荒野の迷宮と土の巨兵
泥まみれのまま、一夜を過ごした僕とランジェリカさんは朝方に無事に発見されることになる。
この汚れはセシルの"お風呂の魔法"によって洗い流され、身も心も綺麗になった。
ここからの旅の道中、ランジェリカさんの僕に対する接し方が少し変わった気がする。
ずっと、よそよそしさを感じていたけど自然な笑顔が増えた。
知り合い以上、友達未満から、友達に昇格したような感じ。
それでも婚約者としてはまだまだ仲を深めていかないといけないかもしれない。
そんな僕とランジェリカさん、そして荷馬車に乗り込むセシル、サラさん、クミルさん、アイヴィさん、ユーフェンさんの7人の旅は4日目に入った。
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4日目の昼ころ。
ずっと見ていた草木生い茂る風景は一変した。
地面には枯れ草、薄茶色の土、カラリとした空気。
この場所を言い表すなら"荒野"だろう。
そう。
僕たちはリリー家に仕えるという『賢者』が作り出したとされる"荒野の迷宮"に入り込んでいたのだ。
「見渡す限り何も無い」
どこを歩いても同じ風景が広がっている。
ここは、あまりにも作りが甘くてサービス終了間近なMMORPGに登場するフィールドのようだ。
進めど進めど、周りの見た目が全く変わらないため、どこを歩いているのかわからない。
方位磁石も高速回転して東西南北も不明という危機的状況にある。
僕たちは何時間か進んで止まった。
荷馬車に乗っていたセシルが降りて周囲を見渡す。
「凄まじい魔力ですね。さすが賢者と呼ばれるほどのことはある」
「関心している場合ではないと思いますが……」
続いて降りてきたサラさんが言った。
そりゃごもっとも。
相手に賛辞を送るのは切り抜けた後にしよう。
「やっぱり進めないみたいですね」
アイヴィさんやクミルさん、ユーフェンさんも荷馬車から降りてきた。
「ど、ど、ど、どうしましょう……ここは"賢者さま"のお許しが無いと通れないと聞いたことがあります……」
「その"賢者さま"という人はどこいるのでしょうか?」
一同に馬上のランジェリカさんに視線が向けられる。
しかし、そんな彼女も困惑の表情だ。
「わ、私はここを通っても普通に町に辿り着けてましたから……ねぇ、サラ?」
「はい。この場所は招かざる者を閉じ込める迷宮。恐らく魔神であるセシル様がいらっしゃるので、迷宮の効果が発動したと思われます」
「つまり……どうしたらいいの?」
僕の素朴な疑問。
数日かけてここまで来たのに町に辿り着けないというのはさすがに悲しい。
「彼に会えれば、説得できるかもしれないですが……」
ランジェリカさんも困り果ててるな。
「ならば我が魔法で、この地域一帯を凍らせましょうか。賢者を倒せば魔法で作られた迷宮も消えるかと」
「平和的な解決でいこう、ってなったでしょ」
「ですが、主人様、これでは永遠に進めないどころか帰ることもできません」
「使い魔は?」
「飛ばそうとしても打ち消されてしまいます。それもまた迷宮の効果なのでしょう」
これまた厄介どころの話ではない。
セシルが言った通り、永遠にこの荒野に閉じ込められることになるのか。
「少し気になることがあります」
そう言ったのはユーフェンさんだ。
「なに?」
「この場所が魔物を閉じ込める迷宮だとするなら、閉じ込められた魔物たちは一体、どこに消えたのでしょう?」
「確かに……ここまでずっと進んでても魔物の姿は見てないぞ」
「もしかしたら、それがこの迷宮を出る手掛かりになるかもしれません」
そうユーフェンさんが言った瞬間、地面に揺れを感じる。
かろうじて立ってられるかどうかというほどの地震だ。
「な、なんだ!?」
すると僕らが立つ真横、数メートル先で地面が爆発したように吹き上がる。
土埃の中から姿を現したのは巨大な土で作られたゴーレムのようだ。
よくゲームなどで目にする、簡易的な人の形を模した"土の巨兵"だった。
それは僕の目から見ても魔物でないことはわかる。
恐らく魔法で作られたもの。
となれば、ここに閉じ込められた"招かざる客"を処理するための門番といったところか。
……ん、見ようによっては"アレ"にみえなくもないか?
「怪獣……?」
これは、もしかしてあのスキルを試す時がきたのか。
「ここは僕が出ようか」
「主人様……なんと勇敢な……」
セシルが言った。
多分、君がやったら瞬殺だと思うよ。
でも、それだと面白くないからね。
僕は前に出る。
そして左手の甲をかざし、"あのスキル名"を叫んだ。
「『死兵』!!」
【黒竜の紋章】を中心にして黒い雷撃が閃光を煌めかせて四方に迸る。
そして、ついに召喚される僕のアンデッド兵。
見せてやるよ、僕の怪獣(?)をな!




