俺流・魔炎殺法『踏影』
人生最後の日
昼休み、いつも通り友達のケイスケは僕の机の前の席に座る。
昼食をとりながらの趣味バナは僕の学校生活において一番の楽しみだった。
「やっぱり必殺技は声を大にして叫びたいよね」
「それがロボットアニメの醍醐味ですからね!」
これは現在、放送中の特撮やアニメで新たな必殺技が登場した時に決まって毎回する会話である。
「今週の"ライゼスター"は手に汗握ったなぁ」
「そうですね!特に今週はラスボス戦とあって凄かったです!」
「まさか最後に主人公が今まで登場した"五人のヒロイン"の技を合体させてラスボスを倒すなんて……」
かっこよすぎる……。
ヒロインの技を合体させて敵を倒す。
そんな魂を揺さぶるような展開。
現実にもあったっていいじゃないか。
これは、その第一歩だ。
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暗雲の中。
およそ50メートル先、破壊された遺跡の前に立っている黒い小さな影。
少女のような見た目だが顔が黒く潰れていて、それが人では無いことを物語る。
例えるなら"怪人"だろう。
だが作り物ではない。
正真正銘の化け物と言っても過言では無い。
その証明に後方には"頭のないハム・エッグの遺体"が倒れていた。
グリム・リーパーと呼ばれる魔獣はただ手を広げただけで爆風を巻き起こして、ハム・エッグを首を飛ばしたのだ。
彼の遺体を見た瞬間、僕の中にある炎が一気に燃え上がった気がした。
静かに腰から引き抜いたダガーを逆手で持って構える。
「アレを使う」
僕は……いや、俺が貴様を倒す。
だけど、それには俺だけの力だと不可能だ。
俺は前で片膝をつくエイジさんに言った。
「エイジさん、俺を隠しながらヤツとの距離を数メートルまで詰めれますか?」
「何か秘策でもあるのかい?」
「ええ。もし、そこまで近づくことができれば俺がヤツを仕留めます」
「うむ、いいだろう。明確にはどれくらいの距離まで行ければいい?」
「感覚的には八メートルほどですかね」
「了解した」
言ってエイジさんは、ゆっくりと立ち上がって"フゥー"と息を吐く。
すると体の筋肉が引き締まっていくのがわかった。
「もしワタシがやられても、その後ろからでも迷わず攻撃しろ」
「ご心配無く。俺の攻撃は確実にヤツにしか当たりません」
「なるほど……」
半信半疑のようだったが、今は俺のことを信じるしかないと思ったのだろう。
エイジさんは前方へと体を倒した。
「行くぞ少年!」
エイジさんの疾走。
その後ろを全力で追う。
歩幅が違いすぎて離されていく。
だけど俺の分析が正しければ必ずエイジさんは止まる。
予想通り、エイジさんは立ち止まり拳を腰に溜めて地面を殴った。
すると畳一枚分ほどの土壁がドミノのように前方に数枚現れた。
「やはり、読み通りだ」
グリム・リーパーの攻撃は風を放つ遠距離攻撃。
先ほどはそれを防ぎきれなかったから、今度は縦に土壁を何枚も出して風の威力を消すしかない。
俺が追いつく頃には土壁が全て破壊されて、エイジさんが再び走り出す。
だけど彼の肉体には土壁で防ぎきれなかった風の爪痕が残る。
「少年!!また来るぞ!!」
叫んで地面を殴る。
土壁が再度、数枚出現して風を防ぐ。
そしてエイジさんは、すかさず走る。
グリム・リーパーとの距離は20メートルほどまで迫った。
もう少しだ……
俺の視界にもグリム・リーパーがチラついた時、ヤツは動きを変えた。
グリム・リーパーは拳を腰に溜めるモーションを見せる。
手を広げるだけでも、この攻撃力なのに拳で放たれる風圧など防ぎ切れるのか……?
