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転生の儀式

僕の名前は槇田紫苑まきたしおん

高校二年生。


趣味は特撮、アニメ鑑賞。

ヒーローものやロボット作品が大好きで、よく同級生の友達と熱く語っていた。



昼休み、いつも通り友達のケイスケは僕の机の前の席に座る。

昼食をとりながらの趣味バナは僕の学校生活において一番の楽しみだった。


「やっぱり必殺技は声を大にして叫びたいよね」


「それがロボットアニメの醍醐味ですからね!」


これは現在、放送中の特撮やアニメで新たな必殺技が登場した時に決まって毎回する会話である。


「今週の"ライゼスター"は手に汗握ったなぁ」


"重装機神ライゼスター"は今、僕たちがハマっているロボットアニメだ。


「そうですね!特に今週はラスボス戦とあって凄かったです!」


「まさか最後に主人公が今まで登場した"五人のヒロイン"の技を合体させてラスボスを倒すなんて……かっこよすぎだよ!」


「ヒロイン全員が中途半端な能力しかないっていうのは伏線だったわけです!」


「そうなんだよね!特にヒロインの……」


言いかけて思い出す。

そう、僕の好きだったヒロインは……


「そういえば紫苑さんが好きなヒロインは敵の女幹部でしたよね」


この作品で僕が好きなヒロインは序盤に仲間になるのだが、なんと敵組織の幹部。

この事実を主人公や他のヒロインたちは全く知らずに物語は進む。

敵組織の女幹部であるヒロインは敵でありながらも主人公の優しさに触れて、次第に好きになっていく。

だが物語終盤で愛よりも組織への忠誠を選び、主人公と戦って倒されるという悲劇のヒロインなのだ。


「昔の特撮でよくあった設定ですけどね。でも、まさか彼女が裏切るなんて……やっぱり最後は幸せになってほしかったです」


「そう……なんだよね……」


僕が他のヒロインに見向きもしなかったのは、彼女の悲壮感ある設定によるものなのだろう。

つまり彼女が不幸にならなければ僕は好きになってないってことなのか?


「なんだかんだ言って、もう来週は最終回ですから見逃せませんね!」


「そうだね。この作品の最終回を見ないでは死ねないよ」


僕は精一杯の作り笑いをする。

心の中のモヤモヤは晴れることはない。


そんな会話をしていると、数人の男女グループが僕たちの席を通り過ぎていく。


彼らは僕たちを一瞥すると一言だけ、


「マジキモいやつら」


……そう言って嘲笑した。


僕とケイスケはうつむき、昼休み時間を残しつつも2人の会話はこれで終わった。


たった一言だけで人格が表現される存在。

それが、この世界での僕の()()()()だった。


________________



帰りはいつも通り。

ケイスケは塾があって帰りは別方向だ。

僕はただ1人、買い物客で賑わうアーケード街を歩く。


今日は妙に心が重い。


やはり彼らに言われたことが響いているのだろう。


ため息が漏れる。

その時、偶然にゲームセンターの店外に置かれたUFOキャッチャーに目がいった。


「あ……」


そこには来週、最終回を迎えるアニメ、"重装機神ライゼスター"のキャラクターグッズが並べられていた。

その中には僕の好きな女幹部ヒロインのぬいぐるみが一つだけ残っている。


僕は吸い込まれるようにUFOキャッチャーの前に立った。


ゴクリと息を呑み、制服のズボンのポケットから財布を取り出して見る。


「一回だけなら……」


UFOキャッチャーは不得意なので普段は絶対にやらない。

だが、この時ばかりは時間を忘れて挑戦し続けてしまった。


そして、


「よ、ようやく、取れた……」


お小遣いを使い果たしたものの、ついに大好きな女幹部ヒロインのぬいぐるみをゲットしたのだ。

僕はあまりの嬉しさに両手に抱きかかえて歩いた。


今日の憂鬱な気分が一気に吹き飛んだ。


アーケード街を出る。

アーケードの内部は照明で明るかったが、外はすっかり日が沈んで暗くなっていた。


「どうせ帰っても誰もいないからな」


毎日、親の帰りは遅い。

帰っても1人で夕飯は日常だった。



僕は道路沿いを歩く。


ふと車道を見た。


猫だ。


ちょうど車道の中央をうろうろ歩いている。


「あれ、危ないんじゃないか?」


そこからは一瞬の出来事だった。


後方から走ってきたトラックに轢かれそうになった猫を助けるため僕は飛び出す。


ぬいぐるみが地面に転がった。


こうして僕は日本古来から伝わる伝統的な転生の儀式を終え、異世界へと旅つことになる。

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