新入社員と計画の概要
場所は未だにアーバスラム西部のカイデ・モーグの町。
僕は早朝、マルタさんが休む部屋へ向かった。
白狼ガルサスさんの衝撃波によってダメージを負った彼女が心配だったのだ。
部屋をノックすると、
「どうぞ」
マルタさんの声がする。
僕は1人、部屋に入るとマルタさんはもう騎士の服に着替えていた。
ブラウンのベリーショートの髪で、まだあどけなさが残るそばかすの女性。
年齢は10代後半くらいで若く見える。
決して美人ではないが、可愛らしい女の子といった印象だ。
彼女の顔を見て、僕は居た堪れない気持ちになった。
「マルタさん、ごめんね」
「いきなり、どうしたのですか?」
「実はマルタさんはもう砦には帰れないんだ。ガルサスさんに本当のこと言ってしまって……」
"本当のこと"とはマルタさんが騎士の仕事を辞めたがっているという話。
彼女は剣術やスキルが優れているらしいが、魔物や犯罪者と関わることが怖いのだ。
僕はそれをそのまま大団長ガルサスさんに伝えてしまった。
「僕のせいで、せっかくの仕事が……」
「いいんです。これでスッキリしました」
「スッキリ?」
「ええ。先輩の言葉で決心しました。私のことだけならまだしも、ランジェリカお嬢様のことを悪く言うのは許せません」
「ランジェリカさんのことを知ってるの?」
「はい。砦にいらっしゃった時はとてもよくしてもらいました。シオン様こそ、ランジェリカお嬢様のことをご存知なのですか?」
「ええ。僕の婚約者ですから」
「……え!?」
「だから言ったじゃないですか、僕の婚約者のことを知れば親御さんも悪くは思わないと」
「そうでしたか……私は、またランジェリカお嬢様にお会いできるんですね」
マルタさんは笑み浮かべた。
これはランジェリカさんの御付きにした方がいいかもしれないな。
最初はセシルの店の店長代理兼、参謀補佐みたいな役職を考えていたけど彼女の幸せを考えれば前者の方がいい。
「ここから東部を目指しますけど、体の方はもう大丈夫ですか?」
「はい。私のことはお気になさらず。ランジェリカお嬢様にお会いできるのであればすぐにでも向かいたいです」
「それは期待してもらえると。計画では僕たちが東部中央に着く頃にはランジェリカさん達は、もういるはずです」
「計画?」
概要はこうだ。
東部中央の町であるレヴォン・バレイズに入るには賢者ズワーンさんのクエストをクリアする必要がある。
クエスト内容をおさらいすると"体が焼け爛れた謎の人物を救う"ことだ。
セシルが考えた、この謎の人物を救う方法は2人の女性からスキルを複写するというもの。
1人は魔神のディアナ・ボルティクス。
もう1人は勇者候補のエリシア・ラバロ。
ディアナのスキルの『付与』で勇者候補のエリシアさんのスキルである『治癒』を謎の人物に付与して体を再生させるという作戦。
こうなると必要になる動きは僕がディアナとエリシアさんに会わなければならないわけだ。
ディアナがいる白狼の砦には僕が向かって従属し、助けてスキルを複写する。
エリシアさんはエヌス・ヤタにいるので、ここから戻る必要があるのだが、それでは効率が悪すぎる。
なのでセシルとランジェリカさん、サラさんの3人はエヌス・ヤタへと戻ってもらってエリシアさんを連れてくるという計画にした。
(ちなみにユーフェンさん、アイヴィさん、クミルさんの3人娘はズワーンさんの家に残ってもらっている)
これなら僕が東部へと戻る頃には、ズワーンさんの家にエリシアさんが到着しているという流れ。
あとはエリシアさんを従属してスキルを複写できれば、その場で"謎の人物"を救えるというわけだ。
セシルが考えた計画だが、さすが我が軍が誇る参謀だね。
……まぁ、軍なんて持ってないけどさ。
「承知致しました。このマルタ・リエット……必ずシオン様のご期待に応えてみせます」
「ありがとう。これからよろしくね」
無事、マルタさんを正式に新入社員として迎えることができてよかった。
今は時間が惜しいから、彼女との戯れはまた今度だな。
こうして僕とディアナ、マルタさんの3人で東部にある荒野の迷宮に戻ることになるのだった。




