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部下が部下を育てる時が来た

エヌス・ヤタ復興開始から1週間が経とうとしていた。


町の至るところに生えていた雑草やら枝は綺麗に刈り取られ、家屋も着々と修復が進む。


すると段々と住民の表情も和らぎ始めた。


それもこれも、助言をくれたエイジさんや町の復興に汗を流すジェイルさん、冒険者たちのおかげだ。



今日は珍しく雨が降ったことで、僕はギルドの2階にある書斎で本を読んでいた。

もちろん、この本というのは"魔法・ファイアーアロー"の魔導書である。



______________________




書斎の奥の真ん中には大きな窓を背にするように机が置かれていて周りには本棚がいくつか並ぶ。


僕は書斎机に着いて魔導書に目を落とす。

雨のため窓から差し込む光は少なくて薄暗いが、本を読むのには十分だ。



ファイアーアローの魔法については魔法少女の先輩であるクミルから詳しく教えてもらった。


ファイアーアローは直線型の攻撃魔法でファイアーボールより火力は落ちるが、飛距離が長くて弾速も速いため敵に当てやすい。

ただ直線的に発射されるため、見切られると少しの動作で簡単に回避されてしまうという。


この辺はやはり下級魔法。

弱点が顕著である。


それでも習得していないよりはマシだろう。

現在、僕が使える必殺技は近距離のものしかないからね。


「それにしても、これは長いなぁ」


30分に一度は呟いてると思う。


読み始めて半日くらいか、ずっと書斎に篭って読んでいるけど100ページも読めていない。

僕は本を読むのが遅いのだ。


ちなみに内容はファイアーアローについての歴史やら説明やら詠唱のことやらが、かなり回りくどく書かれている。


正直、読む意味あるのかというレベル。

それでも"魔法が使える"という新たなステージに立つワクワク感が僕を頑張らせていた。




そんな時、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


『お忙しい中、失礼致します』


入ってきたのは全身に漆黒の鎧を身に纏った魔神イヴ・ガルハートだ。


「イヴさん、何かあったの?」


『スキル選抜の件でお話があります』


「あ、ああ……」


すっかり忘れてた。

クミルさんを従属させて終わりだと思ったら、まだ続いていたのか。


『また、一人見つけましたので連れて参りました』


「え……連れて来ちゃったの?」


『何か問題でも?』


「いや、別に大丈夫だけど」


正直、僕は今、とてつもなく集中したい状況。

さっさとファイアーアローの魔導書を読破して魔法を華麗にぶっ放したいのだ。


だけど……、


「失礼します」


イヴの後に続いて入って来た女性を見て僕は目を奪われた。


薄い赤い長髪をサイドテールにして肩に流した背の高い若い女性。

白のショルダーレスのミニスカワンピースにブラウンの胸当て、太ももまであるロングブーツ。

背中には弓と矢筒を背負っていた。


キリッとした顔立ちの綺麗なお姉さんタイプで、雰囲気がどことなくイヴに似ている気がした。


『主人様にご挨拶を』


「はい、私はアイヴィです」


「アイヴィさん、素敵なお名前ですね」


「ありがとうございます」


表情と声のトーンがすごく暗い。

今から何をされるのか、そんな心配をしているのかな。

前回の町の状況を見ていれば当然か。


「アイヴィさんは弓をお使いになるんですか?」


「そうです」


「弓って難しくないですか?」


「そうでもないです」


「今日の下着の色は何色ですか?」


「……」


突き刺すような視線。

めちゃくちゃ睨まれているぞ。

今はコンプライアンスな時代だからなぁ。

場を和ませるためとはいえ、さすがにセクハラ発言はマズかったか……。


『主人様が質問なさっているんだ、ちゃんと答えろ』


イヴが言うと、アイヴィはハッとして焦ったように口を開いた。


「も、申し訳ありません、イヴお姉様……」


"イヴお姉様"?


