↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/105

一旦帰還してみたら

少し空に雲が広がる早朝。

生暖かい風が妙な焦げ臭さを運ぶ。


エヌス・ヤタの入り口にある【ラブ&ピース】の看板はものの見事に"く"の字に折れ曲がる。

復興の途上にあった町は再び魔物に襲撃されて無惨な姿になっていた。


「こりゃ、ひでぇ」


ディアナが言った。


それもそうだ。

一瞬で"崩壊"という言葉が思い浮かぶほどの惨状に唖然とするしかない。

これって僕が初めて町に来た時より酷いのではないだろうか?


そう思いつつ、僕、ディアナ、マルタさんの3人は町に入った。


_______________



町に入ってすぐ、僕の方へと歩み寄る2人の女性がいた。


隣に立つマルタさんの警戒心が伝わってくる。

僕はすぐに"大丈夫だよ"と声をかけた。


こちちらに歩いてきたのは漆黒の鎧を身に纏う、長い赤髪の魔神イヴ・ガルハート。

そして、ぴっちりとした黒いローブを着たポニーテール青髪の魔神セシル・アクアリュウム。


どちらも神妙な面持ちだった。


「主人様、おかえりなさいませ」


そう言って、2人は僕の前に片膝をついてひざまずく。


「一体、何があったの?」


この質問に答えたのはセシルだ。


「すべては私の責任です。第二総魔将ダレンツォ・ダーク・グリトニアスの"使い魔"に私自身が監視されておりました」


「監視?」


「はい。そこでイヴと私の離反りはんを知り、この町ごと葬ろとしたようです」


「そういうことだったのか」


「この度の失態は言い訳のしようもございません。主人様が復興に尽力されてこられたのにも関わらず、我らは町を守り切れなかった」


そうセシルが頭を下げながら言った。


すると、僕の後ろに立つディアナが、


「これは鞭打ちでは済まんな、処刑だろう」


とボソリと呟く。


「もはや、返す言葉もない」


魔神の世界だと町が崩壊したら参謀本部の本部長を処刑にするのが普通なの?

それだけじゃない。

実動部隊の部隊長も処刑?

そんなことやってたら優秀な人材がいなくなっちゃうでしょ。


いや、それよりも処罰とかの前に確認することがある。


「町の住民は大丈夫だったの?」


「全員無事でございます。負傷した者は一人もおりません。怪我人は外部から来た冒険者や商人だけです」


答えたのはイヴだった。

さらに続けて、


「主人様の"策"のおかげでございます。この度も先を見通される、ご見識に感服いたしました」


そう緊張気味に言った。

お世辞のように聞こえるけどイヴは本当にそう思ってるんだよなぁ。



確かに彼女が言う"策"というのは僕が考えたものだった。


これを説明するには、まずN86を操る走り屋"タクミウス"さんの話をしなければならないだろう。


実は彼の職業は配送。

といっても豆腐を運ぶわけではない。


タクミウスさんは東部の町を回って物資を調達し、他の町で、それを必要としている人に届けるという仕事をしていた。

エヌス・ヤタの復興においても家屋修繕に必要な資材を他の町のから集めて運んできていたのだ。


そこで僕はタクミウスさんに"ある物"を大量に調達してもらった。


それは【転移石】だ。


恐らく、この町の復興において最もお金が掛かったであろう最大の防災計画。


【転移石】は高額なのだが、これを町の住民、全員ぶん用意して配らせた。

(ユーフェンさんを含めた冒険者たち総出で配ってもらった)


『もし町に魔物が攻めてきた時は迷わず転移石を使うこと』


そう通達しておいていた。


ご存知の通り、この町の中央広場にある転移の石碑は壊れて使い物にならない。

そうなると、もし町で【転移石】を使った場合はどこに行くのか?


そう……"イヴとルザルグが戦ったギルドの地下洞窟"へと転移する。


僕はこの地下洞窟を住民の緊急避難場所にした。

あそこは広くて、この町の住民であれば全員収容できる。

なにより魔物の目も届かない。

これによって町の住民は全員無事だったというわけだ。

すべてはみんなの協力があってこその安全対策だった。


「それはよかった」


僕はホッと胸を撫で下ろす。

少し間があってから、跪いたままセシルが口を開く。


「主人様、我々への処罰は……」


「無いよ。むしろ、ご褒美をあげないとね」


「……え?」


2人は顔を上げた。

驚きと困惑で表情が固まってる。


「我々は町を守り切れず、これほどの被害を……」


「誰も死ななかったのならいいじゃない。時間は掛かっても形ある物は壊れたら直せるからさ」


「な、なんと寛大な……」


「ランジェリカさんも無事なんだよね?」


「はい。今は休んでおられます」


「それなら問題無しだ。イヴさんもセシルさんもよくやった。2人も無事でよかったよ」


「あ、主人様……」


イヴもセシルも胸に手を当てて僕を見上げていた。

その目には涙を溜めているようにも見える。


とりあえずズワーンさんのクエストは少し保留にしなければならないだろう。


町を見て回ってから、住民の心のケアをしていかないといけない。

とにかく僕が前向きにことを進めなければ……でないと、みんな絶望しちゃうからね。


ひとまず僕の婚約者に会わないと。

ランジェリカさんの無事な姿をこの目で確かめたい。


イヴとセシルへのご褒美はその後だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。