あと10メートル。
エイジさんは地面を殴って最後の土壁を出す。
「これを防ぎきれば!!」
グリム・リーパーの右ストレート。
その威力は大地を抉り、土壁を簡単に粉砕していく。
ここまでは鍛え上げられた筋肉だけで耐えてきたエイジさんだったが、この攻撃には咄嗟にクロスガードを選択した。
「ぐぅぅぅぅ!!」
両腕の骨が砕ける音がした。
そして、そのまま俺の方へ向かって吹き飛ばされてくる。
「すまない……少年……ワタシの鍛えが甘かったようだ……」
「いえ、ここまで来れば十分です」
グリム・リーパーとの距離は約10メートル。
僕はサイドステップで吹き飛ばされたエイジさんを回避して目標を視界に入れた。
するとグリム・リーパーはすぐに拳を腰に溜め、俺の方へ向かって突き出した。
「"影跳"」
刹那の超高速移動。
風圧を回避してグリム・リーパーの背後を取る。
凄まじいスピードのダッシュ&ストップ。
これによって起こる筋肉の異常な伸縮、さらに骨の軋みによって全身に激痛が走った。
それでも、この機を逃すわけにはいかない。
俺は逆手に持ったダガーを目の前の黒い魔獣へ向けて突いた。
狙いは背骨だ。
しかし……
カン!という甲高い音。
グリム・リーパーの攻殻がダガーを防いだ。
「刺されぇぇぇぇ!!」
俺は手のひらを勢いよくダガーの柄頭にぶつけると、その先端は攻殻を破って背中に突き刺さった。
「燃え尽きろ……『炎歪』!!」
グリム・リーパーの背中に歪な熱線が無数に走る。
どれだけ体が硬かろうと内側から焼かれれば、魔獣といえども耐えられまい。
案の定、グリム・リーパーの体内は熱を抑えられず膨れ上がっていく。
最後には爆散して灰になった。
「俺の……僕の勝ちだ……」
僕の『炎歪』の弱点は、必ず相手に近づからなければならないということだった。
これをどうやってクリアするか、ずっと考えていた。
そんな時、ファリスちゃんから複写したスキル『影跳』が全てを解決することになる。
これは"近くにいる対象の背後へと瞬時に移動する"というシンプルなスキルだった。
暗殺用スキルであるイヴの『炎歪』と高速移動スキルのファリスちゃんの『影跳』は相性がいい。
この2つのスキルを合わせることで、新たな技が生まれると考えたのだ。
もし名付けるなら『魔炎殺法・踏影』といったところかな。
結果的に、この技は成功と言っていいかもしれない。
「スキルを増やしていけば、もっと凄いことができるかも……」
イヴやファリスちゃん、また別の誰かの従属レベルを上げてスキルを獲得していけば必殺技の構築の幅が広がるだろう。
まだまだ成長の余地があることに期待感が膨らむ。
「いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないか……」
そういえば吹き飛ばされたエイジさんのことを忘れていた。
僕は周囲を見回す。
「なんだ……これ……」
なぜか吐く息が白い。
いや、それよりも遺跡を覆うようにして起こる竜巻。
その竜巻を起点として内側へと向かい、どんどん地面が凍っていく。
「な、何が起こってるんだ?」
グリム・リーパーは倒したはず。
まさか、まだ他の魔獣がいるとか?
僕は寒さに震えながらもエイジさんの姿を探す。
イヴのスキルである『耐寒』があっても、体へのダメージは増していった。
そして僕はついに耐えられずに倒れる。
「さ、寒い……凍える……」
朦朧とする意識。
僕に近くづく影がある。
倒れた僕を覗き込むようにして見る人物。
その姿はハッキリせず、テレビの"砂嵐"が全身を包んでいるようだった。
ザッ、ザザザーザザー
そんな音を鳴らして体が変化していく……。
よく見ると、この人物の体には首より上が無かった。




