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熱風!疾走!命懸けのヒルファイト


ギャアアアア!


そんな音が鳴り響きそうな勢いで荷馬車は加速を繰り返して見通しのいい街道を疾走している。


時は夕刻にせまろとする頃。

2台の荷馬車は縦に並び、土埃を巻き上げながら荷台を揺らす。


僕の脳内にはテンポのいいユーロビート調の曲が流れていた。


僕とイヴが乗るのはジェイル操るNMW735。

そのちょうど目の前を走るのがファリスちゃんが乗るN86。

手綱を握るのはもちろんタクミウスだ。


整備されていない道を走るため、荷台に乗る僕らは立ってられないし、座ってもられない。

イヴが僕の肩と荷台の端を掴み、踏ん張っているため、なんとか乗っていられるという状態だ。


『シオン様、しっかり私に掴まっていて下さい』


「う、うん……」


「しゃべるな!舌を噛むぞ!」


ジェイルの怒号が飛ぶ。

まぁ、遠回しに「気が散るから喋るな」ってことだ。


こちらが後追いのかたちだが、そうなると一体どうやってN86を追い抜くのかが問題だ。

街道の幅は荷馬車がちょうど2台並べるほどで、隣は対向する人や荷馬車が通る道。


人通りは全くないと言っていいため、どこで勝負をかけても問題はなさそうだ。


しかし……


「ちくしょう!直線なら俺の方が速いってのに!」


確かにジェイルが言うように、こちらの荷馬車の方が直線は速い。

しかし、なぜか追い抜こうとする時にカーブに差し掛かり、一気に距離を離されてしまうのだ。


やはり、どこの世界でも"86"って名がついたらカーブは強い。


ジェイルの言葉が聞こえたのかはわからないが、タクミウスが少し振り返ってニヤリと笑った気がした。


「野郎、ぶっ殺してやる!」 


()()()()()()()の声で、このセリフは危険すぎるでしょ。


本当にそうするかどうかはさておき、レース(?)も中盤に差し掛かろうとしていた。


だんだん平野から地面が濃く色を変え、森林地帯へと入る。

目の前には山が見えて登り坂へ。

緩やかなで長いカーブで山肌をターンするように上がる。


片側は崖になっていて、崖下には流れの早そうな川が見えた。


まず間違いなく最後は"下り"になる。

そうなれば豆腐屋・タクミウスのN86は僕らの前から姿を消すだろう。


追い抜くなら今しかない。


「ここで勝負をかけるぜ!!」


ジェイルが叫ぶ。

いや、それを言ったらタクミウスに対策されちゃうでしょ。

この男、僕と同じで"脳"と"口"が直結しているタイプなのか。


案の定、後方を警戒し始めるタクミウス。


馬の手綱を上手に操り行く手を阻む。

先行された時点で、このレース(?)の勝敗は決まっていたのかもしれない。


「こんなところで負けられるかぁー!!」


だがジェイルは諦めてはいなかった。

こちらも馬の手綱を操り、外側へと荷馬車を動かす。


それを見たタクミウスはやはり行く手を阻もうと、NMW735の前の方へと荷馬車を寄せた。


その瞬間、強いカーブに突入する。


「マズイ!!」


タクミウスが気づいた時には遅かった。


カーブによってN86の車体が外側へと膨らむ。

ジェイルはこれを見逃さず、一気に内側へと入る。


「よし!これで俺の勝ちだ!」


そう、ジェイルが「勝負をかけるぜ」と叫んだ狙いはここにあった。

後方を警戒させることで相手の隙を作って追い抜くための作戦だったのだ。


だんだんNMW735がN86と横並びになる。

ジェイルとタクミウス、お互いの鋭い視線が重なった。


道は荷馬車がギリギリ2台並べるほどの幅、横には崖があるという緊迫した状況。

2台の荷馬車マシンと2人の走り屋が命懸けのヒルファイトを繰り広げる。


これが街道ナンバーワンを決める熱い戦いだ。



僕はその一部始終を見ていて胸が熱くなり始めた頃……事件は起こる。



ドン!



突然、N86の荷台が跳ねた。


浮き上がるファリスちゃん。

唖然とした表情の彼女は荷台から投げ出されて崖下へと落ちていった。


「ファリスちゃん!」


さらにN86の荷台が揺れて僕らの乗るNMW735の荷台に接触する。

勢いで僕はイヴの手を離れ、N86の荷台へと転がった。


『シオン様!!』


イヴが叫んだ瞬間、N86はまた岩が何かを踏んだのか荷台が跳ねる。

そして僕もファリスちゃん同様に崖下へと転落した。


そのまま川へと落ちた僕は、冷たい水に揉まれながら長い距離を流されることになった。

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