"魔神"と"魔神"の対立
その巨大な影の出現によって洞窟内の空気は一変した。
"男"だ。
獣のような彫りの深い顔、ボサボサの白い立髪、顎髭あごひげの巨漢。
こめかみには立派な2本の黒い角。
その体格に似合わぬグレーのスーツを着た男。
筋肉自慢のエイジさんよりも一回り、二回りも大きく見えた。
数メートルも離れてはいるが、その存在感は今まで出会った者を遥かに凌ぐ。
アレが敵であるなら、わたしはここで死ぬだろう。
"男"はニヤリと笑って口を開く。
「久しぶりだなイヴ・ガルハート」
『ルザルグ・アンゾルゲ。貴様がこの町の支配者か』
「まぁ、そんなところだ。みんな可愛いオレのペットさ」
『人間を従え、魔獣を作り出しているとは……』
「お前こそ、なぜ人間と一緒にいるんだ?」
言ってルザルグと呼ばれた男はわたしへと視線を移す。
あまりの恐怖で震えが強くなった。
少しでも動けば殺される……そんな感覚。
「まさか人間に従っているのではあるまいな」
『……』
「やはり、そうなのか!あの"イヴ・ガルハート"が人間にケツを振るとは思わなんだ!」
『私を愚弄するか……』
さっきから人間、人間と言っているが、どう言う意味だかわからない。
ルザルグと呼ばれた男は明らかに人間とは違う。
しかし漆黒の鎧を身に纏う女性、イヴは"アイツ"の従者のはずだ。
「愚弄も何も、"魔神"が人間に仕えるなど前代未聞だぞ」
え……?
「魔神……?」
わたしの声に反応するように漆黒の鎧を身に纏った女性は両手で兜を触り、ゆっくりと脱いだ。
燃えるような真っ赤な長い髪。
それよりも目を引いたのは彼女の頭にある2本の黒い角だった。
「どういう……こと?」
「我が名はイヴ・ガルハート。今はシオン様にお仕えする高貴なる魔神」
衝撃で言葉を失う。
アイツの従者が魔神……?
もしかしてアイツがスキルで使役したの?
そんなとんでもないスキルを持つとなれば、やはり勇者候補というのは本当だったのか。
「ガハハハハ!まさか人間の男なのか!?あのイヴ・ガルハートが人間の男のモノを受け入れるとは!」
「貴様……まだ言うか……」
「マズイな、興奮してきたぞ」
ルザルグが言うとエリシアさんの隣に立つ。
そして彼女の首元へと手を伸ばして白のワンピースを一気に縦に引きちぎった。
エリシアさんは裸体を晒す。
しかし、彼女はそれが当たり前かのように無表情だった。
そのままルザルグはエリシアさんの紫色の髪を鷲掴みにすると口づけを交わす。
獣が獲物に食いつくような一方的なもの。
……そう思われたがエリシアさんも顔を赤らめながら求めるように口と舌を動かしていく。
2人のよだれは配合されて滴り落ちた。
さらにルザルグの勢いは止まらず、空いた手をエリシアさんの腰に当ててさらに強く引き寄せる。
その、あまりの強さに腰骨が折れる音が聞こえた。
痛みからか白目を剥くエリシアさんはそれでも口づけを求めているようだ。
最後にはルザルグはエリシアさんを押し倒して覆い被さる。
重さによってバキバキと骨が折れる音が聞こえ、ようやくエリシアさんが気を失ったところで事が終わった。
「おっと……やりすぎるところだったな。この女は壊してもすぐに治るから、いつでも楽しめる。オレのお気に入りの可愛いペットさ」
彼女は痙攣しつつ、白目を剥いて失神した。
そのスレンダーな裸体は押し潰されて全身の骨が砕けているようだが、みるみる元通りになっていく。
同時に下半身からは尿が垂れ流され、地面を静かに濡らした。
ルザルグは立ち上がると言った。
「見ろ、この幸せそうな顔を。下等な人間の男がここまでできるのか?このオレだから女は喜ぶんだ。お前もオレを受け入れれば、それがわかる」
「自意識過剰だな。貴様の場合、ただの恐怖の支配でしかない。それで本当に喜ぶ者はいない」
「ほう。なら、お前はどうやって手懐けられたんだ?その人間の男はオレよりも強くて、さぞ大きいんだろうな」
「シオン様は決して強くもないし、ましてや大きくもない」
「なんだと?」
「ただ……毎朝、私を見ると綺麗だと言ってくれる。料理をお出しすれば、笑顔で美味しいと言ってくれる。私の幸せがあの方の幸せであり、あの方の幸せが私の幸せなのだ」
「くだらんな」
「くだらなくて結構。貴様なんぞにわかってもらおうとは思わん。あの方と私の二人だけがわかっていればそれでいい」
羨ましく思ってしまった。
この女性はわたしの知らないアイツを知っている。
今の言葉で、イヴという女性はアイツと従者以上の関係にあるのとが窺えた。
「なら、その人間の男を殺して証明してやるよ。このオレこそが正しいのだということを」
「そうか。ならば同胞であろうと容赦はせん」
「裏切るつもりか?」
「裏切りではない。あの方の脅威を排除するだけだ」
イヴから殺気が放たれる。
彼女が"魔神"であるということを決定づけさせるほどの禍々しいオーラに吐き気がした。
だが……
「オレとやろうとは愚かな。この第四総魔将グラウンドバスターのルザルグ・アンゾルゲ、お前の弱点など把握済みだ!!いい機会だ、序列を変えてやる!!」
咆哮にも似た声を放つルザルグ。
上品なグレーのスーツを筋肉の拡大によって破る。
徐々に全身が金色の毛に覆われていき、巨漢は完全に猛獣と化した。
あまりの恐怖に身がすくむ。
だけどイヴは赤いマントを靡かせながら、前へと歩みを進めた。
漆黒の鎧はだんだんと熱を帯び、色がワインレッドに変化していく。
"魔神"と"魔神"が戦うなんてあり得ない状況ではあるが、もはや彼女に託す以外ない。




