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怠け心は成長の大敵

僕は鳥がさえずる声で目を覚ました。

風で揺れるカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。


ベッドの上で眠気眼を擦る。


昨日、僕は幸せの絶頂を感じた。

あれは幻のだったのではないだろうか?


いや……現実だ。

僕の隣には、まさしく幸せの象徴たる女性が眠っていた。


赤い長い髪とこめかみには黒い角。

一糸纏わぬ姿で眠る、この世で最も美しい女性、魔神イヴ・ガルハート。


「イヴさん……今日も綺麗だね」


呟くように言った。

彼女は安心しきった様子で目を閉じている。

その柔らかい表情は、この町で恐れられる鬼軍曹のイメージとはまるで違う。

僕と2人っきりの時は、ただの女の子なんだ。


「最近、忙しかったからね。今日はゆっくり休んでいいよ」


僕はイヴの額にキスをする。


それにしても、気のせいなのか彼女の髪の色が薄くなった気がする。

前は暗めな赤……ワインレッドに近かったけど今はとても明るくなった。


「いや、目の錯覚かな?」


僕は首を傾げながらも、イヴを起こさないようにそっとベッドを降りて服を着ると部屋を出た。


__________



このままだと怠け癖がついてしまう。

そう思って、早朝から僕はユーフェンさんの所へと向かっていた。

せっかく鍛錬法を教えてもらっていたのに数日で全く行かなくなってしまったのだ。


久しぶりすぎて会いづらいけど、今日はさすがに顔を出そう。



ユーフェンさんが鍛錬しているのは町を出て、すぐの大きな木がある広げた場所。


彼女は晴れて暑かろうが、雨が降ってずぶ濡れになろうが鍛錬を欠かさずおこなっている。

それは多分、"師匠"と呼ばれる存在の影響なんだろう。


僕にも師匠がいたら少しは人生が違ったのかな。

そんなことを考えながら曇り空の下、大木を目指して歩いた。



……。



傘のように枝葉が生い茂る大木の下。

1人の女の子が舞うように剣を振るう。


黒に近い青髪を左右にお団子にしているチャイナヘア。

青と白のツートンのミニスカチャイナドレスを着たツンとした顔立ちの少女。


中華娘のユーフェンさんだ。


僕が近づくとユーフェンさんはすぐに気づいて、こちらを向く。

そして、すぐに両手をお腹の辺りで合わせてお辞儀した。


「主人様、おはようございます。もう、お体の方は大丈夫なのですか?」


「え?」


体調不良ってことになっていたのか。

これは、そのまま話を進めた方がいいかもしれないな。


「う、うん……もう、すっかり元気だよ」


「それはよかったです」


ユーフェンさんの微笑みは可愛かった。

それで少し心が痛む。

あれは体調が悪かったというより、精神的ダメージによる引きこもりだ。


「今日はどうされたのですか?」


「また、ユーフェンさんに鍛錬を教わりたくて来たんです」


「そうでしたか。私は別に構いませんよ」


「ありがとう」


ほんとにとっても優しい子だ。

なんだろう……"僕のもの"にしたくなっちゃうな。


少し頭が痛む。


「大丈夫ですか?」


「う、うん。大丈夫」


僕は頭を押さえつつユーフェンさんから視線を外して大木の方へと移す。


「ん?」


大木のところに置いてあるパンパンに膨れ上がったバッグが目に入った。


「これは大荷物だね」


「はい。セシル様からの御命令で町の人たちに配るようにと」


「ああ、"アレ"か」


"アレ"はセシルというより、僕がお願いして配ってもらっているものだ。

万が一、町が魔物になど襲われた時のための"秘密兵器"といったところ。

お金は凄く掛かったけど、これがあるのと無いのとは全然違うと考えた。


まぁ、使用しないに越したことはないんだけど。


「主人様、今日は休んで明日にした方が良いのではないですか?」


「いや、怠け心は成長の大敵だ。今日こそは頑張るよ」


「わかりました」


僕はユーフェンさんに剣術の型や鍛錬方法などを一緒に実践しながら教えてもらった。

これが無かったら移民も救えなかったと思うと、やっぱり基礎的なものは大事だね。



鍛錬は30分ほどで終わった。

ユーフェンさんは僕の体調のことを考えてくれたのだろう。


「では、これにて終わります」


「ありがとうございました。また明日、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


ユーフェンさんは行儀良くお辞儀する。

さらに続けて、


「私は仕事がありますので失礼致します」


と言うとパンパンに膨れ上がったバッグを持ち上げようとする。

あの量、女の子には多すぎないかな?


「どっこい……しょういちっ」


「……え?」


「え?」


ユーフェンさんはバッグを背負いながら困惑した表情で首を傾げた。

いや、首を傾げたいのは僕の方だ。


"どっこいしょういち"って、なんか聞き覚えがありすぎるぞ。


「それって流行ってるの?」


「何がですか?」


「その、"どっこいしょういち"っていう掛け声」


「えっと……言いませんか?」


「言わないなぁ」


「そう……なんですね。()()()では言わないんですね」


()()()?」


「はい。南部では重い物を持つ時に、よく言ったりするので」


「南部の方言なの?」


「方言……というほどではないです。口癖程度ですよ」


そう言ってユーフェンさんはニコリと笑ってから、お辞儀すると自分の体よりも大きなバッグを担いで去っていった。



ユーフェンさんは南部の出身なのは聞いていた。


だけど、


魔法使いのクミルさん。

弓使いのアイヴィさん。


この2人も南部の出身ということ?

そうなると全員、南部の出身?

南部出身者がスキル選抜で偶然に3人選ばれたの?

いや、アイヴィさんは志願したんだった。


「いやいや……冗談でしょ……」


僕の中に()()()()が生まれる。

そんなことがあり得るのか。


これは言わば、"トランプマジックで相手に決まったカードを選ばせるテクニック"に似ている。


あの夢が過去の出来事だとするなら、僕は確定的にカードを引かされるわけだが、


まさか【白いサソリの紋章者】と繋がりがある女性って……。


僕は怖くなって考えるのをやめた。

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