ファリスの魔風殺法
目が覚めると洞窟内には光が差し込んでいた。
僕は疲れて寝てしまっていたようだ。
体には僕が羽織っていたマントがかけられてある。
「ようやく目が覚めた?」
女の子の声。
目を擦りながら上半身を起こすと、すでにファリスちゃんがノースリーブの着物の帯を締めているところだった。
短い黒髪を結い直し、丁寧にかんざしをつける。
最後に後ろ腰の帯に短刀を差した。
「一応、お礼は言っとくわ」
昨日とは違い、ツンツンしたファリスちゃん。
"従属状態''ではあるはずなんだけど、なぜか素直になったりツンケンしたりと忙しい子だ。
「ファリスちゃんが無事なら僕はそれでいいんだ」
「う、うん……」
少し顔を赤らめた気がした。
そんな自分に恥ずかしさを感じたのか、さっと顔を背ける。
でも彼女の"願望"って一体なんなんだろう?
自分の事を見て欲しい……けど、それとは逆に他者を遠ざけるような仕草も目立つ。
素直になりたいけど、妙に大人ぶりたいところもある。
意思的にどちらも強いから、反発しあって従属状態が不安定なのかもしれない。
多分、この性格がファリスちゃんが冒険者になったことに関係しているのではないかと僕は推察した。
「とにかく、ここから出てエヌス・ヤタに向かいましょ。あんたは仲間とも逸れてるんだから、早く合流しないと」
「そうだね。イヴさん、絶対に心配してると思う」
「イヴ……さん?」
「あ……」
もしかして、それぞれの魔神の名前って有名だったりするのかな?
父さんの話だと全部で"九体"いるらしいけど。
イヴはそのうちの1人だ。
ファリスちゃんが知ってたら非常にマズイ。
「あ、いやぁ……彼女は……」
「あれって女の人だったの……?」
「え?」
「ど、ど、ど、どいうい関係なのよ、そのイヴって女と!」
「いや、別に普通の仲間……だけど」
「そ、そうなの、ふーん」
明らかに動揺が見て取れる。
女の人と旅をしているって何かマズイことでもあるのかな?
そもそもイヴって"仲間"というより、"従者"って感じだ。
「ま、まぁ、いいわ。早く移動しましょ!」
「うん」
妙な空気のまま、僕とファリスちゃんは洞窟を出た。
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僕たちは川を目指して歩いていた。
その川に沿って歩けば、いずれは近くの村や町に辿り着くだろう。
先行するのはファリスちゃんだ。
鬱蒼とした森林地帯を黙々と進む。
道なんてものは無いし、周りは霧が出ていて視界が悪い。
だけど彼女はこういう環境に慣れているのか、全く物怖じせずスムーズに前進していた。
僕は後を追うのが精一杯だ。
……しかし、ずっと止まらなかったファリスちゃんが足をとめた。
「魔物がいる」
「え……」
周囲を見渡す。
木々の間にいくつか影が確認できた。
僕には"黒い猿"のように見える。
大きさは人間の子供くらいだが、牙があり、手が異様に長くて禍々《まがまが》しい形だ。
「三体……なんとかなるか」
言ってファリスちゃんは後ろ腰に差した短刀へと手を伸ばす。
グリップを握りしめて臨戦体勢。
"黒猿の魔物"は僕らを取り囲むようにして等間隔にしているが、なぜか全員がファリスちゃんを狙っているように感じられた。
そして、"ギィー"という高い雄叫びを上げて順番にファリスちゃんへと襲いかかる。
一匹目。
ファリスちゃんは凄まじいスピードで短刀を逆手で鞘から引き抜くと黒猿の魔物へと無数の斬撃を浴びせた。
「アラキ流・魔風殺法……"残空閃"!!」
時間差で斬ったぶんと同じ回数の"風の斬撃"が発生。
その勢いで吹き飛んだ黒猿の魔物は大木に当たって一瞬にして灰になる。
二匹目。
ファリスちゃんの背後狙い。
彼女はすぐに振り向いて飛びかかった黒猿の魔物の懐へと踏み込み、胸へ短刀を突き刺す。
「"突風陣"」
そう呟いて短刀の柄頭を掌で打つ。
すると目の前で轟音を響かせて爆風が巻き起こり、黒猿の魔物はその場で灰になった。
三匹目。
やはり背後とって攻撃しようとするがファリスちゃんは落ち着いて腹へ向けて回し蹴りを放ち、黒猿の魔物を吹き飛ばす。
「秘技・"破魔風爪"」
吹き飛んだ黒猿の魔物へ向けて短刀を振る。
"風の斬撃"が手裏剣のように高速回転して空を切った。
風の手裏剣は黒猿の魔物へと向かってホーミングし、直撃すると胴を真っ二つにした。
僕はその流れるような戦闘に息を呑みつつ、感動して、
「すごい!かっこいい!」
そんな声が漏れていた。
ファリスちゃんは顔を赤らめながら、僕の方へと歩いてくる。
「こ、この程度の魔物、どうってことないわよ」
「それにしても凄い!もしかして"魔法"を使ってるの?」
「そうよ。わたしは"剣術"と"風の魔法"を合わせた混合武術を使うから……だけど……」
「どうしたの?」
「なんか、いつもより体が軽いし、魔法の威力も上がってるような……気のせいかな?」
ファリスちゃんは少し首を傾げる。
まぁ、今日はすごく調子がよかったんじゃないかな。
「だけど、いいなぁ。僕は魔法が使えないからさ」
「は?魔法が使えない人間なんていないでしょ。現にあんた、火を起こしてたじゃない」
「あ、確かに……」
もしかして『炎歪』って魔法?
というのとは知らず知らずのうちに僕は魔法を使えるようになっていたのかな。
そんな思考していると、
「うあああああ!!」
と森の奥の方から悲鳴のような声が聞こえてきた。
僕とファリスちゃんは顔を見合わせる。
そして、すぐに悲鳴が聞こえた方へと向かった。




