激闘の怪獣!
僕とファリスちゃんは悲鳴が聞こえた方向へと走る。
太陽の光で明るく照らされた開けた場所。
数十メートル先には"巨大な黒い熊"のような魔物。
その前には男性が腰を抜かして座り込んでいた。
「あれは……"グレイト・グリズリー"!?」
「で、デカい……」
先ほどの黒猿の魔物とは全く違う。
人間の大人の倍以上ある身長。
その魔物は明らかに"特別なオーラ"を放っている。
「あんなの相手にできるわけない……」
「え?」
「あれは"魔獣"よ!」
魔物を瞬殺できるほどの実力者であるファリスちゃんですらも息を呑む存在。
"魔獣"とは……確か父さんから聞いた話しだと「A級の冒険者が数人でパーティーを組んでようやく倒せる強さ」だとか。
ここには僕とファリスちゃんしかいないし、魔獣の目の前で腰を抜かしている男性は冒険者みたいだけど、今にもやられそうな雰囲気だ。
「わたし達にはどうにもならない……かわいそうだけど彼を囮にして逃げるしかない」
「それじゃ、あの人を見殺しにするってこと!?」
「でなきゃ、わたし達が殺されるのよ!」
本当にどうにもならないのか……?
一か八かやってみるか……?
昨晩、考えたばかりのアレを……。
上手くいく保証はないけど、彼を見殺しになんてしたら寝れなくなりそうだ。
「やってみるか……」
僕が前に出た瞬間、
ズドン!!
空から飛来したものが轟音を響かせて地面にクレーターを作る。
『シオン様、ご無事でしたか』
舞い上がる土埃の中から姿を現したのはカッコよくスーパーヒーロー着地を決めた、漆黒の鎧を身に纏う"イヴ・ガルハート"だった。
姿形からしてヒーローにも見えなくもないが、実は魔王軍の女幹部である。
そして、この派手な登場にさすがのファリスちゃんも声を荒げる。
「あ、あれ、あんたの仲間じゃない!?」
「うん」
「どこから来たの!?」
「空から……だね」
「なんで、あんたはそんなに冷静なのよ!!」
いや、だって僕も飛んだことがあるからさ。
なんて説明する暇もなく、今ので魔獣グレイト・グリズリーの標的は完全に切り替わった。
グレイト・グリズリーは四足歩行でイヴがいる方向へと疾走する。
その際、腰を抜かしていた冒険者はなんとか横へ回避行動をとって逃げていた。
残るは漆黒の鎧、赤いマントのイヴ・ガルハートのみだ。
『魔獣程度が……我の前に立ったこと後悔するがいい』
イヴの体から赤黒いオーラが放たれる。
そして魔獣との距離が数メートルと迫った瞬間、イヴは呟くように言った。
『死兵・重戦士』
すると、ちょうどイヴとグレイト・グリズリーの間の地面が割れる。
そこから這い出してきたのは、これまた巨大な体の重兵。
灰色の鎧と手には斧、そして大楯。
兜の中の顔はどう見ても"骸骨"だった。
イヴが召喚したのは"アンデッドの巨兵"。
しかも、その大きさはグレイト・グリズリーと同等。
アンデッドの巨兵は四足歩行で走るグレイト・グリズリーの顎に大楯を当てて仰け反らせる。
そしてバンザイする形で後退したグレイト・グリズリーの頭へ、縦一線の斧による斬撃を入れた。
だが、グレイト・グリズリーも黙ってはいない。
剛腕を振ってアンデッドの巨兵の大楯を弾くと、その巨大で体当たりする。
よろけるアンデッドの巨兵の顔に向け、鋭い爪で攻撃した。
手に汗握る魔獣……いや、怪獣(?)同士の激闘に僕は胸が熱くなった。
"怪獣(?)"対"怪獣(?)"なんて特撮ファンにとっては、たまらない戦いだ。
一方、隣で見ているファリスちゃんは唖然とした様子で顔は引き攣り、口が半開き。
アンデッドの巨兵とグレイト・グリズリーの攻防は続くが、やはり疲れを知らないアンデッドの方が優勢ようだった。
グレイト・グリズリーの体は切り刻まれて虫の息。
かといってアンデッドの巨兵もダメージを受けていないわけではない。
"頭"と"大楯を持った腕"が吹き飛んで失った状態だ。
『そろそろ終わらせる』
イヴが言った。
……さらに続けて、
『再生』
そう呟くとアンデッドの巨兵の体が瞬く間に再生していく。
否、言うなれば映像を逆再生しているような感じで元通りになった。
いやいや、チートすぎるでしょ。
アンデッドの巨兵が単調な動作しかできないのは見ててわかったけど、それでも"再生"はやりすぎだと思う。
魔神って強力なスキル持ちすぎじゃないかな?
確かに、魔神相手だと勇者候補同士がパーティーを組んで戦わないと勝てないというのは納得だ。
僕の思考を置き去りにするように、アンデッドの巨兵はトドメと言わんばかりにグレイト・グリズリーに対して猛攻を仕掛ける。
最後はグレイト・グリズリーも力尽きて、ゆっくりと体が灰になっていった。
同時に役目を終えたアンデッドの巨兵も、その体が崩れて土へ還る。
『雑魚が……』
イヴが捨て台詞を吐いたところで、怪獣(?)同士の激闘が幕を閉じた。




