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フレイム・ディストーション

受付カウンター前にいるスーツジャケットの金髪女性、アリカさんは両手を広げていた。

対する漆黒の鎧を纏うイヴがドス黒いオーラを放ちながら、ゆっくりと進む。


一方、僕はギルド入り口付近で戦いの行方を固唾を飲んで見守る。


見たところアリカさんのスキルは"物体の圧縮"だ。

両手を叩くと発動し、どんなものでも圧縮してしまうというチートスキル。

恐らく魔神クラスといえども、その効果は受けるだろう。


それでもイヴは歩みをやめない。

黒鉄のヒール音をギルド内に響かせ、数メートル先にいるアリカさんへと向かう。


僕の武力は皆無に等しい。

ここはイヴに任せなければならないが、アリカさんのスキルをどうやって攻略するのか……。


アリカさんの眼光はイヴを完全に標的として捉えていた。


「さっきの私のスキルを見て恐れず近づいてくるなんて……あなたも頭がおかしいですね」


『その程度の勇者スキルでいい気になるなよ。私は数十もの勇者候補を葬ってきたのだ。貴様のスキルは、その中でもだ』


戯言ざれごとを」


『なら試してみるといい』


え、そんな挑発しちゃっていいの?

アリカさんに手を叩かれたら一瞬でゴルフボールになっちゃうのに……。


僕の心配をよそにアリカさんは勢いよく両手を合わせようとした。


しかし、その瞬間、イヴは左のてのひらをアリカさんの方へと向ける。

イヴの左手が"紫色"に発光すると、なぜかアリカさんの動きが止まった。


『"死霊デッド・スピリット"』


よく見るとアリカさんの後ろに白い影がある。

それは男性の霊(?)

霊はアリカさんを羽交締めにして、彼女の攻撃を封じていた。


「な、なんだこれは……!?」


『貴様がさっき殺した男の霊体だ。これは死霊の怨念によって力が増す』


ということはゼイバーさんの霊体だ。

アリカさんの顔が引き攣る。

手を合わせたいが、霊体の力が強すぎるのか全く動かない。

さらに押し引きの強さによってか彼女の肩から骨が軋む音が聞こえた。


『このまま骨を砕いて終わりだ』


「ぐぅ……」


ここまでかと思われた。

しかし、アリカさんは中指と親指を擦り合わせてパチンと指を鳴らす。

するとイヴの紫色に発光した腕が鎧のアームガードごと潰れた。


『ほう。なかなかやるじゃないか』


見ている方が痛々しく感じる光景ではあったが、イヴは全く動じていなかった。

だが、今の攻撃によってアリカさんの背後にいた霊体は消える。


「『圧縮コンプレッション』」


パン!!


アリカさんはすぐに両手を合わせて音を鳴らす。


しかしイヴは超反応で膝を床について体勢を低くしていた。

"圧縮"されたのはイヴが被っていた漆黒の兜だけ。

潰れた兜はすぐに炎と化して消えた。


「標的が確定するとそこから圧縮し始めるのだろ?一度でも見れば回避できる単純でつまらない攻撃だ」


露わになったイヴの長い赤髪と2本の黒い角。

イヴの顔を見たアリカさんの表情は驚愕といった様子だった。


「ありえない……魔神を使役したというの!?」


イヴは膝を曲げた状態から赤いマントを靡かせて一気に前へと踏み出す。


アリカさんはもう一度、両手を合わせようとする。

だがイヴの突進の方が速かった。

手を合わせる瞬間、アリカさんはイヴに両手首を掴まれたのだ。


「今度は私の炎を見せてやろう」


「!?」


「"炎歪フレイム・ディストーション"」


室内は凄まじい温度上昇によって視界が赤く染まる。

一瞬のうちにイヴの黒鉄のつま先から床、壁、天井に至るまでギルド全体に無数の"赤い歪な熱線"が入った。


「があ、あ、あ、あ………」


さらにイヴが掴んでいるアリカさんの腕から全身へと向かって"赤い歪な熱線"が亀裂のように伝うと、眼球と口から血を滴らせた。


「今ので体内にある臓器は燃やし尽くした。貴様の負けだ」


そう言ってイヴが手を離す。

するとアリカさんは目を見開きながら糸の切れた人形のように倒れる。

すでに彼女は絶命していた。


今度はイヴが指を鳴らすと、アリカさんの体を真っ赤な炎が包み込む。


「我が"高貴なる炎"で焼かれることを光栄に思うがいい」


僕は魔物の最上位である魔神の力を目の当たりにした。

いとも簡単にチートスキル持ちの勇者候補を倒してしまったのだ。


アリカさんとの別れは悲しいが、それ以上に僕は魔王軍の女幹部である"イヴ・ガルハート"という存在に惹かれていた。



その瞬間、僕の左手の甲に激痛が走る。

"黒竜の紋章"から血が滲む。

今までに感じたことのない痛みに寒気がした。


【従属レベルが上がりました】


それは今までとは違う内容だ。

さらに声は続く。


【新たなスキルを獲得しました】


"新たなスキル"?

確か勇者候補のスキルは一つだけのはず……。

僕は手の痛みに耐えながらギルドカードを取り出して見た。


「な、なんだこれ……」


僕はギルドカードに書かれた全ての内容を確認して驚く。


_______________


名前 シオン


レベル1(MAX)


武力・・・・50500(MAX)

魔力・・・71100(MAX)

防御力・・・23800(MAX)

魔防・・・38900(MAX)

知力・・・・56300(MAX)

スピード・・・・43200(MAX)


________________


スキル 『従属』・・・ランクF

効果・・・・対象を一定時間、完全従属状態にする(効果時間中、対象はスキル使用者から離れない)


効果解放レベル(最大1%#0>.,°)

レベル1・・・・【従属対象への絶対命令権を得る】

レベル2・・・・【従属中、対象を願望欲情状態にする】

レベル3・・・・【対象の願望欲を満たすことで対象に従属レベルを付与する】

レベル4・・・・【対象の従属レベルが上がるようになり、レベルが上がる度に様々な効果を得る】

レベル5・・・・???


____________________


【従属レベル】

ミナ・・・(レベル1)

アリカ・・・(死亡により計測不可能)

ファリス・・・(レベル1)

ランジェリカ・・・(レベル1)

イヴ・ガルハート・・・(レベル2)


______________________


【獲得スキル】

・『炎歪フレイム・ディストーション


_____________________



もはや意味がわからない。

一体、僕のスキルって何なんだ!?

ステータスの表記も変わってるし、明らかに数値もバグってる。


なんでこんなステータスになったのか、さっぱりだ。


しかも魔力が71100って……従属時間になおすと71100分。

ということは"分"どころか"数十日"単位になる(だいたい50日くらい)


あとは"従属レベル"。

これって、もしかして上がると従属させた人のスキルを獲得できるってことかな?


早速、イヴがさっき使った技を覚えたんだ。

まだまだ上がりそうな予感がする。


これにはもう唖然とするしかない。

この先、伸びしろは無いと思われた僕の成長だった。

ところがどっこい、こっちの世界の父と母が信じてくれたように、まさかの最強の大器晩成型であったのだ。


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