早くもラブ&ピースの終焉
セシルと別れてから少し町を見て回り、夕刻頃に過ぎたあたりで僕はギルドへと戻った。
すると、何やら受付カウンターで声を荒げる男の冒険者集団がいてギルド内は騒然としていた。
「なんで、こんなショボい仕事しかないんだよ!舐めてんのか!」
「は、はいぃー!!申し訳ございません!!」
「何が、"町の復興"の手伝いだ!討伐の仕事くらいあるだろ!」
「は、はいぃー!!申し訳ございません!!」
「お前、それしか言えないのか!!話にならん、責任者を呼べ!!」
「は、はいぃー!!申し訳ございません!!」
確か、魔法使いのクミルさんに受付の仕事を手伝ってもらってたんだよな。
仕事に慣れてないのに理不尽なクレーマー対応は大変だろう。
「あれが最近の流行りの"カスハラ"ってやつか……」
ボソリと呟いて受付カウンターへと向かう。
ここはやっぱり町の責任者となった僕の出番だろう。
正直、あんな屈強な体つきで、さらに集団を相手にするのは怖い。
だけど責任者たる者、臆してはいられないのだ。
「あ、あのぉ、すいません、ギルド内でのいざこざは困ります」
「はぁ?なんだてめぇ……って、お前は……」
「え?」
「お前、"最弱シオン"じゃないか」
この冒険者たち、見たことあるぞ。
確かラーグ・グレイスの町にいた冒険者だ。
ずいぶんと久しぶりに"最弱シオン"のあだ名で呼ばれた。
「なんで、お前がここにいる?」
「ぼ、僕がここの責任者ですから」
「そうか、お前がホラ吹きの責任者か!!」
「え……それって、どういうことですか?」
「どうもこうも、ここの責任者は"魔獣"と"魔神"を倒した勇者候補だって噂で聞いてたからな。極め付けは女魔神を従わせてるとか」
リーダー的な存在の冒険者が言うと嘲笑が起こる。
この雰囲気は経験があった。
ラーグ・グレイスで初めて冒険者ギルドに行った時に感じたものだ。
「そんな嘘をついて、女だらけの町でいい思いをしてる責任者ってやつを見てみたかったが、まさか最弱シオンとはな!」
冒険者はゲラゲラと品も無く笑う。
リーダーに続くように他の冒険者たちも続けて小馬鹿にしたように笑った。
「魔神を倒すなんてありえん。この数十年で魔神を倒した勇者候補は"白竜"しかいない。最弱のお前なんかが倒せるわけがないからな」
「それは……」
「魔獣だってそうさ。誰かコイツが魔獣や魔神を倒すところを見たヤツいるのかぁ?」
そう言って周りを見渡すような素振りを見せた。
だけど、誰も反応はしない。
そもそも魔神を倒したのは僕でなくてイヴだ。
魔獣戦では、その場にいたのは僕とエイジさん、セシル(首無しハム・エッグ)だけで他は誰も見ていない。
「やっぱり嘘じゃないか。勇者候補って嘘だけじゃなくて、魔獣や魔神を倒したなんて嘘をよく言えるよなぁ!今日から、お前は"最弱ホラ吹きシオン"だ」
どんなに大量のスキルを手に入れても、魔神を従わせていても言い返す勇気が湧かない。
ただ僕は俯くだけで何もできなかった。
「ここの責任者は俺がやってやるよ。それで、みんなは俺が可愛がってやるからさ」
そう言って笑みを浮かべて周囲を舐め回すように見る冒険者のリーダー。
すると、僕の後ろから鉄音が聞こえてくる。
『貴様ら、何をやってる?』
「なんだてめぇ」
振り向くと"漆黒の鎧"を身につけた者が歩み寄る。
そして"彼女"は僕の前に立った。
『我が主人を愚弄する者は許さん』
「はぁ?なんだ、お前は」
『魔神イヴ・ガルハート。シオン様を守護する者だ』
「おいおい、冗談だろ?」
『死にたくなければ今すぐ出て行け。ここは貴様らのようなクズが来るところではない』
「なんだと!!」
冒険者はすぐに腰に差したソードのグリップを握って引き抜く。
そして上に構えて、漆黒の鎧を身につけたイヴへ向けて縦一線の斬撃を放った。
しかしイヴは一切、動くことなく冒険者の斬撃を肩に受ける。
すると冒険者が持っていたソードの刃が赤く染まっていき、ドロドロに溶けて床に落ちた。
「な、なんだこれ!?」
『貴様もこうなりたくなければ、さっさとここから出ていけ』
「ひ、ひぃ!」
リーダーの軽い悲鳴、恐怖の様相。
周りにいた冒険者たちは唖然とした表情をした。
そしてすぐにハッと我に帰ると、リーダーを含めた冒険者たちは急いでギルドを出て行った。
『大丈夫ですか?主人様』
「う、うん……カッコ悪いとこみられちゃったな」
『そんなことはありません。主人様は勇敢でした』
「お世辞はいいよ」
『お世辞などでは……』
「僕は部屋に戻って寝るよ。なんだか疲れちゃったからさ」
『主人様、もしよろしければ、このイヴが一緒に……』
僕はイヴの言葉を無視して部屋に向かった。
いつもなら最後まで聞いてあげるんだけど、今はそんな余裕はない。
こんな惨めなことあるかな。
"主人様"なんて呼ばれているのに、この為体。
みんなの疑心暗鬼の視線が痛かった。
多分、ここにいる誰もが思ってるよ。
"あんなのが町のリーダー?"
なんてさ。
「はぁ……」
ため息だけが漏れる。
イヴだってそうだ。
僕のことを、だらしない主人だと思っていても不思議じゃない。
彼女の性格を考えれば、僕のようなナヨナヨした人間を見れば腹が立ってくるだろう。
考えてたら、さらに落ち込んできた。
とりあえず今日はすぐに寝よう。
こうして"ラブ&ピース"は一瞬のうちに終焉を迎えてしまう。
この日、僕は疲れからか夢を見ることなく死んだように眠った。
そして運が悪いことに"最弱ホラ吹きシオン"の悪い噂はすぐに町中に広まっていくことになる。




