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突然の窮地


ネヴィルス王国


北部 樹海



多くの木が生い茂る森林は陽の光を遮っている。

そこは開けた場所だ。

ここで僕は突然の窮地に立たされていた。


「な、なんで、この辺境の地にこんなに魔物がいるんだ……?」


僕は数百を超えるほどの魔物の群れに囲まれている。

魔物たちは森林の陰に隠れて殺気を放っていた。


僕がいまだに襲われないのは恐らく目の前にいる存在が影響しているのだろう。

数メートル先に佇む"ソレ"は他の魔物とは違って尋常ならざる雰囲気だ。


それは、どう見ても人型の魔物。

スタイリッシュな漆黒の鎧が全身を覆い尽くし、異様なドス黒いオーラを纏っている。


僕は両手持ちでダガーを前に構えた。

手足が震える。

明らかに自分が太刀打ちできるような相手ではないということは、"ギルド最弱の冒険者"と言われる僕でもわかった。


漆黒の鎧から声がした。


『下等種族の人間か。しかも、なんと弱々しい気配だ……が兵士にもなりそうもないな』


兜の中で反響する声で"性別"も"年齢"も定かでは無い。


『高貴なる魔族のわれが直々に跡形もなく灰にしてくれよう。有り難く思えよ、虫ケラ』


言って漆黒の鎧は、ゆっくりと歩みを進めた。


絶対的な死が迫る。

もうダメなのか……

それなら一か八かだ……


「"従属オビディエンス"!!」


僕は、僕が持つ唯一のスキルの名を森林全域に響き渡るような声で叫んだ。


恐る恐る、漆黒の鎧を見る。


……停止していた。


「ま、まさか……ありえない……だって相手は人語を話す魔物だ……ということは多分、"魔神クラス"だから、僕のスキルが効くはずがない」


いつもの悪い癖が発動した。

僕は死に直面してながらも今の状況を時間をかけて冷静に分析し始める。


「効いていたとするなら何を命令する?とにかく何か言わないと……そうだ!」


僕は漆黒の鎧に対して叫ぶ。


「ぶ、武装を解除しろ!」


言ってから後悔した。

もっといい命令があった気がする。


"ここからいなくなれ"

"もう二度と現れるな"


……あ、ダメだ、このスキルの対象となった相手は僕から離れなくなるんだ。


僕は頭を抱えた。


「冷静に考えても結果は変わらないのか……」


涙目になる中、不意に漆黒の鎧から声がする。


『仰せの通りに』


「……え?」


魔物は黒の兜に両手を当てて脱いだ。

露わになったのは炎のように真っ赤なロングヘア、耳の少し上に2つの短めの黒い角。

キリッとした美しい顔立ちで、見た目の年齢は20代前半といったところだろうか。


さらに魔物の動きは止まらず、全身に纏っていた黒色の鎧を脱ぎ捨てていく。

鎧が落ちるたびに重さで地面に亀裂が入り、さらに鎧は高熱を帯びているのか草花を徐々に燃やしていた。


鎧の下は、その真っ白な肌とは対局の"黒色のビキニ"のようで目のやり場に困る。


胸元はビキニがはち切れそうなほどのグラマーバスト、細身でありながら肉付きがいい体。

肌のところどころには黒い甲殻がラインを引き、お尻には短い竜の尻尾のようなものが生えていた。


「き、綺麗だ……」


ほぼ裸体となった女性の魔物は虚な目をしながら再び停止した。


僕はハッとする。


「そ、そうか、"武装解除"が終わったから次の指示を待ってるんだ……」


次の指示をすぐさま思考する。

周りの状況を見ると焦りを感じてしまう。

咄嗟とっさに僕は、


「な、名前は……?」


魔物に名前を聞いた。

またやってしまった。

女性に不慣れな自分の弱さなのか……。


彼女は一歩前に出る。

そして黒ビキニのまま豊満な胸を揺らしつつ、その場にひざまづくと頭を下げながら言った。


「魔王軍、第三総魔将フレイムネクロマンスの"イヴ・ガルハート"にございます」


僕は胸が高鳴った。

そして静かに呟く。


「イヴさん……なんて美しい名前なんだ」


「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」


"イヴ"と名乗った魔物は高揚したような声を出す。

褒められたことが素直に嬉しいようだ。


ひざまづいたままイヴは続ける。


わたくしにできることがあれば、何なりとお申し付け下さい」


それを聞いて周りを見渡す。

僕は恐らくここから生きては帰れない。

イヴに言って僕を取り囲んでいる魔物を撤退させたとしても、スキル効果が切れた時点で彼女に殺される。

ならば最後くらい自分の欲望に忠実になってもいいのではないか?


「どうせ人生最後だし……」


そう、僕に残された時間は少ないのだ。


「じゃ、じゃあ、ぼ、ぼ、ぼ、僕を……!!」


この後、僕は意を決して彼女に命令した。

するとイヴは何の躊躇もなく、


「はい、喜んで」


そう言ってから深々と頭を下げて立ち上がり、僕の方へと歩み寄る。



僕は無数の魔物の視線を浴びながら、森の中で魔王軍の女幹部と人生初の経験をした。


そもそも、なんで僕がこんな場所にいるのか……それは遡ること半年ほど前の話だ。

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