本音を語り合うのはデートの後で(3)
崩れたアヴァロ魔鉱石がある中央広場。
ランジェリカさんの悲しげな表情は夕日に照らされている。
少し冷たくなった風は音もなく彼女の美しい黒髪を揺らした。
「私は……伯爵令嬢ってだけで期待されて騎士団でも高い地位を得た。だけど失敗続きでここにいるんです」
「でもランジェリカさんなら上手くできそうですけど」
「いいえ。私は統率力も無ければ剣術も全くダメでした。挙げ句の果てにスキルにも恵まれなかった。父からはいつか必ず役に立つ時がくると言われていましたが、結局、きませんでしたね」
苦笑い。
その表情からは悲壮感が伝わる。
「私はあなたが羨ましい。平民とはいえ、町の復興を成功させている」
「いえ、部下が優秀なだけです。僕なんて、ただ見てるだけで、ほとんど何もしてないですから」
「それでも私たちを助けてくれて、この町に招いてくれた。みんなから必要とされるリーダーだと思います」
そう言いつつ、ランジェリカさんは未だに女子が列を作る"トワイライト・ブルー"へと視線を移した。
「"ランジェリー"だなんて……こんなに綺麗で可愛くて、みんなから愛されて必要とされている。私と名前が似ているのに全然違う。私のことなんて誰も見てもないし、必要とされることもない」
「そんなことないですよ。少なくとも僕は今、ランジェリカさんの美しさに心を打たれてます」
「え?」
「下着だって、今まで"綺麗なもの"だなんて誰も知らなかった。そう考えればランジェリカさんがとっても綺麗で素晴らしい人だってことを、まだ誰も知らないだけです」
ランジェリカさんは胸元に抱えた紙袋をギュッと握った。
夕日でよくはわからないが、顔が赤らんでいるように見える。
「本当に大事なものは目には見えづらいですから……下着だけに」
最後はボソリと呟くように言った。
我ながら上手く纏まってしまった。
お後がよろしすぎる……落語家であれば話はここで終わってしまうな。
「あなたには……知っておいてもらわないといけないことがあります」
「なんですか?」
その瞬間、ランジェリカさんの後ろにいたサラさんが慌てた様子で口を開いた。
「ランジェリカ様!それは!」
「もういいんですよ。これを知られて軽蔑されたっていい。ここで縁を切られたって、もう思い残すことはない」
なんか重苦しい話?
恐らく、この話の内容がランジェリカさんを苦しめている原因になっていることなのだろう。
「私は……汚いんです」
「はい?」
「私は汚いものが好きなんです。いえ、厳密に言うと綺麗なものが汚れる様を見ることに興奮を覚える……といったところでしょうか」
「……」
「その噂が社交界まで広がって私の縁談はことごとく破談していった。最近、ようやく決まった縁談も結局、無かったことにされました」
「なんで、そんな噂を信じるのでしょう?」
「噂は別に真実でなくていいのです」
「というと?」
「こんな噂が広まること自体、政略的な意図がある。つまり"ランジェリカとは結婚するな"という圧力なんですよ」
なるほど。
恐らく、その噂を広めているのはランジェリカさんがリリー家の後継者になったら困る人物。
つまり、彼女の弟。
確か名前は"ラジェクス"とか言ってたかな。
「でも、これは紛れもない事実ですから否定しようもない」
「事実……なんですね」
「はい。軽蔑するでしょう、こんな狂気じみた人間なんてありえないですから」
「別にいいと思いますけど」
「……え?」
ランジェリカさんもサラさんも驚いた。
普段なら自分の癖を知られた瞬間、相手からは異様な目で見られたり、縁を切られたりしたのだろう。
「誰に迷惑を掛けてるわけでもないですし、むしろ好きなものを好きと言えるのは素晴らしいことだと思います」
「しかし……私の場合は……」
「僕が最初にランジェリカさんに会った時、可愛いと言ったのはそれが理由です。我慢せずに興奮したいときはしていきましょう」
「そんなことをしたら、人からどう見られるか……」
「そんなこと考えなくてもいいです。少なくとも僕は自分に正直になったランジェリカさんはとても綺麗で可愛いと思ってますので」
「あなたは、とっても変わってますね」
「そうですかね。これが普通なのかもしれませんよ」
ランジェリカさんが笑みを溢す。
多分、今まで自分がおかしいと思ってきたのだろう。
だって周りにはランジェリカさんに共感して寄り添ってくれる人はいなかったから。
「僕はランジェリカさんの味方ですから。もし、僕にできることがあれば遠慮せずに言ってください」
「本当にいいのですか?」
「はい。全力であなたを助けます」
ランジェリカさんは大きく深呼吸し、サラさんの方を向く。
2人は通じ合ったかのように頷き合った。
「では改めて、このランジェリカ・リリーをあなた様の妻として迎えて頂きたい」
「え……でも、それだとリリー家が……」
「いいんです。私には敵が多すぎる。現状を打開するにはこうするしかない」
「わかりました。セシルさんにはそれで作戦を練ってもらいましょう」
「はい。よろしくお願い致します。この恩に報いるため、妻として精一杯、尽くさせて頂きます」
そう言ってランジェリカさん深々と頭を下げ、それを見たサラさんも続いた。
その瞬間、左手に痛みが走る。
【従属レベルが上がりました】
続けて、
【新たなスキルを獲得しました】
いつもの僕にしか聞こえない脳内アナウンス。
こうして僕はランジェリカさんの幸せを願いつつ、リリー家の後継者争いに巻き込まれることになるのだった。




