清楚系女騎士の再来とセシルの戦略
今回の出撃で助けたのはラーグ・グレイスで出会った伯爵令嬢のランジェリカ・リリーさんだった。
目の前にいる彼女は、なぜか僕を妙に意識して長い黒髪を軽く整えている。
青色を基調とした学校の制服のような見た目の服の上から重厚な鎧を纏って、手には細剣が握られていた。
「まさか、また、お会いできるなんて」
そう言って近づこうとすると、隣にいた白いローブの魔法使い風の女性がランジェリカさんの前に立つ。
「冒険者風情が馴れ馴れしくランジェリカ様に近づくんじゃない!」
この人は多分、従者だろう。
それにしても何故、こんな少人数なのか。
以前は多くの部下を連れていたはずだ。
「サラ、やめなさい。私たちは、この方に助けて頂いたのよ」
「ですが、相手は下等な冒険者です!ランジェリカ様と会話できるような相手ではありません」
「……私にはもう何も無いのだから、変にこだわる必要なんてないのよ」
ランジェリカさんは悲しそうな顔で言った。
"何も無い"とはどういうことだろうか?
「あ、あのぉ、ランジェリカさんたちはどうしてここに?」
「え、えーと……調査です……その、魔物の……ええ、そう、魔物の発生原因の……調査で来ました」
絶対、嘘だな。
めっちゃ目が泳いでる。
恐らくランジェリカさんは嘘がつけないタイプなのだろう。
「そうでしたか。では、そちらの移民の方々は?」
僕は彼女たちの後ろにある荷馬車へと視線をやった。
荷台には老若男女の移民が乗っていて、不安そうにこちらを見ている。
「ちょうど、この辺を通りかかった時に出会ったので町まで護衛をと思ったのです」
これは本当だろうな。
「もしかしてエヌス・ヤタに行くのですか?」
「え?ええ……私たちは別に……行くつもりはないんですが、彼らの護衛があるので……ついでに……立ち寄ろうかと……」
声が少し裏返ってるぞ。
真実に嘘が混ざってるな。
まぁ、でも移民の受け入れは当初から目的にあったし、このままランジェリカさんも来てくれるなら嬉しい。
「僕は今、エヌス・ヤタの責任者をしてまして。住むところが無くなった移民の方々の受け入れをしますので歓迎しますよ」
「あなたが責任者……?」
緊張感があった。
ランジェリカさんもサラさんも。
だけど、"何か"に気づかれまいとすぐに笑顔になった。
「そうでしたか。そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたが……」
「ああ、そうだった。僕はシオンと申します」
「私はランジェリカ・リリー。こっちは従者のサラです」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
……なんだろうな。
僕の思い過ごしかもしれないけど、彼女たちの目的ってエヌス・ヤタにあるような気がする。
今は考えても仕方ない。
とにかく今は移民の安全を最優先に考えないと。
僕はセシルのスキルで無理やり転移させられたので帰りはランジェリカさん達と一緒にエヌス・ヤタの町へと戻るとこになった。
移民は家族が多くて小さい子供たちもいる。
そういえば現状、受け入れ態勢ってどうなってたっけ?
ちょっとした不安もありつつ、僕らは1日かけてエヌス・ヤタの町へと向かった。
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僕とランジェリカさん、移民たちがエヌス・ヤタに着いたのは昼頃だった。
町の入り口、僕が先頭になる。
すると後方で馬に乗るランジェリカさんが町の入り口の看板を見て呟く。
「らぶあんどぴーす……?」
ああ、それは昨日、ものの見事に終焉を迎えた町のキャッチフレーズですね。
僕は聞こえなかったフリをして、そのまま町の中へと入った。
「あれ……?」
町に入ってすぐのところ。
全身に漆黒の鎧を着用したイヴと数人の女冒険者で編成された自警団が整列していて、その前には頭に黒いフードを被ったセシルがいた。
「主人様、ご苦労様でした」
『主人様、ご無事で何よりでございます』
2人が僕に頭を下げると自警団の女性たちも続けて一斉にお辞儀をした。
「えっと……みんな、どうしたの?」
「主人様のご帰還に立ち会うのは当然のことです」
「あ、ありがとう」
この状況にランジェリカさん、従者のサラさんは唖然とした様子だ。
だけどそれよりも、
「綺麗な町だ……」
「東部にこんな町があるなんて」
「ここに……住めるの?」
そんな移民たちの感嘆の声が嬉しかった。
ここまで復興のために力を尽くして頑張ってきたことが報われた気がした。
ランジェリカさんが馬を降りる。
そして僕の前に出た。
「ネヴィルス王国・騎士団のランジェリカ・リリーです」
「はい、存じ上げておりますよ」
「え?」
「ここまでの旅でお疲れでしょう。移民の皆さんと共にお休み下さい。宿はもう用意してありますので」
「え、ええ……お気遣い感謝します」
「では案内を」
セシルが言うとイヴを含めた自警団たちがランジェリカさんと移民たち一行を町の中へと連れて行った。
残されたのは僕とセシルだけだ。
「まさか主人様がランジェリカ・リリーとお知り合いだったとは」
「うん、ラーグ・グレイスで会ったんだ。って、なんで知り合いだってわかるの?」
「見ておりましたから、使い魔の目を通して」
なるほど。
恐らく"僕"と"使い魔"の場所を入れ替えた後、またすぐに飛ばしたんだな。
「それは好都合。これなら、とても平和的に東部を獲れそうですね」
「それって、どういうこと?」
「ランジェリカは東部で最も力のある貴族、リリー家の長女です」
「なるほど……だから?」
「現在、リリー家はとても不安定な状態にあります」
「不安定?」
「はい。今、リリー家は後継者争いの真っ只中にあるので、当初はこの機を狙って攻め落とそうと思ってました」
すごく物騒な事を言い始めたぞ。
さすが戦略担当と言わざるおえないがラブ&ピースを諦めきれない僕としてはやめてほしい。
「ですが、もっと平和的な方法で解決できそうですね」
「平和的にできるなら、そっちでいこうよ!……ちなみにどうするの?」
「彼女を娶るのです」
「誰が?」
「もちろんシオン様です。そして、そのままリリー家を乗っ取ってしまう」
どこが平和的?
武力行使よりは何倍もマシだけどさ。
「ですので、主人様には早めにファミリーネームをお考え頂きたい。それが新たな家柄の名となります」
とんでもない話になってきた。
話を簡単にまとめると僕がランジェリカさんと結婚してリリー家に入り込んで潰してしまうということだ。
いや、そもそもファミリーネームって自分で決めるものなの?
「そんなのランジェリカさんが了承するわけないでしょ……無理やり結婚して家柄を奪い取るなんて。こんな計画を知られたら怒っちゃうよ」
「果たして、そうでしょうか?」
「え、どういう意味?」
「彼女はリリー家の長女でありながら後継者争いでは、とても危うい立場にいるようですから。案外、チョロいかもしれませんよ」
セシルはリリー家の内部事情を把握しているようだ。
もしかしてランジェリカさんが従者とたった2人だけで行動しているのが関係してるのかな?
とにかく、これから先の展開は僕の頭では想像し得ない。




