町の復興へ向けて、新たな出発
エヌス・ヤタの町は魔物の支配から解放された。
人間でありながら魔神ルザルグの部下として町を仕切っていた勇者候補のエリシアさんは、地下洞窟での戦いで大火傷を負うも生きていた。
現在はギルド内にある牢屋の中で拘束状態にある。
そして誰もが気になっているであろうマッスルボムことエイジさんも、セシルの寒風魔法を耐え切って生存した。
魔獣グリム・リーパーとの戦いで両腕の骨は砕けたが、この町のギルドに所属している冒険者に応急処置をしてもらったようだ。
ファリスちゃんは僕が寝ているうちに、いなくなっていた。
多分、何か自分の目的があって旅をしているみたいだから別れるのは仕方ない。
いつかまた出会えたらいいんだけど。
そして、肝心な僕はというと……
なぜか冒険者ギルドの2階。
ちょうどベランダのようになっているところに立っていた。
しかも、100人ほどの町の住民(全員、若い女性)を見下ろす形で。
両隣には2人の魔神。
イヴ・ガルハートとセシル・アクアリュウム。
どちらも顔を隠さず、完全に魔神として身バレ状態だ。
これはセシルの"とある提案"によるものだった。
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セシルへの罰の前の日。
宿のベッドの上に座り、僕は今後のことを考えていた。
僕の目の前には鎧姿のイヴと黒のローブを着たセシルが跪いている。
「これからどうしよう……次のアテが無いぞ」
そこにセシルが顔を上げて口を開く。
「恐れながら主人様、このセシルに考えがございます」
「え、どんな考え?」
僕が聞くとセシルは不適な笑みを浮かべて、
「この町を支配するのです」
そう、何の躊躇もなく言った。
「は?」
「この町をルザルグの支配から救ったのはイヴですから、当然、この町の支配権はシオン様にあります」
「どういう理論……?」
「現在、勇者候補のエリシアも拘束状態にあり、この町の管理状態は曖昧です。ならばルザルグが持っていた支配権を我らのものとして、ここをシオン様の活動拠点とするのが最善策だと思います」
「最善策……?」
「そして、さらに領土を広げていきます。当面の目標としましては、大陸の北西に位置する、このアーバスラム地方の全てを手に入れるのです」
「目標デカすぎない……?」
「いえいえ、最終的にはシオン様はこの大陸の全てを支配するわけですから、こんなものは小さな目標でしかありません」
何やら雲行きが怪しくなってきたので、僕はイヴに助け舟を出してもらおうと彼女を見るが……
イヴも目を輝かせている。
「なんと素晴らしい考えだ!セシル!」
ああ、これはもう待った無しだ。
僕は有能な部下に言われるまま、望まぬ道を歩むことになるのか。
「で、でも、僕の目的は魔王討伐であって世界を支配することじゃないんだけど……いや、これ、魔王軍の幹部の前で言うことじゃないけどさ」
「いずれは魔王城も獲ったらよろしいです」
「それは大胆な発言だな……」
「世界を支配する"ついで"ですから」
「あー、なるほど、魔王討伐ってのは単に通り道なだけか」
「はい。その足かがりとして、この町の支配から始めます。まずは町の復興をしていき、そこから資金を得て、この北西全域制覇を目指すという流れです」
「ビッグプロジェクトすぎる……」
そんなこんなで、僕はエヌス・ヤタの冒険者ギルドの2階ベランダで町の住民(全員、若い女性)を目の前にして支配宣言をすることになったのだ。
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時を現在に移して、僕は冒険者ギルドの2階ベランダにいる。
そして両隣には顔を隠していないイヴとセシルの姿。
今まで魔神に支配されていた町に、さらに2人も魔神が現れたものだから集められた住民たちは怯えていた。
そんな住民に構うことなく、無表情のセシルは一歩前に出て演説を始める。
「この町を支配していたルザルグは、こちらにいらっしゃるシオン様が討伐なされた」
いや、僕は倒してない。
"ハム・エッグ"の時の虚言癖が残ってるぞ。
「たった今から、この町は我が主人であるシオン様が支配される。意義がある者は前に出よ」
あるわけないだろ。
この状況で前に出れる人間がいたら、頭がおかしい。
案の定、誰も名乗り出るものはいない。
「誰もいないようだから、相違無しと受けとる」
セシルが言うと次に前に出たのはイヴだ。
漆黒の鎧を身につけた彼女の圧迫感は、さらに住民たちを震え上がらせる。
「これから、お前たちの"スキル選抜"をおこなう。優秀なスキルを持っている者は主人様から寵愛を賜ることができる。これはとても名誉なことだ」
セシルは冷静な感じだけど、イヴはとても高圧的に聞こえる演説だった。
その効果は絶大で、住民たちの反応は恐怖と絶望に包まれている。
それもそうだ。
前回の支配者であるルザルグの寵愛というのは、人をおもちゃにして死ぬ一歩手前まで追い込むようなものだったのだから。
「ではシオン様、場は温めておきましたので、最後にお一言」
ここで振る?
