勇者の刻印
まずは僕が生まれ直した時の話をしたほうがいいかな。
僕が生まれたのはネヴィルス王国の北部にあるポリッセ村だった。
ここは王国の中でも地方のド田舎で魔物なども比較的に少なく、長閑な村だ。
僕はこの村のオルドとシエルという夫婦の家に生まれることになった。
もちろん赤ん坊の時から前世の記憶を引き継いで……。
赤子の僕は母シエルに抱きかかえられ、隣には涙目の父オルドの姿がある。
するとオルドは僕の手を見ると歓喜の声を上げた。
僕の左手の甲には躍動感のある黒い竜のような紋章が刻まれている。
「凄い!凄いぞシエル!この子、"勇者の刻印"がある!」
「まさか……私の子が勇者候補だなんて」
「ついに、この村からも勇者候補が出るんだ!」
「この子は必ず世界を平和に導く勇者になるわ!」
2人は顔を見合わせて泣きながら一緒に喜んでいた。
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その夜、村では盛大な宴がおこなわれることになる。
僕は祭壇の上の大きな椅子に座らされ、数少ない村人たちの視線を浴びた。
申し訳なさでいっぱいだ。
恐らく……というより、確実に期待には応えられない。
そんな僕の思いを無視するように、村人たちは"我が村から勇者が出た!"、"我が村の勇者が魔王を倒す!"と盛り上がっている。
(ああ、早く終わってくれ……)
罪悪感に耐えきれず僕は心中で呟いた。
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その後、僕は父と母の愛情を一身に受けて育てられた。
なぜか名前は前世と変わらず"シオン"と名付けられ、この世界を生きていくことになる。
そして勇者好きな父からは様々な知識を授けられた。
父のオルドは5歳になった僕に熱く語る。
「いいかぁシオン、魔物ってのは大きく分けて四つに分類される。一つは"魔王"、二つに"魔神"、三つに"魔獣"、そして四つ目が"魔物"だ」
「うん」
「"魔物"というのは下級モンスターで大体は魔素に侵食された動物とかがなるものだ」
「魔素?」
「魔素ってのは魔力が体外に放出された時に一瞬だけ出る霧状のもの。魔法を使う時に出るんだが、厄介なことにこれを吸い続けた動物が魔物に変わったりするんだ」
「それじゃあ、魔法を使わなきゃいいんじゃない?」
「シオンは頭がいいな。だが、それは無理な話さ。魔法が無いと魔物以上の存在に太刀打ちできないからな」
「そうなんだぁ」
「次に"魔獣"だが、これは魔物が人間を喰らい続けると成る存在なんだ。簡単に言うと魔物の上位だな」
「魔獣は強いの?」
「そりゃあ強いさ。下級の魔物を従わせて群れを作って戦うらしいからな。A級の冒険者が数人のパーティーを組んでようやく倒せるほどの強さって噂だ」
「なるほど」
「そして、"魔神"だな」
「魔神って強そうな名前だね」
「こいつらは強いってもんじゃない。魔神は魔王直属の幹部で何人もの勇者候補を倒してる。その姿は人間に似た見た目をしていて、なぜか人語を話せるらしい」
「こいつら……ってことは何体もいるの?」
「話によると"九体"いるって言われているな。そのうち確認できているのは"八体"だけだとか」
「へー」
「こいつらは凄まじい強さのスキルを複数持ってるみたいだ。逆に勇者候補が持てるスキルって"一つ"だけだから対応が難しい。だから魔神戦は勇者候補同士でパーティーを組まないと退けられないらしい」
「勇者候補ってスキルを一つしか持てないの?」
「そうみたいだな。ただ、そのかわりに勇者のスキルは特別な力を秘めてるって噂だ。魔神クラスが持つスキルに引けを取らない強さなんだろう」
これを聞いて突然、居た堪れなくなった。
僕のスキルはどう考えても、そのへんを歩いている一般人でも持つことができるようなもの。
魔神となんて戦えるわけがない。
「いやぁ、あと十年、シオンがスキルが発現するのが待ち遠しいな!」
「そ、そうだね……」
満面の笑みで僕の頭を撫でる父オルド。
僕は、ただ少しだけ口角を上げることしかできなかった。
父が僕のスキルを知った時、どう思うのか……。
十年もこんな気持ちで過ごさなければならないというのはある意味、拷問に等しい。
ごめんよ、この世界のお父さんとお母さん……僕はハズレスキル持ちの無能です。




