想像するに、この町の勇者候補は"X"
ハム・エッグの朝は早かった。
僕とイヴが宿の外に出ると、薄らと漂う霧の中、もう茶髪のモヒカン男が立っていたのだ。
相変わらずの世紀末な服装で。
「ダンナ!おはようございます!」
「お、おはよう。早いね」
「そりゃもう、命の恩人をご案内するわけですから!」
そこを強調してくるね。
助けたのは僕でなくてイヴだというのに。
「では、この町のギルドに案内するでゲス!」
「ファリスちゃんは?」
「姉御ならもう向かってると思うでゲス」
「そうなの?」
「ええ、拙者が迎えに行った時にはもういませんでしたので」
ハム・エッグも早いが、ファリスちゃんはもっと早かったようだ。
いや、僕が遅いだけなのかな?
昨日はイヴへのお仕置きで夜更けまで起きてたから……。
僕はふと後ろに立つ全身鎧姿のイヴを見る。
漆黒のアーマーに赤いマント。
顔の全て覆う兜を身につける。
『どうかされましたか?シオン様』
「いや、なんでもないよ」
いつものイヴだ。
昨日はちょっとやりすぎたかな?
そう思ってたけど、さすが魔王軍の幹部だ。
仕事とプライベートをキッチリ分けて考えてる。
仕事は常にキッチリしていて冷静にこなす有能な女性。
プライベートはお尻を叩かれて喜び、おしっこを漏らす受け専門の女性。
この"私仕分離"ってなかなかできることではない。
僕との戯れによってプライベートの成長が目覚ましいが、それを仕事に一切持ち込まないところを見るとやっぱりデキる女性ってことなんだね。
「イヴさんって、ほんとにカッコいいよね。ストイックでさ」
『お褒め頂き、感謝の極みでございます』
そう言いつつ彼女は跪いて頭を下げる。
しかし、僕には見えていた。
イヴは赤いマントで上半身を隠すように膝を着いたが……
太ももから、なぞるようにして"女の子の部分"に向かって指先を運んでいた。
やっぱり僕と一緒ならそうでないとダメさ。
公私混同、非常に結構。
嬉しかったらどんどん表現していこう。
別に隠さなくたっていい、僕といる時は素直でいいんだよイヴ。
__________
ハム・エッグを先頭に僕らはギルドへと向かっていた。
街並みを見るに、やはり魔物に攻められたというのは事実なのだろう。
家屋には所々ヒビが入り、道の端には瓦礫がまとめられている。
これだけで、かなり大規模な侵攻だったのは伺えた。
そういえば転移の石碑も壊れてたしね。
そうなると、それを防いだという、この町の"勇者候補"という人物が気になる。
よほど強い勇者候補なのだろう。
「この町の勇者候補の能力ってどんなものなんだろうね?」
僕はイヴに話しかけたつもりだったが、反応したのは前を歩くハム・エッグだった。
「拙者、知ってるでゲスよ」
「え?」
「この町のギルド長の勇者スキルでゲスよね?」
「うん。普通は隠すって聞いたけど……」
「前回、魔物が攻めてきた時に"使った"のが噂で広まってるでゲス。……いや、"使った"というのは少々、語弊があるかもでゲス」
「どういうこと?」
「ギルド長の勇者スキルは『治癒』でゲス」
「『治癒』……というと自分の傷を癒すみたいな自己治癒能力ってこと?」
「そうでゲス。常時発動型のスキルで、しかも死に至らない程度の傷であれば目にも止まらぬ早さで治すらしいでゲスよ」
それってアメコミにいる黄色いユニフォームで三本爪が特徴的なキャラクターみたいな感じ?
あそこまでいくと確かにチートレベルな気がするけど。
「さらに、そこに光の魔法を駆使して戦うって聞いたでゲス。敵がアンデッド系が相手なら、まず負けないでゲスね」
「アンデッド系……」
これはイヴとは相性が悪いな。
いや、今回は別に戦うわけじゃないからそんなことを考える必要はないのか。
でも、どんな人なんだろ?
もう僕の想像上だと"筋骨隆々、もみあげから髭の流れが逞しいウェポン・ジャックマン"って感じ。
そこに超硬金属の三本爪を両拳から出せたら完璧だ。
正直、勇者候補には悪い思い出があるから会いたくはないけど、ハム・エッグの話を聞いていたら少し興味が湧いた。
そんな思考をしつつ、町を進み。
ようやく僕らはギルドに辿り着いたのだが……。
「ん?なんか人がいっぱいだね」
「なんでゲスかね?」
ギルドの前には冒険者たちが集まっていた。
みんな神妙な面持ちで会話しながらギルドの中へと入っていく。
「拙者たちも行きましょう。きっと姉御はもう中にいらっしゃると思うでゲス」
「そうだね」
なにやら不穏な空気の中、僕とイヴ、そしてハム・エッグはギルドへと入った。




