やつれ町のエヌス・ヤタ
僕たちは"ハム・エッグ"という名の冒険者と出会って無事にエヌス・ヤタの町に辿り着くことができた。
自然豊かな……といえば聞こえはいいが、町には木や草が生い茂り、地面や家屋にはツタが縦横無尽に這っている。
全体的に異様な霧が立ち込めていて日が沈む前のはずなんだけど薄暗くて、ちょっと不気味だ。
そして入り口にある立て看板には、
"老人は大事にしましょう"
と書かれている。
まぁ世間一般的に考えれば当たり前なことなんだけど。
そう思って、この時の僕はあまり気にしなかった。
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エヌス・ヤタの町は綺麗に円形状になっていて、中央には転移の石碑がある。
それなりに活気はあるが、妙に"女性比率"が多い気がする。
いや、男だから自然に女性に目がいっちゃって、こんなことを思うのかもしれないな。
僕がかぶりを振ると隣を歩くファリスちゃんが口を開く。
「どうしたのよ」
「い、いや、別に」
もしかして気づかれちゃったかな?
でもファリスちゃんにはそんな様子は見られない。
ちなみにイヴは周囲を警戒しながら僕らの後ろを歩いていて終始無言だ。
そして僕らはハム・エッグの案内で中央にある転移の石碑まで移動した。
「やっぱり壊れてるね」
「はい、少し前に魔物の襲撃があったみたいで……それで壊れたらしいでゲス」
ラーグ・グレイスの町で見た物が通常サイズだとすると、その半分くらいのところで斜めに砕けていて上部分が無くなっている。
イヴの話だと転移の石碑はアヴァロ魔鉱石で作られていて魔物除けの力があるとか。
それが砕けてるということは、やはり効果は無いのだろう。
だが、そうなると気になることもある。
「ここって魔物が攻めてきたりとかしないの?」
「大丈夫みたいでゲスよ。なんでも、この町を管理しているギルドの長が"勇者候補"なんだとか。そのギルド長はなかなかの実力者のようでして、前回も魔物を撃退したと聞いたでゲス」
「え、この町に勇者候補がいるの……?」
「ダンナ、なんか嫌そうな顔してますけど、何かあったんですかい?」
そりゃそうでしょ、僕は"勇者候補"と"勇者候補の偽物"のどちらからも殺されかけてるんだ。
いいイメージなんてあるわけがない。
……と言っても、僕も勇者候補なんだけどさ。
僕が返答に詰まると、すかさず発言したのはファリスちゃんだった。
「そのギルド長の勇者の刻印ってさ、白いサソリじゃないわよね?」
"白いサソリ"?
なんのことだろう?
「違うでゲスよ」
「そう。ならいいや」
質問の意図がわからないが、もしかしてファリスちゃんがこの町に来た理由って【白いサソリの紋章の勇者候補】なのかな。
「今日はもう日が落ちるでゲス。明日、ギルドに案内するでゲス」
「うん。じゃあ宿を探さないとね」
「拙者、何件か知ってるので案内するでゲスよ」
「何から何まで……」
「いいんでゲス。命の恩人ですから!」
ハム・エッグは満面の笑みだ。
助けたのは僕じゃなくてイヴだけど。
「姉御も町に滞在されるでゲスか?」
「う、うん。そうね、ここのギルドで少し仕事しようかな。お金も必要だし……」
ファリスちゃんは少し歯切れの悪い返答をする。
そして僕の方をチラチラ見ながら言った。
「あ、あんた、もしかして、その従者と一緒に泊まるの?」
「うん。そうだけど」
「そ、そう……」
この時、なにやらファリスちゃんは残念そうな顔をていた。
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結局、僕とファリスちゃんは転移の石碑の前で別れた。
彼女は日が暮れるまでは町を見て回るとのことだ。
僕はイヴと共にハム・エッグの案内で宿を何件か回る。
別に狭い部屋でもよかったが、ハム・エッグが気を利かせて2人部屋を探してくれた。
「ではダンナ、ごゆっくり。明日の朝、拙者、ここまで向かいにくるでゲスよ」
「え、いいの?」
「そりゃもう、命の恩人ですから!」
「う、うん……」
なんと優秀な男、ハム・エッグ。
こいつは一体何者なのか……。
行動を見ていると"ステータスが最弱"という言葉が信じられない。
もしかしてスキルが強いとかじゃないよな?
いや、だったらグレイト・グリズリーとの戦いで腰を抜かさないか。
でも周りがよく見えていて、判断力に優れていることは確かだ。
見た目は世紀末、名前はハム・エッグだが侮れんな。
僕はハムと別れて宿へと入る。
店主である、やつれ顔の若い女性にお金を渡すと階段を登って部屋に向かった。
……さて、ここから夜更けまで"イヴへのお仕置き"が幕を開けるのだ。




