世界の中心で必殺技を叫びたい
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拝啓
春の花香る穏やかな風が頬を撫でる季節となりました。
お父さん、お母さん。
お元気にお過ごしでしょうか?
僕はとっても元気です。
しかしながら、実は未だにスキルが発現していない状態です。
でも心配しないで下さい。
ラーグ・グレイスの町で素晴らしい仲間と出会ったことで順調に旅を続けることができています。
今はその素晴らしい仲間に戦術を指南をしてもらっており、わずかながら成長を実感できております。
現在は東部にある小さい村に滞在しております。
次の目的地は旅の途中で噂に聞いた、『老人に優しい町』という"エヌス・ヤタ"へと向かいます。
お父さんもお母さんも健康に気をつけて下さい。
また手紙を送ります。
敬具
二人の息子のシオンより
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早朝
僕はイヴと2人きりで人里離れた森林にいた。
ここは滞在中の村からは離れていて、全く人の気配がない。
なぜこんな場所にいるかというと……
「よろしくお願いします!」
「はい。私でよろしければ」
そう、修行以外のなにものでもない。
イヴは漆黒の鎧を身に着けているが兜は被っていなかった。
僕の前で跪いている彼女は今日も長い赤髪とキリッとした顔立ちが美しい。
ほかの人に見られてはいけないのは魔族を象徴する"黒い角"だが、どうせこんなところに人は来ないだろうし大丈夫だろう。
ちなみに甲殻の尻尾に関しては一応、鎧の一部だという無理やりなこじつけで押し通そうと思っている。
「私のスキル、『炎歪』についてでしたね」
「うん。使い方を知りたくて。教えてもらえると助かるんだけど」
「かしこまりました」
イヴは軽く頭を下げた後、立ち上がると続けた。
「『炎歪』は我がガルハート家に代々伝わるSクラススキルになります。このスキルの特徴としましては遠距離、近距離、どちらも対応できるというところでしょう」
「どちらも?」
「はい。まずは遠距離ですが……」
言いつつイヴは片膝を着いて、地面に手のひらを当てる。
「『炎歪』」
イヴの言葉に反応するように、手のひらを合わせた地面に数本の歪な熱線が走る。
亀裂のように見える熱線は猛スピードで正面へと向かい、一本の樹木に到達した。
すると熱線は樹木に蔦が絡むように覆うと内側から黒い煙が上がり始めた。
「これが遠距離での使い方になります。熱線が到達して敵に絡まると、そのまま"内部"を燃やし尽くして破壊します」
「内部破壊か……かの有名な一子相伝の中国拳法みたいだ」
「近距離も同様です。触れたものへ熱線が絡んで内部を燃やすのは変わらないです。しかし弱点もございます」
「弱点?」
「はい。このスキルは繋がっているものへと向かいます。遠距離だと相手に飛ばれると熱線が途切れるので効果はありません。あと室内の場合、必ず効果はその中で完結してしまいます」
この前、イヴがギルド内でスキルを使った時のことを思い出した。
床を伝って、壁から天井へと熱線が伸びてた。
つまり室内で使った場合、熱線は外へと出ない。
「なるほど。確実に当てたければ相手に触れていればいいってことだね」
「左様でございます」
「ちょっとやってみようかな」
僕はその場に片膝をつき、地面に手のひらを当てるとイヴがやった通りにスキルを使ってみた。
「『炎歪』」
熱線が伸びた。
……10センチくらい。
そして地面から少しだけ煙が上がる。
「え……?」
「さ、最初はそんなものだと思いますよ」
すかさずイヴがフォローを入れてくれる。
「もしかすれば腰のダガーをお使いになった方がよいかもしれません」
「これを使うの?」
「はい。ダガーを地面に突き刺してスキルを発動すると上手くいくのではないでしょうか?」
それは……とってもかっこいい気がする。
僕は腰のダガーを抜いて逆手に持つ。
そして思いっきり地面に突き刺してスキルを発動してみた。
「『炎歪』!」
熱線が伸びた。
……15センチくらい。
そして地面から少しだけ煙が上がる。
「……もしかして、僕って才能が無い?」
「そ、そんなことはございません。このスキルは扱いが難しいですから要鍛錬です、シオン様」
「そうだね……」
「シオン様なら必ずできます」
「イヴさん、ありがとう」
僕は苦笑いしながら涙目で言った。
最強クラスのステータスと最強クラスのスキルを手に入れたが、それを使いこなす才能が無ければ宝の持ち腐れ。
よくあるチート能力を使いこなす主人公が無双するラノベやアニメをいっぱい見てきたけど実際はそんなに上手くいくものじゃない。
やっぱり日々精進の先に成功があるのだ。
それはいいとして、どうしても一つだけ僕にはやりたい事があった。
「ちなみになんだけど……」
「なんでしょうか?」
「このスキルでさ、『技名を叫んで、ズバッと斬り抜いて、背後でドカン!』ってできるかなと思って」
「えーと……『ワザメイを叫んで、ズバッと斬り抜いて、背後でドカン!』……でございますか?」
イヴは確認するように繰り返すようにして聞いた。
その表情は明らかに困惑している。
「お言葉を返すようで恐縮なのですが、この『炎歪』は暗殺用のスキルでして……叫んで、斬り抜いて、ドカンとなると他の敵に気づかれてしまいます」
「な、なるほど」
言われてみると確かにアリカ戦での使用時も、さっきイヴが実演して見せた時も全く音がしなかった。
ただ相手の体内を無音で焼き尽くすという隠密スキルなのは間違いない。
「申し訳ございません……ご期待に添えるようなスキルでなくて」
イヴはめっちゃ悲しそうな顔をしている。
すごく可愛いが、さすがにこれは可哀想だ。
「いやいや、イヴさんが謝ることじゃないよ!暗殺スキルというのもカッコいいし!」
「は、はい……」
「やっぱり僕の目指すところは、"くの一"だ!」
暗殺といえばこれだよ。
……あ、そういえば長く"ファリスちゃん"に会ってない気がする。
彼女、元気にしてるかな?
僕はファリスちゃんとの戯れを思い出しながら、森林でのスキル練習に汗を流した。




