悩めるリーダーへのマッスルアドバイス
すっかり霧の晴れたエヌス・ヤタ。
あれは魔物の支配を象徴する邪悪なる瘴気だったのかな。
それでも空は季節の変わり目なのか、どんより雲が風で流れていて雨が降りそうな天候ではある。
僕は壊れたアヴァロ魔鉱石がある中央広場のベンチに座っていた。
木材で組み立てられた今にも崩れそうなベンチだ。
「町の復興ってどこから手をつければいいんだ?」
何の取り柄もない元オタク高校生に、いきなり町の支配をしろと言われても困ってしまう。
言った本人たち(イヴとセシル)は住民のスキル選抜で忙しいから聞くにも聞けない。
なにより主人が従者に向かって「何から始めたらいい?」なんて聞くのはカッコ悪すぎる。
「はぁ……どうしよう」
ため息が漏れる。
今日も何もせずに終わるのが怖い。
そんな時、妙に圧がある気配を感じた。
「ん?」
視線の先にある、暑苦しいほどの筋肉。
身につけているものは上半身にサスペンダーと下半身のブーメランパンツのみ。
清潔感のある黒い短髪と全身が日焼けした体の中年男性。
マッスルボムことエイジさんだ。
「おやおや、少年くんじゃないか」
エイジさんも僕に気づいて近づいてくる。
相変わらずジム帰りのようなパンプアップされた肉体が眩しい。
「エイジさん、もう腕の方は大丈夫なんですか?」
「心配ご無用。この通りさ」
そう言いつつ、ポージングを惜しみなく見せつけてくる。
この人の筋肉なら戦車に轢かれても死ななそうだ。
「それより、どうしたんだね?元気が無いようだが」
「いやぁ、実は色々あって、この町のリーダーになってしまって……」
「ああ、聞いてるよ。魔神を二人も従わせてる勇者候補くん」
「もう、噂広まってるんですね」
「そうだね。だけど、こんな噂はすぐに消えると思うぞ」
「なぜです?」
「魔神を使役するスキルを持った人間なんて、勇者候補ですら今までいなかったからね。聞いたところで誰も信用しないさ」
「それなら助かります。目立つのは好きじゃないですから」
「その割に町のリーダーなんて最も注目を集める役職、よく買って出たものだ」
「ま、まぁ……」
これに関しては優秀な部下に言いくるめられたわけだけど、さすがに口が裂けても言えないな。
「そんな新米リーダーくんが、こんなところで呑気に黄昏ていていいのかな?」
「そうなんですけど、一体どこから手をつけていいものやらと……自分なりに頑張りたいと思ってますけど、恥ずかしながら初めての経験なもので」
「なるほど」
するとエイジさんは町の全体を見渡すような仕草を見せる。
「今、この町で気になることはあるかい?」
「気になることですか?」
「そうだ。町をパッと見た瞬間に感じることさ」
僕はエイジさんを見習って町を見渡してみる。
石の床のところどころから飛び出す雑草。
片付けられないままの瓦礫の山。
ヒビだらけで崩れそうな家屋。
「綺麗では……ないですよね」
「では、そこから始めてみたらいい」
「え?」
「町の景観さ。"筋肉と街並みは綺麗な方がいい"。ワタシの持論だ」
とんでもない持論を展開された。
しかし、言ってることは間違いではない。
「じゃあ、この町には何が必要なんですかね?」
「それを考えるのがリーダーの仕事だ。目的達成のために道筋を考えるのだよ」
「道筋?」
「問題を見つけて、解決するための手段を考え、そして考えた手段を遂行できる人材を手配する。これが今、君に求められている仕事だ」
「なら、今は景観をよくしたいから、それができる人材を探して、町を直してもらって綺麗にする……ってことか」
「アテが無いなら、この町の住民に協力を仰ぐといい」
「でも、こんなに気さくに僕に話しかけてくれるのはエイジさんくらいです。町の住民たちは僕のことを怖がって目も合わせてくれません」
「それなら外から連れてくることだね。"筋肉と信頼の構築は地道な努力"。ワタシの持論だ」
とんでもない持論を展開された。
でも、やっぱり間違っては無い。
「もしかしたら、町が綺麗になれば住民たちも新たなリーダーに心を開いてくれるかもしれないよ」
「確かに、そうですね」
「では、ワタシは行くとしよう。次の町でワタシの筋肉を必要としている人間が待ってるのでな」
「ありがとうございました。エイジさん、お元気で」
「少年くんもな」
エイジさんは白い歯を光らせながら笑顔で去って行った。
出会いがあれば別れもある。
ファリスちゃんもそうだけど、エイジさんともずっと会えなくなるのかな。
ちょっぴり悲しいけど、考えるべきは町の復興だ。
ヒントはもらったから、このボロボロの街並みを復元できる人材を探さなければならない。
だけど、この町には若い女性しかいなくて力仕事は冒険者に頼むしか無いけど、なにより家屋なんて誰が直せるんだよ。
できるとなれば建築関係の仕事をしている人だ。
そんな知り合いなんていたかな……?
……あれ……建築って。
「そういえば、いるじゃないか建築家!」
僕は"ある人物"を思い出した。
彼は家を建てたり、修繕をおこなえると自己紹介していた。
だけど実は建築家というのは仮の姿、本当は元特殊部隊の傭兵で消耗品の走り屋。
僕はエイジさんの助言によって、ようやく町の復興の第一歩を踏み出したのだった。




