トゥエルヴ・アーティファクトNo.10 『狂炎の鎧』
それはまさに"ビキニアーマー"という言葉が相応しい。
大きく胸元から股関節のあたりまで開放された漆黒の鎧。
首元の赤く燃え上がるマフラーと腕から肩にかけて、さらに足元から太ももにかけて禍々しい黒いアーマーだけが彼女を守る。
あとはただ豊満な胸と股を黒いビキニが覆うだけ。
どちらの黒もイヴ・ガルハートという女性の白い肌とは対極的だ。
特筆すべきは背中に大きく広げられた黒鉄の両翼。
その鋭利な形状からして武器であると思っても差し支えないだろう。
わたしの目の前に立つ金色のルザルグは、その"美しい赤髪の悪魔"を唖然とした表情で見ている。
「ありえん……お前は、その鎧の力を引き出せん……お前の魔力だと足りないはずだ!」
「過去はそうだった」
「過去だと?……お前のステータスは打ち止めだろ!いや、今いる魔神全員そうだ、これ以上の成長など無いのだ!」
「私もそう思っていた。だけど、あの方と行動を共にするようになってから力が増しているのがわかる」
そうだ……わたしにも思い当たる節がある。
アイツと一晩だけ一緒にいて、なぜかその後の戦闘では調子がよかった。
いや、"調子がよかった"どころではない。
普段なら苦戦するような戦闘が一瞬で終わった。
武力も魔力もスピードも格段にアップしている。
もしかして、アイツとただ一緒にいただけでステータスが上がったってこと?
ルザルグの狼狽ぶりは常軌を逸していた。
恐らく、自分の目の前に死が迫っていることを確信したのだろう。
「こんなことをして他の魔神が黙っていないぞ!!」
「ならば全員、我が炎で焼き切るまでだ」
「そんなに"人間の男"がいいのか!?」
「私は……あの方をお慕いしている。あの方の敵になる者は誰だろうと許さん」
イヴの背中にある黒鉄の翼は一瞬で炎となる。
それに反応するように腕と脚の黒いアーマーがワインレッド、さらに深紅へと変化していった。
「貴様に見せてやろう……フレイムネクロマンスのイヴ・ガルハートの本気をな」
そう言って、両足を肩幅まで開いて横に構えを取る。
両腕を上げ、目元で剣を構えるようなポーズをすると背中にあった炎の翼が全て手のひらへと収束し始めた。
炎の翼は"黒鉄の両手持ち特大剣"へと姿を変えた。
その切先はもちろん、ルザルグへと向けられる。
「やめろ……そんな膨大な魔力をオレにぶつけたら、後ろにいる人間の女も死ぬぞ!!」
「大丈夫さ。もうすでに我が主人が思慮を巡らしておられる」
「どういう意味だ!?」
「シオン様は体は小さくて力も弱いが、寛大であって、何より聡明でいらっしゃる」
「なにが……言いたい?」
「最初から想定済みなのだ、この状況を」
彼女の言っている意味がわからない。
結局、わたしは魔物ごと斬られて終わるの?
"死にたくない……"
イヴはそんなわたしの思いを無視かのように体から放出された魔力を炎に転換していく。
彼女が纏う大火炎は体から特大剣へと向かい、さらにヒール型のフットアーマーから歪な熱線が無数に地面へと走った。
「"狂炎の鎧"・モード『猛火大剣』」
火炎が特大剣の周りに渦を巻く。
その高温と圧力によってルザルグが数歩、後退りした。
「クソ!!土盾!!」
茶色の粒子がルザルグの包む。
すぐさまドーム状の土壁が彼を覆うようしてできた。
しかし……、
イヴの炎の特大剣による横一線の回転斬り。
それは洞窟の端から端まで伸びる炎剣だ。
炎剣はルザルグの土壁を簡単に焼き切り、さらに美しい赤い円を描いて洞窟の壁すらも斬る。
ルザルグの胴体は綺麗に真っ二つに切られた。
全ての事が済んでもイヴの眼光は殺気に満ちている。
「ルザルグ、ほら、可愛くケツを振ってみせろ。上手くできたら使ってやらんこともないぞ、永遠にアンデッドとしてな」
「オレが、このオレが……女に……負ける……?」
ルザルグの巨体は空中で燃え盛り、最後には灰になった。
ということはわたしの体も……。
あれ、なんともない?
全身が何かとても暖かいものに守られている気がした。
わたし、助かったんだ。
そう思った瞬間、一気に緊張の糸が解ける。
こうして、わたしは……、
髪に差した"かんざし"が粉々に砕けると同時に意識を失った。