「……し、下着の色は白です。私は毎日、白です。上は身につけてません」


聞いてないことまで答え始めたぞ。

一体、どうなっているんだ?


『この者のスキルはありきたりで強くはないのですが、どうしても町の復興を手伝いたいと志願した者です』


あー、なるほど。

アイヴィさんはイヴに憧れを抱いているのかな。

イヴを魔神と知ってても慕ってくれて、それで町の復興を手伝ってくれるなら好都合だ。


「アイヴィさんは、弓以外で何か得意なこととかありますか?」


「私の得意なこと……ですか?」


『しっかり答えることだ。主人様に認められなければ、ここを去ることになる』


「は、はい!……私は身軽でスピードがあります。それと目がいいので偵察などが得意です」


いい人材だと思う。

現状、この町のアヴァロ魔鉱石は壊れていて魔除けの効果はない。

かといって、これを修復してしまうとイヴとセシルが町にいれなくなるので、町周辺の警護にあたれる人は必要になってくる。

遠く離れた場所の偵察はセシルの使い魔に任せればいいから、自警団的な存在は欲しい。


「いいですね!防衛面での協力をしていただけると助かります」


「あ、ありがとうございます!」


『では、採用ということで』


え、面接だったの?

別に協力的であれば誰でもいいんだけど。


『主人様、スキルの方を』


「必要なのかなぁ。まぁ、でも一応、スキルを複写トレースしたいしな。『従属オビディエンス』……アイヴィさん、よろしくお願いします」


アイヴィさんの目が虚になる。

そして、


「はい……がんばります」


そう言って少しだけ頭を下げた。


「あとはイヴさんの指示に従って下さい。イヴさんのお仕事の補佐ということで報酬も出しますので」


「はい」


『あ、あの、主人様、まさか、この者を私の部下にするということですか?』


「そうだよ。部下の育成は自分の成長にも繋がるっていうからさ。夜の件もしっかりお願いね」


『わ、わかりました。尽力致します』


何やら困惑気味ではあったが、これはこれでアイヴィさんが幸せになってくれればそれでいい。

彼女にとっての願望は多分、イヴに認められることだろうから、僕よりもイヴに面倒見てもらったほうがいいだろう。



______________________




「痛っ!」


左手が痛んで目が覚めた。



【新たなスキルを獲得しました】



周りを見渡すと、ここは書斎だった。

どうやら本を読みながら寝落ちしていたようだ。


「ちょっと待てよ、寝てる間にスキル獲得したの?」


まさかイヴとアイヴィが夜の戯れをおこなって、それが従属レベルアップに繋がったのか。


僕はギルドカードを取り出して見る。



____________________


【従属レベル】

ミナ・・・(レベル1)

クミル・・・(レベル2)

アイヴィ・・・(レベル2)

ファリス・・・(レベル2)

ランジェリカ・・・(レベル1)

イヴ・ガルハート・・・(レベル3)

セシル・アクアリュウム・・・(レベル3)


______________________


【獲得スキル】

・『炎歪フレイム・ディストーション

・『耐寒コールド・プロテクト

・『影跳かげとび

・『偽装カモフラージュ

・『拡散ディフュージョン

・『魔転インバージョン

・『狙撃スナイプ


__________________________



獲得スキルは『狙撃スナイプ』。

このスキルの内容は、



"飛び道具、魔法の発射時に敵へと追尾する効果を追加する(発射直後のみ)"



というシンプルなスキルだ。


イヴはあまり使えないと言っていたが、これってめちゃくちゃ実用性が高いじゃないか。

"発射直後のみ"という条件はあるけど、発動した時点で敵をサーチして飛んでいくなら使いようはある。


今まで手に入れたスキルを組み合わせれば、面白いことができそうだ。

早く魔法を習得して試してみたいな。


僕はこのスキル獲得にテンションが上がって朝方までファイアーアローの魔導書を読んだ。

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