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最悪の初対面

「うるせェ!さっさと帰れ!クソババア!」


「ああ、もう二度とこんなとこに来ないさ!」


「そう言って明日来んなよ!その封筒で郵送しろ、14日以内だ、クソッたれ!」


扉を閉める大きな音がして、

その空間に――地方役所の受付に、静寂が訪れる。


「フィーネさん、あの……本当にありがとうござ……」


近くにいた事務の女性が、怒鳴り散らしていた青年に近づく。


青年は煙草に火を付けながら、女性にシッシッと手を振り、

機械的に声を上げる。


「大変失礼しました。皆様、どうぞどうぞ、順番に並んで。」


落ち着いたざわめきが、役所の空間に戻って来る。


「フィーネ君、フィーネ係長……」


小太りのハムスターのような中年の男性が走って来る。


「フィーネ君、今日も派手だねえ。

課長の私の心臓がもちそうにないよ。」


フィーネと呼ばれた青年――

燃えるような赤い髪と、

高温の炎のような青い瞳を持った、眼鏡の青年が振り返る。


「駄目だよ、そろそろ落ち着かないと……

君の噂が届いたみたいで、今日、中央官庁から調査のために……」


コツコツコツ……


上品な足音が近付いてくると同時に、

滑らかな声が降り注ぐ。


「貴様か?

 ――アマデウス州の騒音公害は。」


カウンターの向こうの声の主を振り仰ぐと、

先ほどの課長が声を上げた。


「ドルチェ様!!!」


フィーネが目を上げると、

そこには真っ白な髪をオールバックに撫でつけた、

ゾッとするほど美しい人間が立っていた。


「誰だよ、ドルチェ様って……

今、ラルゴ課長が言ってた中央官庁の人?」


「そうだよ!!トップクラスの偉い人ですよ!!」


ラルゴ課長がヒソヒソと説明する。


「ハハッ!つまり、課長の首も切れる人か。」


「そうそうそうそう!

君のためとは言わないよ。

私のためだと思って、ちゃんとお答えして……」


「おい、そこの赤い小役人――貴様への苦情が、中央まで届いている。」


ラルゴ課長の必死のヒソヒソ話をあっさり断ち切る声。


「小役人じゃねェ。


――フィーネだ。フィーネ・ダ・カーポ。」


フィーネは落ち着いた声で名乗る。


「名前は呆れるほど呑気だな。

実際はキャンキャン泣き喚く赤犬なのにな。」


フィーネは青い瞳を煌めかせて、ドルチェを見据える。


「おい――なんで、初対面から喧嘩を売られなきゃなんねェんだ?

テメェも名を名乗れ、首切り役人。」


美貌の主は、上から見下ろして答える。


「私を知らんのか、小役人。

――オクタヴィア・ドルチェだ。」


「おん?お前、女?

――男だと思ったじゃねェか。」


「女のような名前で悪かったな。

――貴様のような赤犬風情は聞かない名前だろうな。」


フィーネの額に青筋が立った。


「お客様は男性でいらっしゃいますね。

はい、承知しました。


――じゃあ、遠慮しねェぞ!!」


そう言うなり、フィーネは、カウンターを踏み台にしてドルチェに飛び掛かり、

股間を蹴り飛ばした。


「おうおうおう、デケェのはガタイだけじゃねェなぁ?

――ココも大人なんだから、人に会うときには礼儀ってモンも学んどけ。」


が、その瞬間、ドルチェに足を掴まれたフィーネは、

思い切り引き倒され、床に叩きつけられる。


「なんだと?公害野郎。

貴様も赤ん坊からやり直しだ。

泣き喚く前にへその緒を切って来い。」


二人の男は、床に転がったまま襟首を掴み合い、憎々し気に睨み合う。


ラルゴ課長は、その間にきっちりお茶を準備している。


「さあ、ちょっと市民の皆様がウットリ……ではなくて、

驚いて手続が進みません……

窓口が渋滞しますから、さあさあ、あちらにどうぞ……」


***

簡素な役所の応接室に入ると、

ドルチェはラルゴ課長に丁寧に言う。


「この男と二人にしてください。」


先に来客用の椅子にどっかりと腰を下ろしていたフィーネは、

ラルゴ課長が出て行くなり、横目でドルチェを睨む。


ここで、事務の女性が菓子を持って入って来た。


「ありがとう。」


ドルチェの微笑みの美しさに、

トレイを取り落としそうになる女性。

――が、何とか正気を取り戻す。


「あの……ドルチェ様……」


「うん?何かあるならどうぞ、お嬢さん?」


その豹変ぶりに、フィーネが呆れかえった表情でドルチェを見る。


「あの、フィーネ係長は悪くないんです。

フィーネさんは……私にずっと絡んでいた、嫌なおばあさんを追い返してくれたんです。」


ドルチェは優しく女性の手をとる。

女性は話を続ける。


「この役所は……困ったお客様が多いんです……

でも、フィーネさんが来てから、本当に……フィーネ係長が……」


ドルチェは女性を見つめながら、優しく頷いた。


「お話は分かりました。

さあ、係長と二人にしていただけますか?」


女性が頭を下げて退出すると、ドルチェは壁を背に佇んで黙り込んだ。

フィーネが苛立った声を上げる。


「あ?俺の首を切るの?切らねェの?どっち?」


ドルチェはフィーネに、紫水晶のような瞳を向けた。


「手を貸せ。」


「ハ?」


唐突な言葉に、さすがのフィーネも面食らう。


「貴様の力を貸せ。」


「俺の力?」


フィーネは鼻で笑った。


「騒音の力?大声で泣き喚く赤犬に、中央官庁で股間蹴られたいわけ?ハハハハ……」


「貴様の、力だ。」


フィーネは笑いを止め、ドルチェを見る。


「何が言いたい。」


「貴様の力――終局(エンデ)のことだ。」


ドルチェはゆっくりとフィーネに近づき、

近づくほど美しさを増すその顔を寄せて、低い声で囁いた。



「貴様の力を、


私に、


貸してほしい。」




第2話は、明日の朝5時頃に公開予定です。

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