これは、まさかの達成不可能クエストか
本当であればレヴォン・バレイズの町に入れるはずが、僕の不甲斐なさで叶わず。
大陸三賢者 ズワーン・ディルマと名乗ったジジイからクエストを受注することになった。
僕とセシル、ランジェリカさん、サラさん、3人娘の7人はズワーンさんの住む(?)平家に案内される。
ここでイベントクエストを受けるのだろう。
想像するに、やっぱり実力試しに討伐かな。
それか『重要なアイテムを取ってこい』的なやつで、そのアイテムがある場所の最深部にボスがいるみたいな。
とにかくズワーンさんが提示するクエストをクリアしないと町には入れない。
僕らは緊張感の中、木造の平家へと入った。
__________
そこはリビングと寝室だけの平家だった。
窓からは陽が差し込んで明るい。
ズワーンさんは家に入ってすぐに、なぜか僕たちを寝室に案内した。
「凄まじい魔素を感じますね」
セシルが言った。
確かに寝室の空気が澱んでいる気がする。
これはルザルグに支配されていた時のエヌス・ヤタに出ていた霧のようだ。
ズワーンさんはベッドの前に立ち、そこに横たわる者を僕らに見せた。
「な、なんだ……これ……」
それしか言葉が出てこなかった。
ランジェリカさんやサラさん、3人娘は絶句している。
殺風景な寝室の奥にあるベッドの上に寝かせられていたのは、"包帯が全身を覆っている人間"のようだ。
間から少しだけ見える皮膚は焼け爛れているように真っ黒で瘴気のようなものを放っている。
ズワーンさんが静かに口を開く。
「こいつはどこかで魔素を浴びすぎて町に入れなかった。ここまで魔素が全身にまわっていると魔物と大差ないからな」
「この人、生きてるんですよね……?」
「ああ。かろうじてな。ただ恐らく、そう長くはない」
「そんな……」
「ワシの願いは、これじゃ」
「え?」
「こいつを元通りの人間の姿に戻して救うこと。それがワシの願いじゃ」
賢者と言われている人にできないのに、僕らにそんなことが可能なのか?
目の前にいる人間と思われる人物は男か女かさえもわからないほど体が爛れている。
このベッドに横たわる"謎の人物"は、ゆっくりと胸を膨らませて呼吸だけしている状況だ。
「セシルさん、治せますか?」
「魔素の侵食が強すぎて、通常の回復魔法では治すことは不可能でしょう。そもそも私は回復魔法は使えませんし」
そう言いながらセシルはクミルさんに視線を送る。
「わ、わ、わ、私も無理です!もし使えたとしても、セシル様が言う通り、この人を治すほどの力を持った回復魔法は無いかと思われます」
「絶望的すぎる……」
これって、もしかして達成不可能クエスト?
実は僕の旅はここまでで、ランジェリカさんとも結婚せずにエヌス・ヤタで平凡にスローライフして暮らすとか、そんなストーリーなのかもしれない。
「できんと言うなら、それまでじゃな」
「私の考えが正しければ、できますよ。少々、面倒ですけどね」
「なんじゃと?」
「主人様の力があれば治せます」
「ぼ、僕の力!?」
セシルの言っていることの意味がわからない。
回復魔法でも治せないものを、どうやって治せというのか?
そんな僕の困惑を無視するように、彼女はズワーンさんに対して話題を変えて問いかけをした。
「なぜ、この死に損ないを救うことが願いなのです?」
「こいつが荒野を彷徨っていたところを偶然に見つけてしまったからな。最後まで責任は持ちたい。このまま死なれたら夢に出てきそうじゃ」
「言ってしまえば、あなたはリリー家の元当主の予知を利用して、この者を救うのが目的なのですね」
つまり、"リリー家を救うのは黒竜の紋章者"という元当主の予知が違わないのであれば、僕はこの謎の人物を助けることができて無事に町に入れるということは確定した未来である。
やはり賢者というだけあって頭がいい。
セシルが言うように、ズワーンさんは元当主の予知を利用して自らの目的を達成するつもりなのだ。
「別に構わんじゃろ。おぬしらは町に入りたい。ワシはこいつを治したい。簡単な交換条件じゃよ」
「簡単……とは、よく言いますね」
セシルがため息をついた。
「それはいいとして、どうやって治すの?」
「主人様には"ある二人の女性"からスキルを複写していただきます。そのスキルを組み合わせて、この者を治すのです」
「な、なるほど。ちなみに、その"二人の女性"……ってどこにいるの?」
「何かの偶然なのか、どちらも"牢獄"におります。場所は別々で離れていますが」
「牢獄?なんで牢獄?」
僕はその"二人の女性"に会うため、それぞれ離れた場所にある"牢獄"を目指すことになるのだが……。
このイベントクエストによって僕はいくつかの運命的な出会いを果たすことなる。




