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夜、町は炎に包まれていた。


壊れたアヴァロ魔鉱石がある中央広場では"レノール"と呼ばれる蛇頭の魔物とイヴ・ガルハートが召喚したアンデッド兵が戦う。



さらに私の目の前で新たな戦いが始まろうとしていた。


青髪の魔神、セシル・アクアリュウムの手には大きな魔導書が開かれている。


対するのは"レヴィン"と名乗った魔物。

厳密に言えば第二総魔将ダレンツォ・ダーク・グリトニアスの使い魔だ。


レヴィンはセシルの数十メートル先に立つ。

全身を覆う黒いマント、深く被ったフードによって、どんな姿をしているのかわからない。

声からして"男性"だと思われるが、それ以外は謎の存在であった。


「処刑されるのなら、わざわざ私が手を下す必要もないが……ダレンツォ様に貴様らの首を持っていかねばならんからね」

  

そう言って、ゆっくりとこちらへ近づくレヴィン。

歩く度にマントの中から無数の細かい虫が落ちて、それらが地面を這い回る。

しかし、宿主から落ちた虫はすぐに力尽きて灰になって消えていった。


「使い魔ごときが魔神の私に勝てるとでも?」


「セシル・アクアリュウムの能力が、どの程度かは聞いている。私の前では小物だ」


「これはみくびられたものですね。ダレンツォがそう言ったのかしら?」


「あの方は魔神全員の力を把握しておられる」


私はこの会話に息を呑む。

セシルの魔法の威力は荒野の迷宮で見た。

あの土の巨兵を一瞬のうちに凍らせてしまうほどだ。


魔法の才能が全くない私にとって異次元なレベルであったが、それでも"小物"とは。

このレヴィンという使い魔は、よほど自らの強さに自信があるのだろう。


「なら、私の魔法を身を持って知るといい」


彼女の周囲におびただしい数の"水の剣"が生成される。

その切先が向けられた方向はもちろん歩みを続けるレヴィンだ。


「『水星の剣』・拡散ディフュージョン


彼女が呟くと水の剣は瞬時に射出され、レヴィン目掛けて飛ぶ。

水の剣は黒マントを突き破り、同時に破裂した。


そして、ようやく水剣による攻撃が終わった。


あれで死なぬ者などいようか?


しかし……、


「この程度で"魔神"とは。拍子抜けだ」


穴の空いた黒マントからドス黒い瘴気が吹き出す


あれだけの攻撃を受けて無傷?


黒マントにはいくつも穴が空いているが、レヴィンは不動。

穴の中は真っ黒で見えない。

その中からはやはり虫が落ちた。


「今度はこちらから……」


レヴィンが言いかけたが、


「『月の風霊』」


セシルは攻撃を止めることはなかった。


風の球体がレヴィンの頭上に出現して即座に破裂する。

その風の圧力は凄まじく、地面は抉られて土埃を巻き上がらせた。



すると土埃を掻き分け、"何か"がセシルの方へ向かって伸びる。


それは"巨大なムカデ"だ。

土埃の中から一直線に伸びたムカデがセシルの胴体に巻き付いて拘束する。

彼女は体をギシギシと音を立てて締め上げられると、持っていた魔導書を地に落とした。


「無駄だ。私には貴様程度の魔法は効かん」


徐々に土埃が風に靡いて消える。

レヴィンは黒マントからムカデを伸ばしているようだが、相変わらず本体の姿形は見えない。


「まだまだ、ここからが本番だ」


言うとレヴィンは俯き地面を見る。

そしてフードを深く被った、顔があるはずの部位から大量の紫色の液体を吐き出した。


液体は意思があるかのようにセシルの足元へと迫り、水溜りを作った。


「フフフ、これは私の好きな殺し方でね」


紫色の液体は霧のようなものを発生させ、徐々にセシルのローブを溶かし始める。


「皮膚も肉も臓器も溶かして体を骨だけにする。残るのは首から上だけ。想像するだけで興奮するだろ」


「……」


セシルは何も言わなかった。

ただ無表情でレヴィンを見ている。

彼女のブーツは溶けて無くなり、ローブも消えていく。

残るのは白い肌と青色の可愛らしいショーツだけだ。


「恐怖で言葉も出せぬか」


「はぁ……」


「ため息とはまた随分と余裕だな。いや、強がりか?」


「あなたは私の能力を聞いて知ってると言いましたよね?」


「それがどうした?」 


「私は今の戦いで、あなたのことがわかりましたよ」


「フフフ、こんな短時間で私の能力がわかるわけがない」


「はぁ……」


レヴィンの言葉にセシルは再びため息をつく。

そして静かに言った。


「私が言ってるのは、あなたの"性格"の話です」


「なんだと?」


「"好き"とか"嫌い"などの感情を戦いに持ち込むのはナンセンス。戦いにおいて最も大事なことは、"いかに敵の弱点を素早く見つけ出して迅速に殺すか"……それだけです」


セシルが言い放った瞬間、紫色の液体の上にあった閉じられた魔導書が勝手に開く。

そして白い風を纏いつつ、ゆっくりと浮き上がった。

魔導書は彼女の胸のあたりで止まる。


「まぁ、あなたの能力もわかりましたけどね」


雨が降ってきた。

さらに暴風が吹き荒れ、雷が無差別に落ちる。


雷の一本がセシルを拘束していた巨大ムカデに直撃すると炎上させて灰にした。


「"無影の書"・モード『天地全能スカイ・オール・アース』」


青色のブラとショーツだけになった彼女の脚には氷で作られたヒールブーツが装着される。

さらに、細かい氷で形成された白銀のローブが体を覆った。


地面が四方八方に割れ、紫色の液体は流れて落ち、亀裂からは炎が吹き出す。


水、雷、氷、地、炎と繰り返される魔法展開。


その標的は定まったようだ。

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