いや、冷め切ってるけど?
恐らくイヴ的にはラストに一発、かまして住民たちを恐怖のどん底に突き落とせということなのだろう。
でも、やっぱり僕は僕なりにやりたい。
「今日から町の新しいリーダーとなります、シオンと申します。僕はみなさんが幸せに暮らせるように、よりよい町づくりに励みたいと思ってます」
僕の演説の間、住民たちはただ聞き入っていた。
今の僕はまだ信用度の低い政治家みたいなものだ。
「支配という言葉は使っておりますが、実際は平穏な暮らしはお約束した上で、みなさんには町の復興にご協力をお願いしたいです」
「なんという寛大な……」
イヴが呟いた。
一方、セシルは胸に手を当てて僕の言葉を噛み締めているように聞いている。
「みんなの力で、この町を復興させましょう!」
僕は今の雰囲気を変えるべく、持てるすべての明るさで語った。
これがオタクの限界やぞ。
だけど、少しだけだが住民たちの顔に希望が差したようだった。
そこにすかさず、
「お前ら、主人様の命令は絶対だ!歯向かう者には罰を与える。肝に銘じておけ!」
そうイヴが言うと住民たちの顔には再び恐怖と絶望に満ちていった。
いやぁ、台無しだよ。
これは先が思いやられるな……。
こうして僕はイヴとセシルが選んだスキルが優秀な住民の"3名の女性"を従属することになり、エヌス・ヤタの町の復興に奮闘し始める。
一時的ではあるが、異世界転生モノの流行りとも言うべきハーレム&スローライフ編に突入する……かと思いきや。
"町の復興"と"3人の新たな女性"の登場によって、僕の運命はある場所へと向かうことになった。
セシル・アクアリュウム編 完
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これは……誰の夢?
あの"3人"のうちの誰かなのか。
とても黒い霧に覆われている。
いや、部屋が暗いんだ。
小さな部屋に椅子が2つ。
中央にテーブルがひとつだけあって、その上には"ボードゲーム"のようなものが置かれている。
灯はボードゲームの隣に置かれている蝋燭が1本だけだ。
僕は……いや、"私"は目の前の椅子に座る、誰かと対話していた。
「これだけ探しても見つからないとなれば、この南方にはいないだろうね」
"男"が言った。
ブラウンのロングコートを着た男だ。
彼は続けた。
「アリカの勇者スキルは荒削りながら暗殺に向いていて使えるんだけどね。彼女が抜けたのは残念だよ」
「恐らく北か東に向かったのでしょう。もう少し探してみます」
「頼むよ。彼女は"黒"だからさ。私の"白"と繋がれば、いい子を残せると思っていたんだけど……もしかして私のことが嫌いなのかな?」
「そのようなことは無いと思いますが……恐らく、騎士団とのいざこざを避けたのだと思います」
「どうかねぇ、人の心なんてわからないからさ。だから私は"このスキル"をメインに据えてるんだ」
暗がりで男の顔は見えないが、ニヤリと笑った気がした。
私はふとテーブルにあるボードゲームに目を落とす。
そしてボードゲームの上に乗せられた木で作られた駒を一つ取る。
「……将棋?」
そう呟いた瞬間、男は素早く私の腕を掴む。
勢いで私は将棋の駒、"飛車"を床に落とした。
「お前は誰だ?」
「あ、あの、何を言っているのです?」
男は人差し指を立てて口元へともっていく。
そして"シー"と静かに息を吐いた。
「君じゃない。君の中にいる人物に話かけてる」
何を言っているの?
「お前だ」
私……いや、"僕"?
「そうだ。何者かな?」
僕は……
「まだ能力が安定していないようだね。記憶が曖昧だ」
まさか……人の心を読むスキル?
勇者スキルなのか?
「察しがいいね。勇者スキルと言えばそうだが、そうでないと言えば、またそれも当てはまる」
意味がわからない。
「それより君のことが知りたいね。どんなスキルなのかな?」
僕のスキルは……
「ほう。まさか、この私より弱いスキルを持った勇者候補がいるとは。だけど人の意識に入り込むことができるとなれば、他に何か秘密があるのだろうね」
質問されただけで心が読まれるの?
「まぁ限界はあるがね。ともかく、君に興味が湧いた。ここで話せたということは、いつか出会えるかもしれないね」
あなたは一体、誰ですか?
「私の情報だけを教えるのはフェアじゃない。そうだ、お互いを見つけ合おうか。そっちの方がゲームとしては面白いからね」
ゲーム?何を言ってるの?
「もし出会うことができれば……是非、友達になろう」
僕は……
「では、次は対面で話そうじゃないか。"覗き見くん"」
"男"は立ち上がって顔を近づけた。
腹に痛みがあり、僕の意識は完全に途切れる。
その一瞬、"男"の左瞼にあった縦一線の切り傷が見えた。
そして、開かれた左眼の中に光る勇者の刻印。
【白いサソリ】の紋章だ。




