開店!トワイライト・ブルー
エヌス・ヤタ復興開始から1ヶ月半が経とうとしていた。
家屋はギルドを含めて数十軒の修復が完了し、道に敷き詰められている石床も綺麗に舗装。
さらに町の外にある看板、
"老人を大事にしましょう"
と書かれていたものを書き換えて、
"ラブ&ピース・愛は世界を平和にする"
という、とても素晴らしい文章にした。
もちろん考えたのは僕だ。
文章の意味を説明すると"思いやりと共感、争いのない世界"といったところかな。
毎年、夏になると募金を呼びかけるキャッチフレーズに使われそうな文章ではあるが住民たちも気に入ってくれているみたい。
そんな僕はユーフェンさんに剣術と鍛錬方法を教わる毎日。
そして無事に"2冊"の魔導書を読み終えることができ、念願の魔法を習得することに成功。
これで近距離だけでなく、遠距離での攻撃も可能となった。
実はギルドの地下の洞窟ですでに魔法のコソ練をおこなって、実用レベルまではきたと思う。
あとは、いつお披露目できるかだけだ。
全ては順調。
そう思いたかった。
だけど気になることもある。
「"白いサソリの勇者候補"って何者?」
微かに覚えている夢の内容を思い返すに、おそらく最近になって初めて出会った3人の女性の中に"白いサソリの勇者候補"に関係してる人物がいる。
"クミルさん"は魔法使いの女性。
夜の戯れの際に見せたマットサイエンティストっぷりが怪しい。
"アイヴィさん"は弓使いの女性。
イヴを慕っているが、自ら志願して無理やり町の復興に協力したというのが怪しい。
"ユーフェンさん"は中華系の女の子。
彼女は南の出身というだけで、あまり怪しくはないけどアリカさんの時みたいなことがあるから警戒しておく必要はある。
もしファリスちゃんがここに滞在していれば"白いサソリ"について聞けたんだけど、町を離れてしまったからなぁ。
「とにかく今は町の復興のことを考えないと」
そう呟きつつ、僕は天気のいい昼下がりに復興へと向かう町並みを見て歩いていた。
随分と住民の表情は豊かになったと思う。
相変わらず僕に挨拶してくれる人はいないけど。
中央、壊れたアヴァロ魔鉱石がある広場。
町の住民や冒険者(すべて若い女性)の集団がある店の前で行列を作っていた。
そこには木造で建てられた店があった。
濃い青色を基調とした外壁で室内が見える大きな窓ガラスが取り付けられていて、とてもオシャレで綺麗だ。
「あれは……」
そう。
ついにオープンしたセシルのランジェリーショップ、その名も【トワイライト・ブルー】だ。
名前の意味は僕にはさっぱりわからない。
最初こそ素通りする人が多かった。
だけどイヴが選抜した"3人娘"に着用してもらったら思いのほか好評で、そこから口コミで広がったことで今では大行列ができるまでになった。
聞くところによると着け心地だけでなく、"動きやすさ"と"可愛らしさ"を両立した素晴らしい下着ということで人気爆発。
住民が身につけると仕事能力が向上し、冒険者が身につけると戦闘能力が向上するという謎の能力付与があるのだとか。
さらに安価で手に入るというのもあり、現在エヌス・ヤタ女子の間ではトレンドだ。
「いやぁ、やっぱり僕の見た目は間違ってなかったな」
「はい。全ては主人様のおかげです」
「うわ!!」
噂をしたら隣にいた。
腰からスリッドの入った黒いローブと黒いフードを身につけた女性。
トワイライト・ブルー社長のセシル・アクアリュウム代表だ。
「まさか、これほど人気がでるとは思いませんでした。さすが主人様、先を見通す力をお持ちで感服いたします」
「全部セシルさんの力だよ。でも、よかったね、大盛況で。住民だけでなくて、一時的に町に来てる冒険者まで買ってるし」
「はい。この下着の売り上げによって得た資金でシオン様の覇道をお手伝いできれば、これに勝る喜びはありません」
「いやいや、素直に自分の作った商品が売れたことを喜んでよ」
「いえ、私は……」
セシルが言いかけると、ちょうど店から出てきた若い女の子2人組がこちらに近づいてきた。
どちらも下着を購入したようで、紙袋を大事そうに抱えている。
「セシル様、素敵なお店を開いて下さってありがとうございます!」
「セシル様の作られた下着、とっても可愛いです!」
「え、ええ……」
珍しく困惑しているぞ。
そんなセシルを見るのは悪くない。
「新作はいつになるでしょう?」
「早く欲しいです!」
「えーと……近々、出そうと思ってますよ」
女子たちの顔を見合わせながら軽く飛び跳ねて喜ぶ姿は純粋無垢で可愛い。
満面の笑顔の2人はセシルにお辞儀すると、その場を後にした。
さらに、この光景を見ていた行列を作る住民たちや冒険者(すべて若い女性)はセシルに気づいたようで、みなが顔を赤らめながら手を振っていた。
「セシルさん、大人気だ」
「私が……人気?」
「そりゃあ、今やエヌス・ヤタを誇る下着ブランドの女社長だからね。みんなの憧れの的だよ」
「憧れ……私が……」
セシルが胸に手を当てて何か物思いに耽っている。
これは僕にとっても嬉しいことだった。
魔神といえば人間から恐れられる存在というのが一般常識であるが、このエヌス・ヤタでは全く違う。
実はセシルは町の住民(若い女性)から絶大な人気を誇るというのは知っている。
綺麗な容姿とクールでインテリジェントな性格は女の子にはカッコよく見えるのだろう。
まぁ僕と2人っきりの時は、おばかな顔でダブルピースする知的さのかけらもない下品で美しい女性に変貌するわけだけど。
ともかくセシルにとっても、町の住民にとっても幸せであればそれでいい。
「では、私はこれで失礼します。まだ復興予算の計画書作成が残ってますので」
「うん、よろしくお願いね。頼りにしてるよ」
「はい。このセシル、必ず主人様のお役に立ってみせます」
その言葉には高揚が感じられた。
やっぱり自分が作った商品が大ヒットしたら嬉しいに決まってる。
セシルが去り際も、道ゆく住民たちの反応はまるで芸能人を偶然に目撃した一般人のごとくであった。
この町での人間と魔神の関係は良好である。
うん、"ラブ&ピース"だね。




