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大陸三賢者 ズワーン・ディルマというジジイ

魔導書を持ったセシルが荒野に立つ。

降り注ぐ太陽の光は彼女ための舞台を照らすスポットライトのようだ。


彼女の数十メートル先に立つ土の巨兵は3人娘の連携によって斬り落とされた腕を再生させている。


その間、わずかに動きが止まった。


「では我が魔法、お見せいたしましょう」


その言葉を聞いて、すぐに3人娘は土の巨兵から距離を取る。

セシルと土の巨兵との間には何もない状態だ。


「『重魔ダブル・マジック』・"氷風ひょうふう"」


凄まじい温度変化。

急激に気温が下がり、空気中に細氷の粒子が舞う。


言うなれば"ダイヤモンドダスト"。


この荒野では決して見られない幻想的な光景が目の前に広がった。


そこからエンジンを加速させるようにして爆風が徐々に吹き荒れる。

風は強力な竜巻と化して土の巨兵を覆った。


天をも貫く氷の竜巻だ。


「"悠久なる氷牢"」


セシルが呟くように言うと竜巻が内側から爆発するようにして消える。


中から出てきたのは"大きな氷の岩"。

それは氷の牢獄に閉じ込められた土の巨兵。


セシルの魔法は時間にして1分も経たずして土の巨兵を行動不能にしてしまったのだ。


「この氷の牢獄が溶けきるまで数千年はかかるでしょう」


僕と3人娘が苦戦した相手をこうも簡単に……。

これには唖然とするしかない。



「す、凄すぎる……」


「確かに、あれほどの魔力を持つとなれば人間ではないのぉ」


「魔神ですからねぇ」


「ほう。おぬしは魔神を使役してるのかね」


「ええ、まぁ……」


って、あれ?

僕は一体、誰と話してるんだ?

近くには人なんていなかったはず。


すぐに隣を見ると、そこには背の小さい老人がいた。

長い白髪の白髭で顔が見えず、服はカーキ色のローブを着ている。

特に気になったのは"竜を模ったような大きな木の杖"を持っていることだ。


「だ、誰ですか……?」


「ワシかい、ワシは大陸三賢者の一人、"ズワーン・ディルマ"じゃよ」


「あなたが賢者さま?」


「いかにも。おぬしは勇者候補か?」


「まぁ、一応……」


「魔神を使役してるということは、もしや【三神幻想級さんしんげんそうきゅう】の紋章者ではないか?」


「はい、"黒竜"です……一応……」


「おお"黒竜"か。ようやく来たな」


ようやく来た?

最初から僕が来ることを知っていたの?

いや、この口ぶりからすると"黒竜の紋章者"が来ることを知っていたということか……。


「それは、どういう意味ですか?」


「黒竜の紋章者がリリー家を救う……と聞かされていたのでな」


「え……誰から?」


「リリー家の元当主じゃ」


「リリー家の元当主って、もしかしてランジェリカさんのおじいさん?」


「ああ、そうじゃ。だから『黒竜が来たら、いかなる場合でも町へ通せ』と言われておる」


「それなら通ってもいいんですね!」


「ダメじゃ」


「え?」


「たまにいるからな、紋章を彫る輩が。なにより、おぬしからは全く覇気が感じられん。さっきの戦いを見ていたが話にならん」


またそれか。

覇気に関しては否定できないな。

今でも相手によっては僕のことを馬鹿にする人はいるからね。

……アイヴィさんとか。



僕とズワーンさんが話しをしていると、ようやく他のメンバーが来た。


ランジェリカさんがズワーンさんに頭を下げる。


「ご無沙汰しております、ズワーン様」


「おお、ランジェリカじゃないか。久しぶりじゃな」


「はい。もし、よろしけば私に免じて通して頂けないでしょうか?」


「ダメじゃ」


「な、なぜですか?」


「ワシは信用しておらん。いかにおぬしの祖父が"予知"しておったことでもな」


予知……?

それって、もしかして勇者スキル?


そこにセシルが前に出る。

フードを取って長い青髪ポニーテールが露わになり、さらに魔神の象徴である黒い角を見せた。


「ならば、ここで殺してあげましょう。そうすれば迷宮も消えて無くなって、私たちは町に入れる」


「魔神か。ワシを殺したら、この迷宮は残り続けるぞ。おぬし達は永遠にここに閉じ込められることになる」


戯言ざれごとを。そんな魔法は見たことも聞いたこともない」


「ならばやってみたらいい。ワシを殺してみよ」


ズワーンさんは声色ひとつ変えずに言った。

やはり賢者と言うだけあって、かなり頭がキレる。


ここで彼を殺して迷宮が消えるのなら僕たちは進める。

しかし、もしズワーンさんの言った通り、迷宮が残り続けるという魔法効果が存在するのであれば永遠に迷宮から出られなくなる。


究極の2択を迫っているのだが、どちらを取るかなんて明白。


彼を殺す不利益の方が大きすぎて絶対に殺せないのだ。


「私の姿を見た時点で主人様が"黒竜"だということはわかるでしょう。ならば通すのが筋ではないですか?」


おっと、セシルが説得モードに入ったぞ。


「ダメじゃ。こいつは弱すぎる。リリー家や町を救えるとは思えん」


「では、どうするつもりです?このまま進めず、帰れないのであれば、結局あなたを殺す選択を取らざるおえない」


「ならば一つ、ワシの願いを叶えてくれたら町へ通してもやってもいいぞ」


「願い?」


「ああ。ついてこい」


言ってズワーンさんは歩き出す。

誰かに背中を刺される可能性だってあるのに、お構いなしに先行する。


僕らは顔を見合わせて頷き合うとズワーンさんの後を追った。


案内されたのは、この荒野に入ってから一度も目にしたことがない木造の平家だ。


そして、この平家の中で提示されたズワーンさんの願いは予想の斜め上をいくものだった。

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