僕とふたりの女幹部
僕はベッドの上で目を覚ました。
ここは見覚えのある場所、宿屋の一室だろう。
「主人様……よかった」
「主人様、ご無事で何よりです」
2人の声がした。
ゆっくりと上体を起こすと、ちょうどベッドの横で跪き、頭を下げる2人の女性の姿。
1人は長い赤い髪にこめかみに2つの黒い角。
漆黒の鎧、赤いマントの女性。
"魔神イヴ・ガルハート"だ。
もう1人は長い青髪を後ろの高い位置で束ねたポニーテール、そしてやはりこめかみに2つの黒い角。
ぴっちりめの黒いローブを着た眼鏡の女性。
"魔神セシル・アクアリュウム"である。
イヴは僕を見ず、さらに深々と頭を下げて言った。
「この度の失態、言い訳のしようもございません。一度ならず二度までも……どうぞ、このイヴ・ガルハートに重罰をお与え下さい」
震えるような声だった。
今にも泣きそうな、その声からは"恐れ"が伝わる。
「イヴさんはファリスちゃんを助けてくれたんだよね」
この言葉にイヴは顔を上げて驚いた表情をした。
ずっと眠っていた僕には知り得ぬ情報だからだろう。
だが、イヴは何か悟ったかのように再び頭を下げた。
「はい……主人様から"仲良くしてほしい"とのお言葉を賜っておりましたので、お守りした次第です」
「ありがとう。さすがイヴさんだね」
「いえ、これは主人様が思慮を尽くされ、事を読み切られておられたおかげでございます」
「僕は何もしてないけど……?」
「ご謙遜を。主人様がすべて状況を読んでおられ、あの女性に"魔除けのアクセサリー"を授けたのですよね?」
「え……ああ、もしかして……あの"かんざし"のことかな……」
あれは、ただファリスちゃんに似合うと思って購入したものだ。
確か店主は「リガンドロ地方の職人が作った、あらゆる災いから身を守ってくれるという魔法の髪飾り」とか言ってた気がする。
「あのアクセサリーからは凄まじい力を感じておりました。あれならば私の魔力も耐えられる。今回の主人様の全て見越された上での行動……感服いたします」
いや、これはイヴがめちゃくちゃ優秀ということだ。
多分、僕がファリスちゃんにあの"かんざし"をプレゼントしてなくても、イヴならなんとかしちゃったと思う。
かと言って、ここで無理に否定したら僕の立場が無い。
……という謎の男のプライドが出てきてしまった。
「まぁね……でも、2人とも無事ならよかった」
「主人様、まさか……私の心配もしてくださっていたのですか?」
「それはそうさ。イヴさんがいなくなったら僕は寂しいからさ」
「そう言って頂けるとは……有り難き幸せ。これで、どんな重罰にも耐える事ができます」
「いやいや、そんなの無いけど」
「それでは私が……!」
「ファリスちゃんを助けてくれたから、お咎め無しってことにしたいな」
「なんと寛大な……」
イヴはまた深々と頭を下げた。
そして同時にゆっくりと頭を上げるセシル・アクアリュウム。
近くで見ると、とても綺麗な顔立ちだった。
ぱっと見、眼鏡補正もあるのか頭が良さそうで"キャリアウーマン"って感じ。
「この度は主人様には多大なるご迷惑をお掛け致しました。どのような罰でも受ける覚悟でございます」
イヴとは正反対な印象だった。
彼女はとても落ち着いて見えるが、悪く言えば無感情。
その言葉からは"私ならどんな罰にも耐え切ってみせます"という余裕が伺える。
これにはイヴも黙っていられず口を開いた。
「迷惑どころの話ではあるまい!主人様を殺しかけたのだぞ!」
「だから、こうして謝っているでしょう。さらに罰も受けると言っているのです。何が問題なの?」
「その態度だ。主人様に失礼であろう!」
2人とも跪いたまま隣同士で喧嘩している。
もしかして、この2人って仲が悪いのかな?
確かにタイプは違う気もするけど。
「もしかして、2人って親しくないの?」
「い、いえ、決してそのようなことは……そもそも魔神同士は一緒に行動しませんので、そのような感情はあまり無いです」
「私は嫌いですけどね」
セシルはキッパリと言い放つ。
これにはイヴも顔を引き攣らせた。
僕にもわかるほどの殺気が部屋に充満している。
「貴様、いい加減にしろよ。主人様の前だから黙っているが、これ以上の無礼は許さんぞ」
「これは失敬。私は嘘が下手なもので……なるべく正直にお話すべきかと」
セシルの序列を考えると、幹部としてはイヴよりも格下にあたるはずだけど全く気負いしていない。
恐らく魔神全員が、それなりにプライドが高いのかもしれないな。
「僕は二人は仲良くしてほしいけど……そうだ!セシルへの罰を思いついたぞ!」
2人は驚いた表情で同時に僕の顔を見た。
"コレ"には流石に「どんな罰も余裕」と考えてそうなセシルにも一泡吹かせられるかもしれない。
すべては、この先のことを思ってのこと。
セシルには存分に罰を味わってもらって自分の考えを改めてもらいたいところだ。
まさか従属した矢先に罰を与えることになるなんて思いもよらなかったが、どうせやるなら僕も楽しまないとな。




