犬とギルドと嘲笑の冬(1)
それは衝撃的な出会いだった。
町に着いてから最初に知り合った人物がまさかの勇者候補。
ゼイバーさんは背が高くてイケメン。
さらに正義感も強くて優しい。
「鎧はブルーだったけど、あれはレッドだな」
こんな特撮の話をしている時点で僕はモブだ。
逆にゼイバーさんはパーティーメンバーを守りきれずに負傷させてしまったわけだが、それでも前向きに勇者候補をしている。
「ゼイバーさんは間違いなく主人公だよ」
主人公だからと言って完璧というわけではない。
失敗の後にどう行動するかで、その人物の本当の真価が問われるのだ。
そうなるとゼイバーさんは100点満点だろう。
「ゼイバーさんって、どんなスキルを持ってるんだろうなぁ」
勇者候補が持てるスキルはただ一つだけ。
ゼイバーさんの勇者スキルは多分、『両手大剣で切り抜いてからの……時間差で背後が爆発』だろう。
想像通りならカッコ良すぎる。
「僕もそんなカッコイイのがよかったのに……」
手に入れたスキルは"ただ動物を一定時間、懐かせるだけ"という戦闘には全く役にたたないハズレスキル。
引いてしまったのは仕方ないが、これで勇者候補と言えるのか?
どうしてもゼイバーさんと自分とを比べてしまう。
「ギルドカードに表示されるっていう"ステータス"に期待したいな」
スキルがダメならステータスだ。
レベルや能力値は高いとは思えないが、僕だって前向きに生きたい。
僕はわずかな期待感を胸に、慣れない宿のベッドで眠りについた。
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起きるとすでに夕刻。
旅の疲れなのか、ずっと寝てしまっていた……。
今日は昨日と違って、どんより曇り空。
僕の心を表しているが如くの天気だ。
借宿から冒険者ギルドまではさほど距離はなかった。
とはいっても歩いて10分ほど。
宿からギルドまでは人通りは少ない。
数人の住民と野良犬がぶらぶらと歩いているくらいだ。
到着すると目に入ったのは木造二階建ての簡素な作りの建物。
僕は深呼吸してから両開きのウェスタン風のスイングドアを開けて中へと入る。
冒険者ギルド内は賑わいを見せていた。
左側一列に置かれたテーブル群、奥から逆L字に受付カウンターがある。
カウンターの内に階段が設置されているのを見ると、恐らく2階は事務所か何かだろう。
テーブルには男女それぞれ違った体型の冒険者がいて談笑している。
僕はそんな彼らを横目に受付へと向かう。
みんな話に夢中で僕のことなんて気にする人間はいない。
さっさとギルドカードを発行してもらって目立たないように出よう。
受付には白い肌の綺麗な女性が立っていた。
セミロングの金色の髪で片目が隠れていて、キリッとした顔立ちの若い女性。
服装は品のあるグレーのレディーススーツで白のブラウスの上からジャケットを羽織り、下はスーツスカートを身につけている。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
ニコリともしない。
氷のように冷たい目だ。
「え、えーと、今日が初めてで……」
「お名前は?」
「シオンと申します」
「かしこまりました。ではギルドカードを発行します。少々、お待ちください」
金髪の受付嬢さんはカウンターの奥から手のひらさサイズの四角く平べったい青い石を取り出した。
どこかで見たことのある色合いだ。
「これは……もしかしてアヴァロ魔鉱石?」
「そうです。こちらに左手を当てることでシオンさんの体内情報を読み取ります。そこから"ステータス"と"スキル"をギルドカードへと書き込むという流れになります」
「なるほど」
「ギルドカードは仕事を受ける際に使いますので必ず常備して下さい。"ステータス"と"スキル"はレベルが上がったり、新たなスキルの習得の際にその都度、勝手に書き換えられていきます」
「わかりました」
「では手をどうぞ」
「は、はい」
僕は左手を青い石の上に乗せる。
すると受付嬢さんは僕の手の甲にある黒い竜の紋章を見ていった。
「まさか……勇者候補?」
そう言って初めて表情を変えた。
ギルド内の談笑が止まる。
視線が一気に僕へと向けられた気がした。
「は、はい……一応」
「そうですか。それではカードを発行します」
反応は薄い。
しかし、周りの反応は違う。
やはり勇者候補とは特別な存在のようだ。
受付嬢さんがカウンターの下でなにやら作業している。
よくは見えないが何も書かれていないICカードのようなもののを青い石の上に置いた。
少しすると受付嬢さんは眉を顰めて首を傾げた。
「……ん?」
「どうしました?」
「いえ……今までに見たことがないステータスなので……」
「それは、どういう意味ですか?」
「私が今まで見た中でも一番、最弱です」
僕はギルドカードを受け取った。
そして初めて自分のステータスを目の当たりにする。
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名前 シオン
レベル1(MAX)
ちから・・・・3 (MAX)
まりょく・・・5(MAX)
ぼうぎょ・・・2(MAX)
ずのう・・・・4(MAX)
はやさ・・・・2(MAX)
スキル……
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僕は一つ一つ、確認するようにして読み上げていった。
"ステータス"というものを初めて見る自分ですらも、これは最低な数値だということはわかる。
そして、これ以上アップすることがないという意味の"MAX"の文字。
焦った僕がスキルの説明に視線を落とそうとした時、周りで聞き耳を立てていた冒険者たちが一斉に笑い出した。
「ありえねぇ!レベル1で打ち止めなんて!」
「その辺のガキでもレベル3はあるぞ!」
「たまにいるんだよぁ。勇者候補を名乗りたくて左手に紋章を彫るやつがさぁ!」
「さっさと田舎に帰った方がいいぞー。"レベル1"くーん」
ギルドは嘲笑に包まれた。
聞いていた受付嬢さんも苦笑する。
僕は俯き、何も言えなかった。
あの時と同じだ。
たった一言で僕という存在を表現される。
まさか生まれ変わっても、それが変わらないなんて……。
わずかな期待も打ち砕かれた僕は逃げるようにして冒険者ギルドを後にした。




