夢の中で見る、町の炎上と崩壊
この日の夜、僕は夢を見る。
夢の中の僕はただ愕然として、その光景を見つめていた。
炎上する町。
町は火炎の灯りで無惨に照らされている。
復興と途上にあったエヌス・ヤタは再び崩壊へと向かう。
僕の……いや、私の頬に涙が伝った。
「なぜ、こんなことに……」
「ランジェリカ様!町に近づくのは危険です!」
止めるのは従者のサラだ。
だけど私は構わず、町へと足を踏み入れた。
「ランジェリカ様!」
彼女の言葉はもう私の耳には届いていない。
今は町の住民を守ることが最優先。
鎧は重く、これを着たまま走るのは体力を使うけど、それでも"あの方"なら同じことをするだろう。
「なぜ、住民が一人もいないの……?」
町の中央、壊れたアヴァロ魔鉱石付近に来てから初めて気づく。
エヌス・ヤタを訪れている冒険者や商人は逃げ惑っているが、"この町の住民"が全く見当たらなかった。
先に町に入ったセシルが避難させたのだろうか?
だけど、それにしても早すぎる。
私たちが町の炎を見てから数分しか経っていない。
そして私は町の広場で目にする。
ここでおこなわれている"圧倒的な戦闘"を。
漆黒の鎧を纏った魔神イヴ・ガルハート。
彼女が召喚した巨大な騎士風のアンデッド兵と対立するのは魔獣……なのだろうか?
色黒く筋肉質で顔は例えるなら蛇だ。
人間のような体だが、大きさはその3倍はある。
シルバーメイルを身につけ、巨大な斧を持つ。
蛇顔の魔獣は手に持った斧を振り、イヴのアンデッド兵と剣を交えているが、ぶつかる度に風圧で地面や周囲の建物を破壊した。
「な、なんだ、あれは……」
「ランジェリカ様……あれは私たちにはどうもなりません……あんなものは……」
いつも気丈なサラだが、この時ばかりは怯えていた。
それもそうだ。
あんなものがこちらに向かってきたら私たちは一瞬で死を迎えることだろう。
そう思った時、私は突然の寒気に襲われた。
同時に背後から声がする。
「おやおや、これは観戦者ですかな?」
男の声?
妙に聞き取りづらい。
振り向くと数メートル先に異様に背が高く、黒いマントを着た者が立っていた。
黒マントは体をすっぽりと覆い隠し、顔はフードを深く被っていて見えない。
私は直感する。
目の前にいるのは"人間"ではない。
「誰!?」
「私たちは第二総魔将ダレンツォ・ダーク・グリトニアス様の使い魔。"レノール"と"レヴィン"……ああ、ちなみに私がレヴィンだ」
「わ、私たち……?」
「あっちで黒い鎧と戦ってるだろ?あれがレノールだよ」
「使い魔が……言葉を話せるなんて……」
「私だけ特別に許されている」
魔神には詳しくは無い。
だけど第二総魔将の噂は聞いたことがある。
闇の魔法を使う、魔神最強と言われる存在。
あとは、魔神は全部で"9体"いて、そのうちの"1体"だけが確認されていないというのは有名な話だ。
【第一総魔将】を名乗る魔神だけは、この数百年の間、誰も見たことがないという。
「ラ、ランジェリカ様……お、お逃げ下さい……ここは私が!!」
サラが杖を構えて私の前に立つ。
その体は震えていた。
「これは、これは、また勇敢な。見るからに地を這う小虫ほどの力しか持たぬ人間が私の前に立つと」
レヴィンが苦笑気味に言うと、深く被ったフードの中から"様々な種類の虫"が落ちる。
それを見たサラは失禁した。
彼女の白いローブを暖かい尿が濡らす。
「やはり人間は反応が面白い。君は特に気に入った。飼ってみようかねぇ、そうなれば少し大きめの"瓶"を用意しないと」
「ひ、ひぃ……」
それを聞いた私は腰に差した剣を引き抜き、サラの前に出る。
「彼女は私の従者だ。誰にも渡さん」
「ランジェリカ様……」
「君は……好きじゃないな。その反抗的な目が気に食わない。殺して皮を剥いでダレンツォ様に献上しよう」
レヴィンが言うと、凄まじい瘴気が黒いマントの隙間から吹き出る。
だけど引くわけにはいかない。
私にはもう後がないのだ。
ここで退けばそれまで。
そう思った瞬間、
「ランジェリカさまは、お下がりください。この"害虫"は私が処理しますので」
どこからか聞き覚えのある声がした。
すると凍えるほど冷たい風が吹き荒れる。
レヴィンは黒いマントを靡かせ、数十メートル後退を余儀なくされた。
そして私の目の前に空中から降り立つ人物。
青い長髪をポニーテール、黒いローブを身につけた眼鏡の女性だ。
手には大きな魔導書が開かれている。
「セシル・アクアリュウムか。イヴ・ガルハートと同じ裏切り者の魔神」
「それが何か?」
「なぜ、あのような人間に仕えている?」
「あの方は私の全てを受け入れてくださった。ただそれだけです」
「だから魔王様に逆らうというのか」
「ああ、それですか。私は魔王様の秘密を知ってますから」
「なんだと……貴様……なぜ……」
「その反応を見ると、やはり事実ですか。まぁでも、それくらい少し考えればわかります」
「ならば、ここで葬るしかあるまい。イヴ・ガルハートと共に土に返す」
「どうせエヌス・ヤタがこうなった時点で我らの命はもう無いのと同じ。我らは主人様に処刑されるでしょう。その前に貴様を処理せねば」
落ち着いた雰囲気のセシルからは想像できないほどの殺気が放たれている。
それは、どんなに鈍感な人間でも身震いするほどだろう。
夜、家屋が炎上する中、魔神セシル・アクアリュウムと第二総魔将ダレンツォの使い魔・レヴィンの戦いが始まった。




