初出撃は恋の始まり予感!?(1)
こうしてオタクは引きこもりになる。
チンピラ冒険者たちが起こした"最弱ホラ吹きシオン事件"によって僕はギルドの2階にある部屋から出れずにいた。
あの事件から1週間は経つ。
小さな町だから噂はすぐに広まったようで、住民たちの僕への評価は下落した。
一度だけ勇気を出して町に出たら、住民の冷めた視線とヒソヒソ話しに"ひのきの棒"程度の僕の心は簡単に折れて見事に引きこもりになったのだ。
何度か部屋を訪れるイヴを追い返し、ご飯はドアの前に置いてもらうという絵に描いたような引きこもりっぷり。
「このままじゃマズイよなぁ」
そう思っていても体は重い。
多分、そのうち何も感じなくなって、これが普通になっちゃうのかな?
考えがグルグルと回る中、"コンコン"とドアをノックする音が聞こえた。
またイヴかな?
なんか、ここまでくると煩わしくなってきた。
どうせ僕のことなんて"最低の主人"だって思ってるに違いない。
「はい!」
少し怒気を含んだ返事をした。
するとドア越しに女性の声がする。
「なによ、せっかくご飯持ってきてるのに、その返事は!」
聞き覚えのある声だ。
「イヴお姉様ったら、なんでこんなやつに従ってるのかしら!ホント信じらんない!」
このツンとした言い回しはアイヴィさんの声だ。
「今日、イヴお姉様は忙しいって言って、一日分作ったんだから!ちゃんと食べないと容赦しないわよ!」
毎回、運ばれてくる食事ってイヴが作ってくれてたのか。
忙しいのに、わざわざ……。
「どっこいしょういち、っと。まったく女子にこんな力仕事させんなっての!自分で取りに来なさいよね!」
そう言ってアイヴィさんはわざとらしく足音を響かせながら、ドアの前から去って行ったようだ。
それよりも……"どっこいしょういち"?
どこかで聞いた掛け声だ。
でも、今そんなことを考えている余裕は僕にはない。
しばらくして、また"コンコン"とドアをノックする音が聞こえた。
まさか、またアイヴィさん……?
文句を言い足りなくて帰ってきたのかな。
ドア越しに女性の声。
「主人様、セシルでございます」
これは珍しい。
外で一緒にトワイライト・ブルーを見てから一度もセシルとは会っていない。
僕はドア越しに対応する。
「何か用かな?」
「はい。問題が発生しました。入ってもよろしいでしょうか?」
正直、誰とも会いたくはなかったけど、"問題"なんて言われると気になってしまう。
「う、うん」
僕は彼女を招き入れる。
青髪ポニーテールで眼鏡をかけた黒色のローブのセシルはやはり美しい。
両手にはトレーが握られていて、その上には食事が載ってある。
これはアイヴィさんが置いていった、イヴの料理だろう。
「どうしたの?」
「こちらに向かっていた移民がいたのですが、どうやら現在、魔物の群れに襲われております」
「え……」
セシルは机にトレーを置いて続けた。
「騎士も一緒に同行しているようなのですが、なぜか二人しかおらず、さらに魔物の中に"魔獣"の姿もあるので捕食されるのは時間の問題かと」
「ちょっと待って、この町の自警団は?」
「移民の荷馬車がいる場所は町から馬を走らせても半日ほど掛かる距離なので、今からでは間に合いません」
「じゃあ、僕が向かっても間に合わないんじゃ……」
「主人様だけならなんとかなります。私のスキルで"使い魔"と"主人様"の場所を入れ替えて転移させられますので」
「それなら……」
イヴを行かせれば……そう言いかけてやめた。
またイヴに助けてもらったりしたら、それこそ僕の立場はない。
「セシルさんは?」
「私は拠点である、この町の防衛の任務がありますので離れるわけにはいきません」
「誰も……行く人がいないのか……」
「そうなれば移民たちや騎士は皆殺しでしょうね。主人様が行かなければ、全員が死にます」
人の命が掛かっている。
そもそも、こうなったら真っ先に行くといったのは自分自身。
その責任を果たす時が来たのだ。
「僕が行く」
「承知致しました。では転移させますので、御武運を」
「え……もう行くの!?」
「早く行かなければ間に合いませんので」
僕は愛用のダガーを手渡される。
そしてセシルはすぐに親指と中指を擦り合わせてパチン!と鳴らした。
「『交換・使魔』」
思考がスローモーションになる。
そして一度の瞬きで、テレビのチャンネルが替わったように風景が一変した。
僕は一瞬のうちに空中へと投げ出されていた。




