本音で語り合うのはデートの後で(2)
僕はランジェリカさんとサラさんと一緒に町の中を歩く。
家屋の復旧がいまだにおこなわれていないところもあるが、一通りは改修が終わっていた。
「ここは魔物の支配下にあった町でボロボロだったんです」
「魔物の支配下……とは、まさか魔神?」
「はい。そして冒険者ギルドの人たち」
「魔物と共謀を?」
「共謀というより、ひどく一方的なものですよ」
彼女たちを最初に案内したのは、この町の出店が立ち並ぶ場所。
その中でも、お気に入りの食べ物を振る舞いたかった。
「ここは僕の部下である魔神のイヴさんが考案した料理がおいてあります」
「魔神が……料理!?」
「とっても美味しいので食べてみて下さい」
2人は半信半疑といった表情だ。
だけど注文から数分で出て来たその料理を見てゴクリと唾を飲む。
そう。
イヴが考案というよりは僕が好きなものを彼女に作ってもらって、それをそのまま店で出したもの。
その名も、
"どろり濃厚テリヤキミートバーガー"だ。
手のひらサイズの丸いパンを真ん中で半分に割り、隙間にテリヤキ肉を挟んだもの。
味付けは日本人好みの甘塩っぱいドロりとしたタレが惜しみなくつけてある。
これが思いの外、町の人たちや冒険者たちにウケた。
まず、この異世界には片手に持って食べ歩くなんて習慣ははない。
だけど、これも案外、受け入れられるのは早かった。
冒険者が仕事に向かう前に買って行ったり、また食べ歩いたり。
町の住民も、その場で食べながら談笑したりと様々だ。
「こ、このような下品な食べ方は……ランジェリカ様は流石に……」
まぁ、それが普通の反応だと思う。
貴族なら行儀良く座ってナイフとフォークで食事するもんな。
「そう言わずに食べてみてください。美味しいので」
そう言って僕はバーガーを食べた。
うん、やっぱり美味いね。
「じゃあ……いただこうかしら……」
「待ってください、このサラがまず毒味を」
そこまでしなくても……とも思ったけど、これがサラさんの仕事なんだろう。
サラさんは口を震わせながら手に持ったバーガーを含む。
その瞬間、目を見開き、大きく息を吸う。
ゆっくりと何度か噛んでから飲み込む。
唇についたタレを舌で軽く舐めると、無言でランジェリカさんに頷いてみせた。
そしてランジェリカさんにバーガーを手渡す。
すると、すぐに店にスタスタと歩き、
「同じものを、もう一つ……」
自分の分も注文をしていた。
ランジェリカさんはそんなサラさんの行為とバーガーを交互に見た後、意を決したように口元へと運ぶ。
そして一口……二口、三口。
徐々に食べるスピードが増していって、瞬く間に食べてしまった。
「これは……こんなに味の濃い料理は初めて食べました」
「そうでしょう、そうでしょう。この体に悪そうなフォルムと中毒性のある味付け……これこそジャンクフードですよ」
「じゃんくふーど?」
「えーと、僕の故郷の伝統的な料理です」
まぁ、ほとんど僕とイヴが作ったオリジナル料理なんだけどさ。
「これほどの料理があるとは……」
「案外、平民もバカにできないでしょ?」
「そ、そうですね」
僕らが会話している間にサラさんもペロリと食べてしまった。
「じゃあ、次に行きましょうか」
僕が歩き出すとランジェリカさんもサラさんも名残惜しそうにチラチラと店を見ていた。
だが、彼女たちにとっての初めては続くことになる。
だって、この道全ての出店は僕が覚えている限りのB級グルメをイヴに再現してもらった、"食い倒れ地区"なのだから。
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初めて食べる料理の数々にランジェリカさんとサラさんの表情からは緊張感が消えた。
2人はB級グルメの虜になったに違いない。
やっぱり美味しいものは心を豊かにするのだ。
そして、さらに心を豊かにするものといえば、やっぱりショッピングだろう。
僕たちは中央広場に戻ると、ある店の前に来た。
青を基調にした外装の綺麗なお店、
"トワイライト・ブルー"だ。
「この店は昨日、ランジェリカさん達が会ったセシルさんが経営するランジェリーショップです」
「ま、魔神が店を経営……!?」
店を見るランジェリカさんは眉を顰めていた。
だが、そこに並ぶ客(全て女性たち)はみんな目を輝かせている。
「ランジェリーとは……」
「下着のことですよ」
僕が言うとサラさんがすぐに声を上げる。
「なんと破廉恥な……し、下着など人の目に触れぬものを、このように大胆に売るなど……しかも、"ランジェリー"なんて名前は……」
サラさんは明らかにランジェリカさんを意識していた。
「まぁ、そんなこと言わずに見てきて下さい。このお店は男子禁制なので、お二人でどうぞ」
これもまたどちらも半信半疑といった様子だった。
でも、お店の前にあるガラス張りにはマネキン人形が何体か並んでいて、それぞれが着用している下着の美しさは芸術的だ。
ランジェリカさんもサラさんも視線を何度かマネキンへと向けつつ、息を呑んで店へと入っていった。
……。
……。
遅い……。
店に入ってから1時間は経ってる気がする。
もう夕日が町をオレンジ色に染め上げていた。
僕がいつものベンチに腰掛けていると、ようやく2人は店から出てきた。
「申し訳ありません、お待たせ致しました」
「いえいえ」
ランジェリカさんの手には茶色の紙袋が抱えられていた。
さらに驚きだったのはサラさんの手にも紙袋があったことだ。
2人ともお気に入りの下着を見つけて購入したんだね。
「楽しかったでしょ」
「はい、とても。まさか下着がこんなに綺麗だなんて……店の人に言われるまま買ってしまいました」
「選んでる時間も楽しいし、明日から身につけられると思うとテンションも上がって幸せな気持ちなりますからね」
「幸せな気持ち……?」
「なってませんか?幸せな気持ちに」
ランジェリカさんは胸に手を当てて深く息をした。
そして笑みを浮かべて、
「なってます。幸せな気持ちに」
そう静かにつぶやいた。
「僕はみんなに幸せになってほしい。だから、この町の復興を頑張ってます。誰かの幸せを願うのに他人とか知り合いだとかは関係ないし、ましてや会ってからの期間なんてものも関係ない」
「確かに……そうですね」
「だから僕はランジェリカさんが幸せになるように頑張ります。もし助けて欲しいなら言って下さい。全力であなたを助けますので」
これが僕の本音だった。
ランジェリカさんと結婚して東部を獲るなんて話はどうだっていい。
この言葉が本心であると信じて欲しかったのだ。
「私は……」
そして彼女はようやく本音を語り始める。




