し掛けた。

「どうしたフェレス。何かあったのか?」

「ガナムが騎士団を連れて、ジュリアールの下へ行くわ」

「ジュリアールの? あいつに手を借りるのか?」

 詰らなさそうに聞いていたシヴァはまた大きな欠伸をする。

『どうした? 何か不都合でもあるのか?』

「あぁ、俺達七人騎士隊にとっては共和軍の進軍並みの大問題だ。この城からずっと東にある軍事要塞がある。そこの総司令官がジュリアールって奴なんだが、そいつが…」

『同じ帝国軍の者なのだろう?』

シヴァのその言葉にハイネとフェレスは顔を伏せた。二人の顔を横目で見回すと、シヴァは再び詰まらなそうに大きな欠伸をする。

『共和軍と争う他に、仲間内で争うなどとは。愚かな生き物だな』

「共和軍だけじゃないさ」

ハイネはそう言うと扉の外に出ていく。

「何処へいくの?」

「直接掛け合ってくる」

一人竜の元に残されたフェレスは溜め息をついた。ぼんやりとした表情で立ち尽くすフェレスにシヴァが話し掛けた。

『貴様、フェレスとか言ったな?』

不意に話し掛けられたフェレスは一瞬驚いた。世界を滅ぼした竜に話し掛けられたのだ、驚くのも無理はない。

『共和軍と帝国軍は長きに渡って争い続けているのだろう?』

「ん、えぇ。元々帝国軍の傘下にいた連合諸国が共和主義を掲げて分離したのが共和軍。貴方が世界を滅ぼして三百年。人間同士が争いを始めたのも十年ほど前からのこと。」

『何故分裂したのだ?』

「宗教だ、宗教団体の世迷い言だよ」

吐き捨てるようにフェレスは言った。まるで毛嫌いしている。

「神頼みの大馬鹿者達のせいで混乱が生まれて、人が死ぬ。この世界に神なんていない、いたなら世界は平和だった」

大きな笑い声が塔の中いっぱいに響き渡る。重く響く笑い声が何故だか心地よい。

『神がいたなら、我が世界を滅ぼしていないな。あの小僧も村で平和に暮らしていただろう』

「ハイネの過去を聞いたの?」

『帝国の出身ではないという事をな。あやつは村の出身だと聞いている』

一度躊躇ったようだがフェレスは意を決したように話始めた。

「彼の出身は西の外れの小さな村」

『共和軍に皆殺しにされたのだろう? その復讐のため帝国軍に入ったのだな?』

「レイナードに会ったことはあるはずよね?」

『あの隻眼の男か?』

「えぇ。彼がハイネを引き取って・・・。騎士団に所属したのは彼の意思よ。復讐のためにね」

復讐、復讐、復讐。呆れたようにシヴァは反復する。地下から地上に出で数日経ったが、ハイネの口からは復讐の二文字を飽きるほど聞いた。復讐のために生きるハイネは勿論、フェレスの口からを復讐と言う言葉が出るとは思わなかったのだ。

『母親を殺された子供が復讐のために生きる。くだらない感情に囚われずに生きれば良いものの』

「くだらなくなんてない!」

フェレスは叫んだ。突然の発言にシヴァは威圧されたようだ。

「彼は生まれたときから蔑まれ、馬鹿にされ! 唯一の理解者である母親を殺されたら、復讐に走るでしょ? 彼はずっと一人なのよ?」

『・・・』

何も言い返せない、いや言い返さない。シヴァは黙ってフェレスの話を聞いている。ヒステリックに叫ぶフェレスは次第に気落ちしていく。

「孤独の彼の唯一の肉親で理解者の母親。復讐に走るのも当然でしょ? 私も、そんな母親が欲しかった」

何処か悲しげな表情のフェレス。彼女の瞳が一瞬光った気がしたが、シヴァはあえて尋ねなかった。ゆっくりと首を下げ顔を近付ける。その表情は世界を滅ぼした竜とは想像もできないほど慈愛に満ちていた。


ーー愛を、欲しているのか。


思わず顔を上げた。シヴァはじっと見つめていた。躊躇いながらフェレスは口を開く。

「かもしれない」

『人とは、面倒なものだな』

シヴァはまた大きな欠伸で悪戯に囁いた。


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