"白"と"黒"の紋章
我ら"チーム・シックス"は意気揚々とギルドを出た。
外は早朝と変わらず霧が出ていて薄暗い。
天候も曇り空のようで、どんよりしている。
そんな中、先頭を行くのはマッスルボマー・エイジさん。
彼の鍛え上げられた筋肉が邪魔で僕は前が全く見えない。
その後方に世紀末モヒカン男のハム・エッグ。
さらにファリスちゃん、エリシアさん、イヴと続く。
今回の魔獣討伐任務はギルドで10パーティーほどが作られ、それぞれ縦横で距離をとって北東にある遺跡を目指す。
遺跡はハム・エッグと出会った森と近い場所にあるようだ。
各パーティーには、この地域に詳しいエヌス・ヤタのギルドの冒険者が案内役として1人加わる。
僕たちチーム・シックスの案内役はエリシアさんだった。
僕らも遺跡へ向かうため他のパーティーと一緒に町の入り口へ。
エリシアさんが最後に、
「みなさん、必ず勝って祝杯をあげましょう」
と笑顔で激励を飛ばす。
さすが、この町のギルド長であり勇者候補。
羨ましいほどのリーダーシップだ。
そんな彼女の振る舞いに、僕は自分の左手の甲にある勇者の刻印に視線を落としてため息をつく。
これが本物の勇者候補なのか……。
ちょっとだけ自分の不甲斐なさを恥つつ、僕は町を出た。
その際、ふと町の入り口に設置してあった看板に目がいく。
"老人は大事にしましょう"
僕は眉を顰める。
……そういえば、この町に来てから一度も老人を見ていない。
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今にも雨が降りそうな天候。
僕たちは町の北東にある森林地帯へと足を踏み入れた。
等間隔に他のパーティーも同じく森を進んでいるようだが、草木が生い茂っているせいで姿は見えない。
相変わらず先頭はエイジさん。
次にハム・エッグ。
その後ろにファリスちゃん。
そして僕とエリシアさん。
一番の後衛にイヴという隊列で進んでいた。
僕らは終始無言だったが、隣にいたエリシアさんが小声で話しかけてきた。
「もしかしてシオンさんは勇者候補ではありませんか?」
「え?」
「いえ、実は左手にある紋章が見えてしまったものですから……」
「え、ええ。実はそうなんです……みんな信じてくれないですけどね」
そう言いつつ僕は苦笑いした。
実際、ラーグ・グレイスで僕を勇者候補だと信じてくれた人は少数だ。
未だにファリスちゃんは僕を偽物だと思っている。
「どうしてですか?」
「僕のステータスが"ギルド最弱"だったもので……いや、今は違うかな」
「どういう意味です?」
「ギルドカードが書き変わったんですよ。人のステータスがわからないので強いのか弱いのかはわかりませんけど」
「そう……なんですね」
これ以上、踏み込めないと思ったのかエリシアさんは少しだけ口を閉じた。
すると、すぐに僕に右手首の内側を見せてくれた。
そこには"白い鹿"のような紋章が刻まれている。
「私も勇者候補なんですよ」
「ああ、僕も……」
僕も左手の甲にある紋章をエリシアさんに見せた。
「まさか竜とは……」
「竜って珍しいんですか?」
「【三神幻想級】の中の一体ですから、とても珍しいですよ」
「さ、さんしんげんそう……?」
「神話の中に登場する伝説の動物のことです。しかもシオンさんの場合、"黒"ですからね」
「そういえば"白"と"黒"の違いってなんだろ?」
確かゼイバーさんが言ってた。
魔王城に唯一、辿り着いた勇者候補は"白竜の紋章"だったらしい。
あとランジェリカさんの従者が、騎士団の大団長(名前は忘れた)が"白狼"だとかなんとか言ってた気がする。
「一般的に"白"は自己へ反映される強化スキル。"黒"は他者へ反映される攻撃スキルであるとされています」
「なるほど」
「ただ、ごく稀に勇者候補の中には"白"と"黒"、どちらの能力も兼ね備えている者もいるようです」
考えるにラーグ・グレイス出会った勇者候補のアリカさんの紋章は"黒い兎"。
能力は『圧縮』で対象を圧縮して潰してしまうというもの。
つまり他者へ反映させる攻撃スキルである。
一方、エリシアさんの紋章は"白い鹿"。
能力は『治癒』で自身を超高速治癒するというもの。
これは自己へと反映させる強化スキルということか。
まぁ、どちらにせよ勇者スキルという時点でチートであることには違いない。
「シオンさんのスキルが気になりますね。黒竜ということは、とても凄まじい能力だと思いますが……」
「いやぁ、どうなんですかね……」
「スキルを隠すのは賢いですよ。よろしければ、もう少し仲良くなったら是非、教えて下さいね。"白"と"黒''の交わりは、将来とても素晴らしい結果に繋がりますから」
エリシアさんはそう笑顔で言った。
"交わり"ってどういう意味だろ?
でも、悪い意味ではないとは思う。
僕がエリシアさんの言葉の意味を考えていると、ファリスちゃんが少しだけ振り向いて鋭い眼光をこちらに向けたのが気になった。
エリシアさんはそんな視線に構わず、僕の耳元に綺麗な小顔を近づけながら質問した。
「ちなみに"彼女"は従者なのですか?」
「彼女?」
「"イヴ"という女性です」
「えーと……まぁ、そんなところですかねぇ……」
「そうですか」
なぜかエリシアさんからは、それ以上の追求はなかった。
ちょうど僕とエリシアさんの会話が終わったところで、ずっと静寂に包まれていた森に変化が現れる。
先頭を進んでいたエイジさんが止まり、後衛のイヴにまで聞こえる声で言った。
「魔物だ。恐らくグリム・リーパーの支配下にあるやつらだろう」
周囲からも甲高い金属音が聞こえてくる。
恐らく戦闘が開始されたのだろう。
深い森の中、僕たちは知らず知らずのうちに魔物に取り囲まれていたのだ。




