果てしなき魔法少女への道(1)
町を覆う曇り空から雨が降らずとも、気候は嫌な暑さをもたらしていた。
やはり東部は北部よりも蒸し暑さを感じる。
僕は太陽の光の下、例の通り、この町の中央にある壊れたアヴァロ魔鉱石の前のベンチに座っていた。
ギルドカードを眺めながら独り言が漏れる。
「スキルは獲得できたけど、これって……」
昨日、セシルから複写したスキルが頭を悩ませていたのだ。
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【従属レベル】
ミナ・・・(レベル1)
ファリス・・・(レベル2)
ランジェリカ・・・(レベル1)
イヴ・ガルハート・・・(レベル3)
セシル・アクアリュウム・・・(レベル3)
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【獲得スキル】
・『炎歪』
・『耐寒』
・『影跳』
・『偽装』
・『拡散』
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『拡散』……。
てっきり流れ的には"耐熱"とかだと思ってたんだけどな。
このスキルの内容は、
"直前に使用した魔法を増やす"
というものだった。
魔法と言えば『炎歪』だと思っていたが、イヴの話では魔法ではなく魔力依存のスキルなのだとか。
つまり僕は今のところ1つも魔法を習得していないということになる。
「そろそろ魔法を覚えたいなぁ」
現在、僕の必殺技といえば、ファリスちゃんとイヴのスキルを組み合わせた『魔炎殺法・踏影』だけ。
これは近距離専用の技になるため、ある程度、敵に近づく必要がある。
そこで、やはり必要となるのは牽制技。
飛び道具は近づくためにも使えるし、こちらの技が回避された際の隙消しにも使える……という一般的な2D格闘ゲームの戦略だ。
まぁ僕はあまり格闘ゲームは得意ではないんだけどさ。
とにかく魔法の習得は今後の課題と言っても過言ではない。
せっかくステータス数値に魔力があるんだから覚えておきたいよね。
「次に目指すは"魔法少女"か……」
そうボソリと呟くと、
「どうされました?」
突然、声を掛けられた。
片側にスリットの入った黒いローブを身につけ、フードを深く被った女性。
「あ、セシルさん」
「何か問題でもありましたか?」
セシルの声はいつもと違って、とても優しく感じられた。
もしかして昨晩の戯れのおげかな?
「実は昨日、セシルさんのスキルを複写しまして……『拡散』なんですけど」
「ああ、私の持つS級スキルですね」
「え……これS級なの?」
「はい。恐らく魔法使いなら誰もが欲しがるスキルではないでしょうか」
そんなに強いスキルなのか。
だけど魔法が使えなかったら宝の持ち腐れだよなぁ。
「でも僕、まだ魔法を習得してなくてさ。恥ずかしながら習得方法もよくわからないんだよね……」
「人間の場合は簡単ですよ。魔導ショップで売っている魔導書を買って読むだけですから」
「それだけ?」
「ええ。ただ、この町には魔導ショップがありませんので魔導書を手に入れるには他の町に行くしかないでしょう」
「それは残念……」
「あとは持っている者から借りるという手もあります」
「そういえばセシルさん、魔法使う時に"魔導書っぽい"の持ってなかった?」
「あれは……少々、魔導書とは異なるものなので主人様にはまだ早いかと思われます。それに"魔神語"と"人語"は文字が違いますので、私からは魔法は教えられません」
「そうなんだ……セシルさんから魔法教えてもらおうと思ってたんだけどなぁ」
「申し訳ございません。魔法は人間の師匠を探す事をお勧めします」
これは非常に残念だ。
セシルのバトルスタイルは純粋なマジックタイプだろうから、教えてもらのにはちょうどいいと思ったんだけど。
「そう言えば『偽装』もまだ使ってないな。これも魔力依存のスキルなの?」
「はい。そのスキルは魔力が続く限り、自分が想像した姿に体を変化させるというものですね。どこかに潜伏したり侵入したりする時に使います」
「なるほど……でもセシルさんは、なんで"ハム・エッグ"だったの?」
ずっと気になっていた素朴な疑問が声に出た。
あの知的でクールな魔神セシル・アクアリュウムが、"ハム・エッグ"なんて名乗るというのは違和感がある。
「それは私がハムエッグが好物だからです」
何も言い返せない。
好きなものを否定したり笑い物にはできないぞ。
「そ、そうなんだ。でも格好は奇抜だったよね」
「格好とは?」
「え……あの"モヒカン肩パッドの世紀末"と"金持ちミニ四駆レーサー語尾"のことだけど」
セシルは何やら困った様子で首を傾げている。
まぁ、あれが普通だと思っていたのなら僕が言ってることは理解できないよな。
「あれは教えていただいたのです。人間とはああいうものだと」
「え……誰から?」
「魔王様です」
魔王って随分とオタク思考だな。
なんか親近感が湧いてきたぞ。
いや、でもそれにしたって世間を知らなすぎではないだろうか?
今度は僕が首を傾げていると、遠くの方から鎧の鉄音が聞こえてきた。
「あれ、イヴさん?」
「そのようですね。あれは……ようやく一人、見つけたのでしょう」
全身、漆黒の鎧に身を包んだイヴ・ガルハートの背後に1人の女性がいた。
僕は目を細めてみる。
イヴの後ろにいる女性の格好は、まさに絵に描いたような"魔女っ子"だった。




