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荷馬車でGO

僕にとっての始まりの町となる"ラーグ・グレイス"まで荷馬車での移動になった。


やはり不安はあった。

絶対に僕は勇者にはなれない。


だけど挑戦したい気持ちもある。

もしかすれば僕にだって成長の余地が残されているのではないか……?


そんな淡い期待を抱きながら、僕は荷馬車へと乗り込んだ。


__________



時は陽がちょうど空の中央にくる昼時。


僕は馬車の荷台に積まれた大量の作物と共に揺られながら始まりの町を目指した。


御者である行商人のおじさんは父の友人だった。

どうやら父と同じ剣術道場の門下生らしく、共に汗を流した仲なのだとか。


「いやぁ、まさかオルドの息子が勇者候補なんてな!」


「え、ええ……」


「勇者候補と会うなんて初めてだ。世界には千人、万人はいるとは言われてるのにな」


むしろそんなにいるのか勇者候補。

そんなにいるのになぜ会えないんだ。


「どちらにせよ名誉なことさ。そうなると、この北部だと今は勇者候補が二人いるってことかぁ」


「二人?この北部に僕の他に勇者候補がいるのですか?」


「ああ、ちょうどラーグ・グレイスに滞在してるみたいだ。なんでも修行兼パーティーメンバー探しだとか」


「へー、どんな人かな。会ってみたいです」


「噂では好青年らしいぞ。よく気が利いて身の回りを気遣えるとか。顔もよくて性格もいい、さらに剣の腕も立つらしい。他の冒険者と積極的にパーティーを組んで助けてるんだと」


「な、なんだ、その完璧超人の主人公タイプは……」


「そりゃ勇者候補だからな」


"会いたい"という言葉を撤回したい。

そんな人間と会ったら、間違いなく自分とのギャップで死にたくなる。

というか勇者候補ってそんなに主人公属性強めなのか……。


「ちなみに、その人の勇者スキルって……?」


「それはわからん。そもそもスキルの内容を人に喋ったり、簡単に使って見せたりしたらダメだぞ」


「なぜですか?」


「スキルってのは武力や魔力と違って個人を象徴する固有能力だからな。戦術の生命線なんだ。もし敵対する人間にスキル内容が全てバレたら、簡単に対策されちまうだろ」


「敵対するって、人間同士で争ったりするんですか?」


「無いとも言い切れんだろ。今の世界は乱世と言っても差し支えない。だから自分のスキルの内容を話す時は、その相手を見て慎重にな」


おじさんの話はわかる。

僕の能力は『動物を一定時間だけ懐かせる』という、戦闘では全く役に立たないハズレスキル。

とは言っても、それを人に言ってしまえば舐められて簡単に僕は倒されてしまうから、ここはわざと強いフリをしていた方が得策なように思えた。


「お、見えてきたぞ」


「あれがラーグ・グレイス……」


石と木造りの綺麗な町並み。

大きさはずっと住んでいた村とは比較にならないくらい大きく見える。


さらに町の中央に聳り立つ、四角く細長い青い結晶のようなものが気になった。


「あれはなんですか?」


「アヴァロ魔鉱石で作った転移の石碑さ」


「転移の石碑?」


「"転移石"ってのがあって、それに魔力を込めると近くにある石碑まで一瞬で移動できるんだ」


「へー、便利ですね」


「ただ転移石は高価だから最初は買えないと思うぞ。この辺の物価だと一つ2000ツオンはする」


「え!?」


僕が村を出る時に持たされたお金は150ツオン。

これで一ヶ月は宿で飲み食いができると聞いていたので転移石というのはかなり高価な代物だ。


「まぁ、この周辺はそんなに強い魔物は出ないからあまり心配は無いが……最近、妙な噂を耳にしたんだよな」


「なんです?」


「"冒険者が消える"って噂だ」


「消える……それは、ただ他の町に移動したとかでなく?」


「消えた冒険者がいた借宿には荷物が残ってたって話だ。荷物を残して他の町には行かないだろ」


「確かに……」


「中には熟練の冒険者もいたらしいから、もしかしたら強い魔物にやられたのかもしれない。この北部の地方でそこまで強い魔物がいるとは思えんが……用心することだ」


「え、ええ……そうですね」


大きな不安と、ほんの少しの期待を胸に村を出てきた僕としては聞き流せない話だ。

まさか始まりの町でゲームオーバーってこともありえるのか……?


僕はそんな物騒な噂に息を呑みつつもラーグ・グレイスの町に到着したのだった。

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