その男、イケメンにつき
中世ヨーロッパを彷彿とさせるラーグ・グレイスの街並みはファンタジー世界に来たというより、海外旅行に来たという感覚。
どこか本とかテレビで見たことのあるような親近感ある町の作りだ。
(そうは言っても僕は海外旅行には行ったことはないのだけど)
ただ唯一、違和感を覚えたのは町の中央広場のど真ん中に聳り立つ四角く細長い青色の石。
アヴァロ魔鉱石で作られたという転移の石碑だ。
これだけは全面に"ファンタジー"という雰囲気を醸し出していた。
「見上げた感じだと15メートルくらいはあるかな」
ここまで送ってくれた父の友人であるおじさんの話しだと、この町の転移の石碑はほとんど使われていないのだとか。
ラーグ・グレイス周辺のダンジョンには強い魔物もいないし、わざわざ高額な転移石を使って町まで戻ってくる冒険者はいない。
だけど、おじさんが言っていた"冒険者が消える"という事件に強い魔物が関わっているのだとしたら……。
「始まりの町で、突然の窮地ってこともあり得るぞ」
そう呟いて息を呑む。
すると……転移の石碑がいきなり青い光を放ち始めた。
「え……ど、どうしちゃったの!?」
一番近くにいた僕は困惑してあたふたしていると、周りにいる市民や冒険者もザワザワと騒ぎ出した。
すぐに青い光の中から2人の男性が僕の目の前に現れる。
1人は片足に怪我を負っていて、もう1人が肩を貸しているという状況に見えた。
肩を貸していた若い男性と目が合う。
「君、ちょっと手伝ってくれるかい?」
そう落ち着いた様子で言ったのは、整えられた金色の髪で青色の鎧を身に纏った騎士風の青年だった。
「は、はい」
僕はすぐに金髪の青年の逆側へとまわって肩を貸す。
そして、そのまま怪我人である男性の借宿まで向かった。
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夕刻頃。
怪我をした冒険者は出血はひどかったものの、命に別状はなかった。
……が、医者の見立てでは足はもう動くことはないとのこと。
医者は回復魔法を使えるが足の神経のダメージがひどくて手に負えないそうだ。
この冒険者は引退を余儀なくされる。
僕は借宿の外で医者から報告を聞いて言葉を失っていた。
隣に立つ金髪の青年も肩を落とす。
僕たち2人は医師が立ち去っても借宿から離れられなかった。
「……私が彼を守りきれなかったのが原因なんだ」
「そ、そんなに強い魔物が?」
「いや、たまたま入った洞窟で挟み討ちにあってね。弱い魔物だから最初は乗り切れると思って戦ったんだが数が増えて……私は自分の力を過信していたようだ」
「でも、よく転移石なんて……あれは高価だと聞きましたけど」
「高価だろうが関係ない。パーティーメンバーのことを第一に考え、守るのが"勇者候補"の役目だ。人の命を救えるのなら金に糸目はつけないよ」
「勇者候補って……まさか……」
「申し遅れたね。私は"ゼイバー・ディバンツァ"。奇しくも勇者候補に選ばれた一人さ」
まさか町で最初に知り合った人が自分と同じ勇者候補だとは。
なにより、彼の容姿は僕とは全く違う。
その整いすぎているほどの顔立ちとは"乙女ゲーのパッケージのセンターを獲得できそうなほど"のイケメンっぷりだ。
さらに羨ましくなるほどの高身長。
僕は多分、今かなり顔を引き攣らせていると思う。
「あ、あなたが……僕と同じ……」
「同じ?ということは君も勇者候補なのかい?」
「ええ、実は……奇しくも……」
「そうか!君は見たところ駆け出しのように見えるけど、もしかしてルーキーなのかな?」
「ええ、今日、この町に着いたばかりなんです」
「それは最初から大変な経験をしたね。だが、これも何かの縁なのだろう。同じ勇者候補として仲良くしよう!」
ゼイバーさんの笑顔が夕日に照らされて、とても眩しかった。
気のせいか笑った時に見せた歯がキラリと光ったように見える。
そして、
「左手で失礼、先ほどの戦いで右手を痛めてね」
そう言ってゼイバーさんは"左手"を差し出した。
それが握手の申し出だと気づくのが遅れて、僕は急いで彼の手を握った。
「僕はシオンと申します!」
僕はぺこぺこと何度かお辞儀した。
ゼイバーさんは僕の手を離さず、なぜか外側へ手首を捻って視線を落とす。
すると顔を強張らせながら呟くように言った。
「"黒竜の紋章"だと……ありえん……」
「え?」
「あ、いや、なんでもないよ。これからよろしくね、シオンくん」
「はい、よろしくお願いします!」
ゼイバーさんはすぐに笑顔に戻る。
聞きしに勝るイケメンっぷり。
別に自分で立候補したわけではないが、僕は本気で勇者候補を辞退したくなった。
そして僕たちは日が沈み始める頃に別れた。
今日はもう遅いので明日の朝に冒険者ギルドへ行くことにして、僕は自分の泊まる宿へと向った。




