選べぬ選択
帝国軍は甚大な被害を受けている。圧倒的な数量の共和軍は紅い悪魔と竜を目撃し退いたものの、その爪痕はとても深いものであった。
「魔女の仕業でなければ一体どうやってあれほどの魔物を掌中に治めたのだ?」
数時間前から継続して行われる会議の論点は変わらず、「魔物をどうやって操っているのか」だ。
「魔物を操る事が出来るのは魔女だけです。しかしユンフラングスの魔女は手を貸してはいません」
「なら、一体誰が? 他国の魔女が手を貸したとでも言うのか?」
老人達は勿論、ガナムも首を傾げた。ユンフラングスの魔物が一斉に姿を消して、共和軍についたとなれば魔女を疑うのが当然だ。
「ユンフラングスの魔女、ナタリアが城に来ています」
一人の騎士の発言に王は賛同したようだ。
「直ぐに此処に呼ぶのだ。これは早急に解決しなければならない問題である」
騎士は頭を下げると直ぐに部屋を後にした。
「竜といい、魔物といい。立て続けに問題が生じるとは。ガナム騎士団長、兵を連れて極東のジュリアールの元に行け」
ガナムは席から立ち上がり、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
「何故です、国王陛下! ジュリアールに手を借りるなどもっての他です。奴は人を駒としか思わない、冷酷な男です!」
「だが、指揮官としては優秀だ。明朝までに出発しろ」
「しかし、王よ。奴の・・・」
王は強い口調でガナムを制する。
「これは命令だ。歯向かうのなら委員会を開くことになる」
不穏な空気が流れ始めたとき、扉が勢いよく開いた。
「ユンフラングスの魔女を連れて参りました」
扉の前に立つ騎士の後ろにナタリアは不機嫌な顔で立っていた。
「私は手など貸していない。あの夜、魔物が群れをなして消えていったのだ」
「群れを? 他の魔女が手を貸したのか?」
呆れた表情で立ち尽くすナタリア。部屋に入ろうとはせず、その場でおどけて見せた。
「魔女が共和軍に? はっ、聞いて呆れる。魔女は何処にも属すことはない、それはお前達も知ってることだろう?」
「無礼な、王の前だぞ!」
「お前達の王であって私の王じゃない。とにかく、私は共和軍に手は貸していない」
王は椅子に深く座り込んだ。溜め息を深くつくと、ガナムは腕を組み黙り混んでしまう。
「共和軍の強さは日に日に増している。この城が沈むのも時間の問題。そうなれば帝国軍に勝ち目は無くなるだろう」
「私には関係がない」
「そうなれば貴様の心臓の保証はできないのだぞ?」
ナタリアはふんっ、と鼻を鳴らす。
「貴様に選択の余地はない。ガナム騎士団長、先程の件は任せたぞ。魔女ナタリア。貴様はもう一度拘束する。以上だ」
王の側近の声でその場にいた数人の老人達は席を立つ。不満げに唇をねじ曲げたナタリアの横を通りすぎる。ガナムは腕を組んだまま微動だにしない。ナタリアもまた、その場から動こうとはしなかった。




